前田敦子「求められる女優になりたい」

「勉強のために映画を観ているわけではない」(前田敦子)
──でも、前田さんのお芝居は語りたくなるんですよね。山下敦弘監督や松江哲明監督が、「前田さんは、『何もしない』ができる女優」、「立っているだけのシーンで、ちゃんと『立っているだけ』ができる」と評したそうで。まさにそうなんですよね。今回の『葬式の名人』も、芝居をする上で妙に意味付けするような動作がない。
確かにそういうお芝居は心がけているかもしれません。自分でお芝居の飾り付けはしないです。あまり足し算をしない方が、私としてはいい感じにそのシーンができあがる気がする。だから自分から、「監督、こういうこともやりましょうか」はないですね。まず台本に忠実にやります。

──『葬式の名人』でいうと、工場で働いているシーンがまさにそうですよね。あのシーン、役者ならもっと動きをつけたくなるはず。でも、流れてくる製品を眺めているだけとか。でも、それで場面がきっちり成立しているんですよね。
工場で勤務する場面はまさに、おっしゃっていただいた演技の象徴的なところかもしれません。私も若干「どうしようかな・・・」と考えたんですけど、監督から「いつもの前田さんの調子で良いですよ」と言っていただいたので、余計な動作は考えないようにしました。もちろん感情面はしっかり乗せていますが、動作としては眺めているだけ。それ以上は何もしない。
──山下敦弘感監督の『もらとりあむタマ子』(2013年)でロールキャベツにかぶりつくシーンがあったじゃないですか。一口で半分くらいパクつく。あの場面も、とにかく食うだけ。でも、ちゃんとタマ子のキャラクターを体現していた。とは言っても、あれは思いも寄らない食べ方でした。お箸で切り分けたりするわけでもなく。
あの撮影のことはよく覚えています。山下監督から、「大きいロールキャベツがあるので、とりあえず食べてください」と言われて、食べただけなんです。特に演出もなかったので、そのままとりあえず食べる。そうすると、監督はうっすら笑いながら、「そういう食べ方するんですねぇ」って。でも、切れていないロールキャベツが目の前にあったら、大きく口を開けてかぶりつくしかないじゃないですか(笑)。
──ただそうしただけ、という。
食べながら、心のなかで「こんなに大きなロールキャベツを出してくるなんて!」とは思いましたよ(笑)。思っていた以上に、大きかったですから。だけど、お芝居なので「できない」とは言いたくない。私は、ものを食べるシーンは役者さんの素が入ると思うんです。だから「食べてやる」という意地が出ていた気がします。今、あのお芝居をやれと言われても、同じことは絶対にできません。
──そうそう、前田さんのお芝居は同じ印象を受けるものがまったくない。それこそ映画デビュー作が、名匠・市川準監督の『あしたの私の作り方』(2007年)でしたけど、そのときしか出せないものがある。
市川監督は本当に厳しい方だったし、私はボロボロになりました。初めての映画でしたから、「映画の世界って怖い」となりました。そのあと何年か映画から遠ざかりましたもん(苦笑)。映画のお話には逃げ腰になって、「もうやりたくない」と思っていましたから。
──それがなくなったきっかけは何だったんですか?
山下敦弘監督の作品に出たいと思うようになったことです。ちょうどそのとき、まわりから「映画をもっとたくさん観なさい」と言われて、犬童一心監督から恋愛映画のDVDをたくさんプレゼントしてもらい、「犬童監督はオトメだなぁ」と思ったり。そういえば、秋元康先生は『ベティ・ブルー』(1986年)のDVDをくださったんですよ。当時は10代だったので「え、ちょっと待ってください。秋元先生、どういう意味ですか!?」と観終わった後、戸惑いました(笑)。映画のなかのヒロインのように生き抜きなさい、ということなのかと。
──なかなか意味深ですね、『ベティ・ブルー』は(笑)。
そうなんです。それから映画を観ることに没頭して、だんだん楽しくなってきたんです。で、いろいろ観ているときに出合ったのが、山下監督の『天然コケッコー』(2007年)でした。映画を観て、その世界観を「羨ましいな」と思ったんです。そんな山下監督の作品に出演できたことが自分にとってとても大きかったです。

──そういえば5、6年くらい前、映画好きの間ではSNSを中心に「どうやら前田敦子が都内の映画館によく現れるらしいぞ」という噂が広まりましたよね。
そうらしいですね(笑)。
──役者として「映画好きである」ということはどういう作用が働きますか?
私は決して、演技の勉強のために映画を観ているわけではないです。「映画を観ていたらあっという間に時間が過ぎていく」という作品ばかりでもない。重たい映画もたくさんある。でも、どんな映画でも人に必ず受け継がれていく。それが映画。私は、今でも自分で探すより、人のおすすめを観るのが好きです。「みんな、何を観ているんだろう?」という興味がある。人が「おもしろかったよ」という感想が繋がって、誰かのもとに届き、それをまた別の誰かに伝える。それが映画ですよね。
──あと、2016年の『東京国際映画祭』のアンバサダーに就任したとき、「求められる女優になりたい」とコメントしていましたよね。今、さまざまな映画に引っ張りだこですが、その言葉は実現できているんじゃないですか。
今回の樋口監督のように「お仕事をしたい」とおっしゃってくれる方もいれば、2回目、3回目と使ってくださる監督もいて、それは大きな自信につながります。「初めまして」だけではなく、「久しぶり」と言われる機会が増えると、「あ、求められているな」とうれしくなります。「この俳優を、次は違う色に染めたい」と思ってもらうのが私たちの仕事。最近はそういうことができているという実感があります。その点では「求められる女優になりたい」という願いは、少しずつ叶っているかもしれません。
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