行定勲監督も絶賛「松本潤が映画を広げてくれる」(後篇)

高校教師とその生徒だった2人が、時が経ち、再会した後に一生に一度しか巡り会えない究極の恋に落ちる・・・。島本理生の代表作を、行定勲監督が映画化した『ナラタージュ』がいよいよ公開される。教師・葉山に嵐・松本潤、生徒・泉に有村架純という「12年待った」配役のほか、「(自分の)集大成だと思っている」と言い切る監督に本作について、映画評論家・ミルクマン斉藤がインタビュー! その後篇をどうぞ。
取材・文/ミルクマン斉藤
「今の世の中って、不倫だゲスだと」(行定監督)
──泉と葉山の2人は、最後の最後までセックスに至らないわけですが、『隣の女』のシーンから非常にエロティックな雰囲気がずーっと流れ続けているんですね。葉山ひとりが時間を止めていて、けっきょく泉もそれに囚われてしまうわけなんだけれど・・・、そんな停滞した関係性が続く途中で、泉は名画館で映画を観るんですが、そこに監督はなんと、成瀬巳喜男の『浮雲』を引用してしまうわけですよね(笑)。
これはなんというか・・・教育するつもりはないし、ちょっとわかりやす過ぎるかと悩んだんですけどね(笑)。僕は明らかに成瀬に影響を受けた人間だけど、キャストに惹かれて若い人がこの映画を観るわけでしょ? でも、わからなさがいっぱいあるなかで、勘がいい人だと絶対にヒントをどこかに探すわけですよ。「あの『浮雲』って映画観てみようかな」って。で、観た人はきっと「なんだこりゃ、こんなの観たことない」と(笑)。
──絶対に思いますよね。日本映画史上、いや世界映画史上、あんなにどうしようもなく業の深い恋愛映画はないわけだし。
戦後すぐの話だから、今の若い人たちからは遠く離れた話なんだけど。男と女の不毛な、停滞し続ける2人の関係性。活路も見い出せず、前に進もうとしてもどっちに向かえばいいのかわからない。(主演の高峰秀子と森雅之の2人は)「俺たちどこへ行こうか?」って、冒頭から言ってるわけだからね(笑)。そんな映画を初めて泉が観たときに、まさに自分たちと重ね合わせて「私たちはどこに行けばいいんだろうか?」と。観たあとにすぐ葉山と会うんだけど、彼も泉を連れ出すことさえできない自分を思う。そういうのがあそこに示唆されればいいなとは思いましたね。

──実際、10歳くらい離れた男女の話だし、「付いてこないほうがいい。君のためを思って言ってるんだ」とずっと言い訳しつづけるズルい駄目男の話ですからね(笑)。
おんなじですよね(笑)。ウチのカミさんが、この映画の試写を観て「『浮雲』だったね」って(笑)。「でも、今の時代にマッチしてるような気もするし、こういうの。今の映画に無いよね」って。
──『浮雲』の2人、は、映画に直接は描かれないけど間違いなくセックスで繋がった腐れ縁ですよね。でも、『ナラタージュ』の泉と葉山は、じれったいくらい性的関係がなくて、ある意味まっとうにセックスで繋がろうとする小野(坂口健太郎)は結局拒否られてしまうという理不尽さがなんとも(笑)。
そうなんですよね。小野っていう造形の設計は、脚本家の堀泉がすごく固執したところで。要するに、泉と葉山の、男と女のどうしようもない不可解さが、小野がいることによって浮き彫りになるという。小野はちゃんと手順も踏んで、正解を求めようとするのに(泉と葉山の不可解な関係性に)狂わされていくんですよね。これは現代という時代に対する、脚本家としての「アンチテーゼ」なんですよ。

──なるほど。
今の世の中って、不倫だゲスだと、そんな馬鹿みたいな言葉で恋愛が片付けられてしまう時代じゃないですか。葉山も、今の言葉でいうとゲス男なんですよね。でも本当にそうなの? いろんなリスクを冒しながら、みんな恋愛に向かい合っているんだよ、と。なぜ誰もちゃんと釈明できないかというと、そもそも釈明する必要がないからですよ。社会の表層、上澄みだけを拾って喜んでいるようなところから、世の中が逸脱していって欲しいなと俺は思ってるんです。
──いや、まったくもってその通り。
だから、ラブストーリーはもっと不可解でいいだろうし、そうなっていくべきだと思う。だって2人にしかわからないことだから。でも、これに近いものをやろうとすると『昼顔』みたいになっちゃうのね。あれはあれでもちろんいいんだけど、どっちかというとカルトですよね。だけど僕の場合、その映画が観る人それぞれの鏡になるような、もっと正当的なものを作りたいんです。その映画で描かれた恋愛が理解できなかった人はどうしてわからなかったのか。身につまされた人はどうして共感できたか。そういうことをいつまでもみんなで話していられるような映画を。
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