カリスマ編集者演じる柄本佑「あ、自分と顔が似てるなって」

「僕はハートが女子のところがあるので(笑)」(柄本佑)
──末井青年が芸術論を語る友人役を演じられた峯田和伸さんとの共演シーンとか、けっこう濃い場面だったと思いますが。
峯田さんで2日半ぐらいの出演でしたね。
──そうですか。雑誌を取り締まる警察官役の松重豊さんとの掛け合いのシーンもいくつかありましたが。
松重さんとの共演は1日でした。あの日は昼が松重さんとの共演で、夜はダッチワイフ製作者役の嶋田久作さんとの共演というダブルヘッダーの日で。すごく楽しくて、すごく疲れました(笑)。
──そのダブルヘッダーはすごいですね(笑)。末井さんは『写真時代』のカリスマ編集長ですが、柄本さんご自身は1980年代になにか思い入れのようなものはありましたか?
いや、特にはなかったですね。ただ、昔から映画が好きで、あの頃に撮られた作品やあの頃を舞台にした作品は、例えばロマンポルノとかでたくさん観ていたので時代の空気は知っていました。
あと写真も好きで、荒木経惟さんや森山大道さんの作品はよく観ていて、今回、現場にあった『写真時代』をパラパラと見ていたら、「あ、これ知ってる!」という写真が何点か載っていたりしました。

──末井さんを演じることによって、あの時代を追体験されたわけですが、改めてなにか思われたことはありましたか?
基本的なことは、今と変わらないなって思いました。映画のなかの末井青年が「自分探し」で悶々としているのはどの時代の青春にもあることだし、そこから自分のやりたいことが少しずつ見えてきて仲間が増えていって、というのも僕自身に普通にあったことでしたし。
映画で峯田さんが演じた人と同じような友人が僕にもいて、高校のころはそいつとしか話さなかったですから。エロ本作りも、神代辰巳監督の『黒薔薇昇天』(1975年)で観ていたピンク映画作りと似てるなあと思いました。時代のエネルギーというのは、熱量に多少の違いはあるにせよ、どの時代にも常に形を変えて存在しますよね。
──演じてみて、末井さん本人に対して改めてなにか感じるところはありましたか?
基本的に「NO」のない人なんですよね。自分も膨大な借金を抱えているのに「お金貸して」って言われると貸しちゃうし、来る人はどんな人でも拒まない。いつも面白アンテナを張っていて、それに1ミリでも反応するものがあれば絶対に行ってみる。それで、その後どうなるかってことは考えずにまずやってみる。やっぱりすごい人ですよね。
──柄本さんご自身とは、顔以外で似てるなあと思われたようなことはなかったですか?
どうですかねぇ、これも自分ではわからないです。ただ、出来上がった作品を末井さんが観られて、僕のことを他人とは思えない、遠い親戚のようだとはおっしゃってくださいました(笑)。

──なるほど(笑)。奥さんを演じられた前田敦子さんとの共演はいかがでしたか?
敦ちゃんはよかったですね、不思議な色気があって。彼女は僕の弟(柄本時生)と親しいので、以前にご挨拶やドラマや映画ではないお仕事では一緒のことはあったのですが、今回初めて共演して、やっぱり女優としての魅力があるなあと思いました。
なんて言うのかな、「色気のある白いキャンパス」みたいで。監督によってどんな色にも染まるけど、本来の色気を失わない。また、きっと監督たちに自分色に染めたいと思わせるものがあるんでしょうね。冨永監督のなかにも「自分の前田敦子像」というのが在ったみたいです。「ほかの監督が撮った前田敦子は違う」なんて言ってましたから。

──末井さんにとって、最も重要な「運命の女」といえば、尾野真千子さんが演じた母親ということになるでしょうが、今回、柄本さんとは共演シーンがなかったですね。
ええ。共演はしていませんが、今回の尾野真千子さん、キレイだったですねぇ。映画を観て客観的にそう思いました。
──冨永監督の演出についてはどう思われましたか?
毎日楽しかったし、安心して任せていられる現場でした。冨永監督は、作品に関して確固としたものがすでに出来上がっていて、だから現場でシーンが増えても迷いがないし、役者の裁量も認めてくれる。冨永監督の作品はどれも独特の色気とリズムと作劇があって、それはきっと冨永監督の確信からきているような気がします。そういう意味で男らしいんですよ。僕はハートが女子のところがあるので、頼もしかったですね(笑)。
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