柴崎友香、よう知らんけど日記。第108回

2017.5.31 10:00

10月☆日
アメリカ食べ物小ネタ集。
初日の説明会のときに、質問で真っ先に「アマゾンの送り先はどこにしたらいいですか?」というのが出て、今っぽいなあ、と思った。3年前に参加した谷崎由依さんに、持って行った方がいいものとか聞いてたら「アマゾンも使えますよ」と返信にあって、そうやんな、いくら田舎やからって現代アメリカ、アマゾンさえあればなんでもあるし、と思ってた。ところが! なんでもあるんはあるけど、届くのがめっちゃ日数かかる! 10日とか2週間! プライムに入っても、たいていのものは日本みたいに即日、翌日なんてありえへん。送料も高い! そら、アメリカの国土は広いし、日本みたいに交通網も整備されてないのはわかってたけど、ユニクロUSAも普通に頼んだらアイオワに届くのは10日後ぐらい(送料は600円ぐらい。エクスプレスいうのにしたら2500円ぐらいかかって2日、その次が送料2000円ぐらいで3日後、と2017年5月時点ではなってます)。サイトで荷物追跡見てたら、あー、今日はケンタッキー州か~、とのんびり双六な感じ。ほかのネット通販でも買い物しようかと思ったら、買えば買うほど送料が高くなる(日本やと5,000円以上買うたら無料とかやん?)システムにビビり、しかも日本発行のクレジットカードは使われへんかったり、住所が登録できへんかったり……。
日本では、やっと宅配便の負担かかりすぎ問題が注目されてきたけど、ほんま、翌日に届いて送料無料とか、無理しすぎですわ……。

10月☆日
参加してる作家のうち、英語ネイティブ、またはそれに近い人も結構いて、スラングとかも普通に使いこなしてはる。よく一緒に行動してたシンガポールの詩人(28歳男子)も、中国系やけど第一言語は英語で、めっちゃ達者。横で聞いてて「なるほど、英語ではそう言うのんか」と勉強になること多かってんけど、「オー・マイ・ガーシュ!」て言うてるのが気になった。ガッシュ?? ゴッドとはまたちゃうの? 検索してみたら、近年は「神」てやたら言うのはちょっとアレちゃう? てことで、ガッシュ(gosh 特に意味はない)に変えてるらしい。マジで? 気をつけて聞いてたら、アメリカ人の学生も、映画でもYouTubeでもみんな言うてるわ! ガーッシュ、って! アメリカって、映画、ドラマ、音楽その他、文化情報どんどん入ってきてわかってるつもりになってたけど、知らんことようさんあるなあ。

10月☆日
部屋にはテレビがあるんやけど、チャンネルが多すぎてどこでなにやってんのんかさっぱりわからん。とりあえず、CNNとかABCとかニュース系はわかったけど、スパニッシュ専門とか、テレビショッピングもぎょうさんありすぎやし(Nutri NINJA ていうミキサーめっちゃ売ってた)、番組表もないから人気番組とか発見できず。適当にチャンネル変えてて気に入ったのが『密着、警察24時』的なやつ。でも、日本のと違ってナレーションも煽りもなく、ひたすら淡々と警察について行って、逮捕、事情聴取、逮捕、事情聴取……。しかもぼかし・モザイク全然なし。ドラッグ関連がほとんどやったけど、まあなんていうか、アメリカ大変やな、と。あと、2回しか見られへんかったけど、スヌープ・ドッグがマーサ・スチュワートにパーティー料理を教えてもらう番組とかやってた。日本でいうたらZeebraと栗原はるみみたいな組み合わせ? あ、でもマーサ・スチュワートって刑務所行ってたか。

10月☆日
ダウンタウンに[OSAKA]ていう店がある。どうみても中華料理店。入ったら、一応スシもあったけど、やっぱりメインは中華。店の人に聞いてみたら、前のオーナーは日本人で、日本料理店やったらしい。ということで店の内装もJAPANのまま。幕の内弁当的なものとか天ぷらもあり、そしてメニューページに「ジャパニーズソーダ」という謎の飲み物が。もちろん、頼みました。出てきたのは、なんと「サンガリア」のラムネ。しかも、いちご味。こんなアメリカの田舎のど真ん中で「いち、にい、サンガリア!」に出会うとは……。そしてもちろん、周りの誰にも通じなくてさびしいサンガリア。このあと、ほかの街でも見かけました。

10月☆日
大学から離れた場所(スーパーとかイベント会場とか)に行くときは、たいてい大学院生が運転してくれる車に分乗する。助手席に座ったので、運転席のアイオワ育ちの20代男子とちょっと話す。日本語は2つだけ知ってる、というので聞いてみると、1つは「なに?」、そしてもう1つは「おまえはもう、死んでいる」。うーん、それ、使う場面めっちゃ限られてるね。

世界中、若い人が知ってる日本の文化はたいていアニメやね。今までアメリカでイベントやったときも日本文化にはまったきっかけは『犬夜叉』とか、アイオワ大学でわたしの小説の翻訳してくれた子も『るろうに剣心』とか『タイバニ』とか大好きやし。学部の日本語の授業に出てた中国人留学生の男子は完全に日本の萌え系好きと変わらなくて、自分で書いたラノベを読ませてくれて、それはもう完璧なラノベ文体(もちろん日本語)で感動しました。

10月☆日
日本のアニメといえば、いちばん驚いたのはフィリピンの作家の話。わたしより2つ下の小説家やねんけど、最初にわたしが日本人やって言うたら、「ボルテスファイブ!」とよろこんでテーマ曲を日本語で歌ってくれた。なんでも、80年代のフィリピンで初めて放送された日本のアニメが『ボルテスⅤ』で、それはもう異常な人気が出て視聴率60%とかになり社会現象状態。大人たちが苦情を申し立て、マルコス大統領の独断で最終回が放送中止になったそうな。知らんかった……。

10月☆日
金曜日の朗読の時間、窓の外、向かいの建物の前で女子学生たちが記念撮影をしている。みんな、金髪ロングヘアに青色のノースリーブミニスカワンピで、チアリーディング部かなんかかな? と思って見てたら、同じ格好の子がぞろぞろぞろぞろ増えてきた。そして、建物の入り口、左右に10人ぐらいずつずらっと並び、髪型はいっしょやけどワンピの柄が違う子たちが1人ずつそこに入っていく……。あー!! これは!! ソロリティや!! 映画とかドラマとか、池田理代子の漫画『おにいさまへ…』に出てくる、選ばれた女子学生だけが入れる謎の組織、ソロリティ!! しかもその入会式やん!!! ほんまにあるんや~!! 気になりすぎて朗読全然聞けずでした……。すんません。いやー、それにしても、まじでみんな同じ髪型、スタイルで、衝撃でした。そして結局なにをする会かわからないのでした。

10月☆日
前からアメリカで気になっていたもの、それは「ZEN」。日本といえば「ZEN」。なにかと言えば「ZEN」て言われる。こんまりの「ときめく片づけ」本、アメリカで大ベストセラーなんやけど、あれもやっぱり「ZEN」ぽく見られてるらしい。なんかどうも、シンプル=ZENと思われてるフシがあり、インテリアショップでもやたら「ZEN」の文字を目にするけど、ただミニマム系インテリアで赤いソファとか置いてあったりして、赤いソファで禅て? と日本人的には思うし、日本ではふだんの生活に禅とか考えへんよ、と言うと驚かれたり……。メディテーション(瞑想)も流行ってるし。西洋の人は東アジア=仏教=ピースフルとか慈愛みたいな過剰な期待を持ってはる人も多そうやなあ、と感じるけど、わたしだって彼らから見たら西洋の文化や民主主義みたいなものに過剰に期待してるのやろうなとも思う。

10月☆日
アメリカはクレジットカード、デビットカードなど基本カードで支払う。アイオワにいる間、日当が振り込まれる口座のデビットカードを作ってもらってて、基本それで水1本買うときも払っててんけど、便利やね。特に、アメリカの小銭めっちゃややこしいので(なんでコインに数字書いてないねん! クォーターとかダイムとかアルファベットでちいちゃく薄く書いてあっても全然見えん)、レジであわてなくて済む。その一方、チップ用に1ドル紙幣は必要やし、自販機や洗濯機にはクウォーター(25セント)ようさんいるし(自販機の類はこのクォーターしか使えない)、アメリカの人はそれをどこで調達しているのか、謎やわ。

柴崎友香(しばさき・ともか)
1973年大阪生まれ。映画化された『きょうのできごと』で作家デビュー。2007年に『その街の今は』で第57回芸術選推奨科学大臣新人賞、第23回織田作之助賞大賞、第24回咲くやこの花賞受賞。2010年に『寝ても覚めても』で第32回野間文芸新人賞受賞。2014年に『春の庭』で第151回芥川龍之介賞受賞。著書に『青空感傷ツアー』『フルタイムライフ』『また会う日まで』『星のしるし』『ドリーマーズ』『よそ見津々』『ビリジアン』『虹色と幸運』『わたしがいなかった街で』等多数。
公式サイト:http://shiba-to.com

権田直博(ごんだ・なおひろ)
1981年大阪生まれ。画家。さまざまな手法を使って作品を作り、すべてを絵ととらえている。
風呂からパブリックスペースまで幅広く活動中。
キレイ:http://naohirogonda.tumblr.com  風呂ンティア:http://frontier-spiritus.blogspot.jp/

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