白石和彌監督「共感する映画、楽しい?」

2017.10.28 21:00
(写真7枚)

「今のお客さんにはキツいだろうなと」(白石監督)

──その國枝に何故かヘイコラする黒崎(竹野内豊)も、突発的に暴力的になるのが恐ろしい。

たぶん真面目で、でもテンパりやすいんでしょうね。単純に言うと。それに十和子のことは好きだけど、自分のことが一番であるという。それにしても、あそこで暴力にいけるのかなってことに多少の疑問はあったんです。で、「別れようと思う」って車のなかで喋ってるときに、外でなぜか喧嘩してるサラリーマンと学生、というのを設定して。人の喧嘩って、街でやっててもイラつくじゃないですか。そういう感じとかがあると殴りやすいかなと思って、前日に思いついて急遽用意してもらったんですけどね。

──うん、向上心が強いくせに自分のやっていることにイマイチ自信がなくて。上からのプレッシャーには逆らえないし。

向上心が強いのは間違いないと思うんですよ。でも基本、やることが上手くいってないんでしょうね(笑)。

──何をやってもダメ、という感じはしますね。だから、飄々としたところがある竹野内さんみたいな方が演られると、あんな暴力的な行動に出てもなぜか笑えるっていう。基本この映画、僕はコメディ映画的に観たんですよ。

そうなんです。滑稽だと思います。僕も笑えるところがいっぱいあると思ってて。

8年前に別れた男・黒崎(竹野内豊)のことが忘れらない女・十和子(蒼井優) © 2017映画「彼女がその名を知らない鳥たち」製作委員会

──十和子というキャラクターにしたってクレイマーだし。昔、黒崎とハメ撮りしたビデオを観てる、ってところも可笑しくて。

どこまでお前ダメなんだよ、って(笑)。あんな暴力受けた後にリベンジポルノの映像を心の拠り所にしているって、本当、酷い話ですよね。でも、十分あり得ると思います。

──なのに陣治に依存している。陣治も依存されて喜んでるっていうところが、またマゾヒスト的で。

でも不思議なのは、十和子が重大な局面を迎えてから、この生活というのは始まってるわけじゃないですか。だからこそ濃密な関係になったんだろうなというのはあるんですけど。そこに至るまではギャグみたいな話で、「お前、もうちょっと早く気づけよ」って思うし(笑)。それに、これはもう取り返しのつかない話。本当に十和子なんて陣治がああなってからやっと気づく。

──いや、このあと十和子は大変だろうと思うんですけども。

どこまで愚かな女なんだろうと思いますね。解決しているようで、実際何も解決してないじゃないですか。そんな感じも余韻に繋がるのかなと。

──核心というか、結末に近い話になりますが。原作に則ってはいるんですけど、確かに「ほっぽりだした感」がかなりあるんですよねぇ。

ラストは若干、あれでいいのかな?と思ったんですけど、何回か読んで「これしかないんだろうな」と腹をくくれたところもあります。陣治がふたりの関係を完結させるためにはああいうことをしないと。スッと終わらせる方法論もあったんですけれど、たぶん今のお客さんにはキツいだろうなと。それで十和子との思い出が走馬燈のように2人の頭のなかによぎるという方法を思いついて、これだったらある程度のお客さんに納得してもらえるかなという計算はありました。

──原作は、ある種ミステリー的なフォルムを持っていますけど、まあ、本としては時系列で語って充分成立しますよね。でも、ああいう風に順列を変えた叙述のほうがむしろ・・・。

映画としては正解だったのかなと思いますけど。

© 2017映画「彼女がその名を知らない鳥たち」製作委員会

──脚本の摺り合わせはどういう風にされたんですか? (脚本を担当した)浅野妙子さん(テレビドラマ『ラブジェネレーション』『ラスト・フレンズ』など)とは初めてですよね?

初めてです。僕は共同脚本としてやるときも、脚本に名前が載ってないときも、わりと顔を突きつけ合う時間を取るんですが、今回はそれができなくて。でもベテランの方なので、言ったことはちゃんと網羅してきてくれるのと、筆が速かったので何度もできたというのはありました。

──正直、白石色が強くて。最後のクレジットを見て「あ、浅野さんなんだ」とちょっと驚いたくらいで。

撮影が迫ってから撮影場所の都合などもあって、だいぶ書き換えたりしちゃったというのはありますけどね。

──それに正直、沼田まほかるさんの小説ってやっぱり、あの年代の方が書かれたものだと思うんです。2000年代に入ってからデビューされたんで、もっと若い作家という印象があったのですが(原作者は1948年大阪生まれ)。

原作には、陣治の幼少の頃の思い出っていうのが出てくるんですけれども、倒れて死んだ牛を見たとか、沢蟹がどうしたとか、ふやけたうどんを食べたとか、バナナが高かったとか、とにかく時代感を凄く古くしている。戦後すぐとか、もしかしたら戦前?みたいなそんな印象を受ける。もちろん狙いをもってあえてそうしてると思うんですが。

──(吉高由里子主演で映画化された)『ユリゴコロ』とかもそうなんですけど、とても十何年前の話には思えないんですよね。それは彼女の世界が好きな人には全然OKなんだろうけど、僕はどうしても引っかかるんですよね(笑)。そんな部分が映画にはまったく出てこなかった。賢明だと思いました。

ええ、フラットにはしましたね。

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