三木孝浩監督「日常ではない問いかけ」

2019.2.15 18:00
(写真3枚)

「選択を怠れば、前にすら進めません」(三木監督)

──本作はファンタジーだからこそ、監督の解釈を伺いたい部分がひとつあるんです。慎一郎は他人の死の運命が見えるので、ついその人を救おうとしてしまいます。ただそうすることで、別の誰かの運命が変わってしまう恐れがありますよね。

まさに、『バタフライ・エフェクト』(2005年)で語られた構造ですよね。誰かを救った結果、別の誰かを不幸にするんじゃないかという。でも、人の運命が見えてしまったその瞬間は、何が正しい行動なのか分からないと思うんです。

──なるほど。

初めて『フォルトゥナの瞳』の原作を読んだとき、東日本大震災の特番がたくさんやっていた時期でした。そのとき、ある番組で誰かを助けた人たちを取り上げていて。でも僕はこう思ったんです。その裏側にはきっと、人知れず誰かを救った人も多くいたんじゃないかって。僕らの日常は、そういう誰かによって生かされているのかも知れない。気づかないところで行動を起こしている人が必ずいる。その一方で自分は、危機的状況が目の前で起こったら行動に移せるのか。そういう自問自答を繰りかえし、「これは映画にしたい」と考えたんです。

不思議な力「フォルトゥナの瞳」を手に入れてしまった青年・慎一郎 © 2019「フォルトゥナの瞳」製作委員会

──慎一郎が誰かの運命を変えると、ある現象が起こります。それこそ、人の運命を変えてしまったことへの功罪である気がするんです。彼がすべてを背負いこむから、誰も傷つくことなく、全員救われるんじゃないかって。

確かにそう考えると、慎一郎って非常に切ないキャラクターだと思いませんか? 原作を読んだとき、まさに彼に切なさと尊さを感じました。だから今回の映画化に気持ちが乗ったんです。

──あと、人は日々何かを選択し、迷うからこそ1日でも多く生きられるんじゃないかとも思いました。そもそも僕らは毎日、危険を避けるという選択を必ず何度かおこなっていますし。

選択を怠れば、前にすら進めません。まさにそれがこの映画のテーマです。絶対に後悔がない、という生き方は難しい。選択する=後悔はつきまとうもの。その悔いの上で人生は成り立っていますよね。

──それって映画作りにも言えることですね。

それは常にありますよ。どんなに良いカットが撮れても、映画監督である以上、「こうすれば良かったんじゃないか」という欲は必ずありますし、逆にそれがないと映画は作れないでしょうし。「あぁ、さっきのシーンの撮影、OKしちゃったけど、もう1回と言っておいた方が良かったんじゃないか」とか(笑)。

「危機的状況が目の前で起こったら行動に移せるのか」を自問自答したという三木孝浩監督

──ハハハ(笑)。今回の作品で迷いが生じた瞬間はありましたか。

自分自身の作業の上ではもちろんありましたが、でも役者さんの芝居に関してはまったくありませんでした。みなさん安定感があったし、演出面での迷いはまったくなく、逆に助けられたことばかりでした。

──どんな物事でもそうですが、どうしても抗えない運命もありますよね。そういうとき、何を決断するのか。自分自身のあり方を問われる気がします。

大変な出来事が起こらないことが一番なのですが、現実はそうもいかない。だからこそ、考えておくことが必要。ファンタジー映画という、普段起こり得ない物語を観ることで、日常では得られない問いかけを自分にできると思います。

映画『フォルトゥナの瞳』

2019年2月15日(金)公開
監督:三木孝浩
出演:神木隆之介、有村架純、志尊淳、時任三郎、ほか
配給:東宝

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