石井裕也監督「到達点ではなく出発点」

「池松くんの『万能性』を奪ってみたかった」(石井裕也監督)
──あとはキャラクターの肉づけですね。その意味で今回、池松さんは左目がほとんど見えない青年という設定になっています。これはどこからの発想だったのですか?
ふたつ理由があります。ひとつは、今の時代の気分として「世界の全貌なんてもはや視ることはできない、視させてはもらえない」というのがあるじゃないですか、それを自分なりに表現してみたかったということ。もうひとつは、池松くんが持っている「万能性」みたいなものから、なにかを奪ってみたかったんです。例えば「自由」とか。制約とか制限を与えたときに見えてくる、新しい池松壮亮に期待したというか。
──その話をうかがって、以前、マキノ雅弘監督に聞いた話を思い出しました。マキノ監督も俳優になにか個性を持たせようとするとき、ある種の不自由さを与えるんですね、身体の一部が動かしにくいといった。するとそこに思わぬ色気が生まれたりして俳優が光ることが多い。確かに今の池松さんにはできないことなど、なさそうですものね。
そうです。それと池松くんの「万能性」を奪う仕掛けをもうひとつ施しました。それは彼の「お喋り」。

──ああ、そうですね。特に前半、池松さんがほとんど意味をなさないような話を早口で捲し立てるシーン、あれがそうですね。
ええ。ただ、あの表現にも、彼の「万能性」を奪うことのほかに、僕が思う今の時代への思いも付与しています。それは「言葉」が本来の意味を失いつつあるのではないかということ。例えば「愛してる」と言えば、言葉通りに伝わった時代もきっとあったのだろうけれど、いまは「愛してる」には疑念しかなくて、「愛」という言葉が出たとたんに疑ってしまうというように。
──人間が言葉を見放したのか、言葉が人間を見放したのか。
そう、ともかく言葉の価値が低下している。そういう「モヤモヤ感」もまた、言葉ではうまく言い表せない。「虚しい」とか「悲しい」とか「寂しい」に近いのだけれど、こういった言葉と言葉の間にこびりついた感情がモヤモヤさせるわけです。そして、そのモヤモヤをそれでも言葉を使ってすくい取ろうとしたのが、最果さんの詩だと思うんです。それは映画でも踏襲したいと思いました。いままで、言葉にならないからと切り捨ててきた感情とか気分といったものを捉えてみたかったんです。

──ということは、監督が今の時代に感じているさまざまな思いを採り込みながら、最果さんの詩の世界を映画で再構築しようと試みたということですか。
いや、そうではないです。最果さんの詩は、映画の到達点ではなくあくまでも出発点なんです。最果さんの詩から僕が何を感じたか、どこを揺さぶられたか、そういうものが今回はとても大切だと思いました。つまり僕の感性もしっかりミックスさせている。それが孫プロデューサーからの課題への答えだったと思っています。
──なるほど。そこで生まれたのが池松さんに演じてもらったキャラクターだったわけですね。実際に池松さんの現場での印象はどうでしたか?
少し困っているみたいでした(笑)。でも、それが魅力的なんですよ。彼が現場で困っているだけで価値がある。僕は、この映画はすごくやさしい映画に仕上がったと思っているのですが、それは池松くんの存在に拠るところが大きいですね。
『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』
2017年5月27日(土)公開
監督・脚本:石井裕也
出演:石橋静河、池松壮亮、市川実日子、松田龍平、田中哲司
配給:東京テアトル、リトルモア
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