「洗骨」の映画人・照屋年之に迫る/前篇

「あれは映画畑やったらまず出てこない発想」(斉藤)
春岡「『born、bone、墓音。』のときには頭蓋骨だけだけど、『洗骨』ではまず妊婦さんのお腹に塗るという」
照屋監督「そうなんです。生まれてくる人と死ぬ人に、椿油を円形に塗るんです」
斉藤「あのシーンは、この映画のキモですよ」
照屋監督「ありがとうございます! 」
斉藤「水崎さんのお腹になぜ椿油を塗るのかは、あの時点では分からないんだけど『ちょっと(椿油を)貸してもらいますよ』と、亡くなった妻・恵美子さんに対して大島さんが断りを入れるんですよね。その前フリが後のシーンでガーンと効いて、みんな泣いちゃう」
照屋監督「縁起物じゃないですけど、亡くなった人の頭部を照らすこと自体、とてもいいことみたいなんですね。現地の人に聞いた話では、頭部に塗って、あの世に送るみたいな。縁起物と言うだけで、具体的には教えてくれなかったんですけど」
田辺「あの髪の毛を洗い流すあたりも、残り方にリアリティがありましたね」
照屋監督「唯一残ってるドキュメント映像を、粟国島の人が撮っていて。それでお願いして、観せてもらったんです。実際、髪の毛だけが残るんですよ」

田辺「『男は酒を飲まなきゃやってらんねえよ』って(笑)」
照屋監督「あれも、島のおばあちゃんから聞いたセリフです。全部そのまんま」
春岡「実際そうなんだろうけど、映画で観る限り、全然恐くない。すごく厳かな儀式なんだってことは、十分に伝わってくる」
照屋監督「そう、まったく恐くないです。赤の他人の頭蓋骨だったら僕も恐いんですけど、自分の親とか、親族だったらすごく愛おしいんですよ。ただ、お客さんの指摘で、『うわぁ、やっちゃった!』と思ったのがあって・・・」
田辺「どこですか?」
照屋監督「優子の出産シーンです。子どもが産まれてくるあそこを見ながら、信子おばさんが『入口を切りなさい!』って言うじゃないですか。そしたら、あちこちのSNSで、『入口って言い方はおかしいんじゃないか?』『子どもが出てくるんだから出口じゃないのか』と」」
春岡「いやぁ、たしかにそうだ! SNSや読者の指摘で負けたって思うことはめったにないけど、これは負けたな」
照屋監督「子どもが出てくるから出口なのに、あなたは男目線だから、入口って考え方ですよね、って言われたとき、僕は目から鱗でした。もう上映も始まってるから脚本を変えるわけにもいかないし、逃げ切れなかったんですけど(苦笑)。指摘してくださって、ありがとうございますと」
春岡「いやあ、男全体の反省点ですよね」
田辺「カメラアングル的にも、完全に赤ちゃんの目線ですもんね。赤ちゃんからみたら出口ですもんね」
春岡「俺、あそこのシーンで切るのは、上か下か。ああ、上か。そうかって思ってたんだよ」
──そこで喜んでるうちは、甘かったんですね(笑)。
田辺「しかも映画では、奥田さんくらい年長者でも、どちらを切っていいか戸惑うってシーンですからね。いやぁ、僕もそこには気付かなかったです」
斉藤「あと、その前に信子おばさんがギックリ腰になって、立てずにセイウチみたいに横になってる。そこで枕の代わりに『石持ってこい!』っていうシーン。僕はあれに一番感激したのね。あれは映画畑やったらまず出てこない発想だと思う」
春岡「ホント、あれはすごいよ。そして、大島さんを1回転させて、あの場所に配置するという。こっち側に恵美子さんの骸骨、もう一方に水崎さん演じる出産間近の優子がいて。優子が出産するとき、ちゃんとお母さんが見守っている構図になるんだよね」

照屋監督「そうです、その通りです」
春岡「あれは抜群! あの信子おばさんを1回転して前に動かすことで、位置関係がすごいクリアになるんだよな」
照屋監督「あの位置加減がいちばん神経使いました。どうやったら一番いいのか、あの位置が大事だったんですよ」
春岡「で、鈴木Q太郎演じる亮司が石を持ってきて、『どうですか?』って。『ちょうどいい』、『ありがとうございます!』って流れも最高で。そして、『女が命を繋ぐのよ!』と言うセリフがまたいいんだよね」
斉藤「あれがこの映画のメッセージみたいなもんだからね。だからこそ僕は、最後の筒井さんのナレーションは入れなくてもいいかなって思っちゃう」
照屋監督「それね、賛否両論あるんですよ。オープニングと最後に入れた、筒井さんのナレーション。僕も判断が難しくて。人それぞれなんですよね。要らないという人もいれば、あるからこそ『ああ、なるほどな!』って人もいると」
斉藤「前はあってもいいと思う。最後のナレーションは、キャラクターの行動と『女が命を繋ぐのよ!』でもう説明できてるかな、と。でもそれは、最後のキルショットが抜群だからそう思うのかもですが。あれは映画史に残るカット。そういえば白井佳夫さんもすごい褒めてたよね」
照屋監督「僕、それ見てないです!」
斉藤「元『キネマ旬報』の編集長ですよ。日本の映画評論家の大・大・大・大御所が『人生最高の1本』って」
照屋監督「うわぁ、ありがたいですね」
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