深川栄洋「キャリアをリセットしようと」

特殊な能力を持つ高校生たちが、自らの未来を切り開くために疾走する──。河野裕原作の『サクラダリセット』が、野村周平、黒島結菜、平祐奈をキャストに実写映画化された。監督は『60歳のラブレター』(2009年)、『洋菓子店コアンドル』(2011年)、『神様のカルテ』シリーズ(2011年、2014年)など、人と人がつながるドラマを情感あふれる演出で魅せる深川栄洋。久しぶりに若い俳優とのコラボとなった今作での意気込みを訊いた。
取材・文/春岡勇二
「デジタル世代との関係を考えてみたいと」(深川栄洋)
──原作はカルト的な人気を誇る、河野裕によるライトノベルシリーズですが、初めて読まれたときの感想から教えてもらえますか。
面白かったですね。僕とは違う着眼点でものを視ているし、物語の構成も違うやり方がなされていた。初めは少年少女の恋愛ものかと思ったら違っていたし。なにより惹かれたのは、登場する若者たちが「青春の罪悪感」みたいなものを感じている気がした点です。僕もかつて同じような気持ちを持っていたので。
──罪悪感ですか?
そうです。なにも悪いことをしているわけではないのに、なにか罪なものを感じて苦しい。例えば自分の言動に「嘘」を感じて自分が許せないとか、生きることそのものに罪を感じる・・・とか。それを、特に浅井ケイという主人公が抱いている気がしたんです。そう思って読んでいくと、事件か事故かわからないけれども、彼はこれで罪を感じたのだなという出来事もあったりする。
──なるほど。
でも、たとえそういった出来事がなくても、10代の頃には、罪の意識を持つというのは普遍的なことではないかと思うんです。そして、それはこれまでも多くの小説や映画で描かれてきた。例えば、中上健次の『蛇淫』を映画化した長谷川和彦監督の『青春の殺人者』(1976年)とか、石原慎太郎の『太陽の季節』や『処刑の部屋』とか、三島由紀夫の『金閣寺』など。なにかこれらの作品に通じるものがこの原作にはある気がして、興味がわきました。
──10代の罪の意識というのは、なんとなくわかる気がします。社会や体制、あるいは自分自身への怒りや憤り、またなにかしなくてはという焦燥感とごちゃ混ぜになった感情で。
それが顕在化したのが、50年前の学生運動だったように思います。それが挫折し、敗北した。それをずっとひきずって、今の日本がある。この原作は現代の若者たちが主人公の物語ですが、その奥にこういった背景を感じたんです。また、現代の若者を描く意味でもちょっと変わったアプローチができるかなと思いました。
──具体的には、どういうことでしょうか?
この物語の主人公たちはそれぞれ不思議な能力を持っています。すべてのことを記憶する力であったり、過去3日の決まったところまで時間を巻き戻す力とか。それらは特殊な力ですが、現代の若者である彼らはそれとは別の力も持っている。それはスマホを自在に扱ったり、SNSなどインターネット環境をなんら身構えることなしに使うことができること。それはごく当たり前のことですが、それと特殊な能力と、彼らよりも上の世代から観れば同じような力として捉えられることです。そして、上の世代は、そういった力が便利なのはわかっているけれども、同時に大切なものを失わせる危険をはらんでいると認識している。そのギャップからのアプローチですね。
──なるほど。映画の後編には及川光博さん演じる、人間には特殊な能力なんてない方がいいんだという考えを持つ人物が登場しますが、正直言って、同じ上の世代である僕などは彼に賛成です。
実は僕もそうです(笑)。そういうところからも、この原作の映画化は面白かったです。脚本も僕が書いたのですが、物語の出来事や展開は原作に沿いながら、自分の軸足は及川さん側に置いた形で書きました。それで思ったのは、主人公の少年たちは特殊な能力を持ってはいるけれど、それぞれ欠落した部分があり、それを補填するものとして能力を有しているのではないかということ。そしてさらに、浅井ケイなどはすでに能力で欠落を補填しようとしてもできないことに気づき始めている。それはいわば便利なだけではなく、危険や不都合な部分も併せもつスマホやネット環境に対してきちんとした対応能力や柔軟性を持った世代が登場してきたことを示すんです。

──いわゆるデジタルネイティブ第2世代ですね。
そうです。それは、おそらくこの映画を観に来てくださる中高生の人たちと重なると思います。だから、そういった人たちに対応能力や柔軟性、さらに希望をもって未来を切り開いてほしい。自分たちが未来をつくるんだと思ってほしい、というのがこの作品のテーマなんです。
──この映画でやってみたかったこと、製作の狙いみたいなものは、ほかにありますか?
そうですね。一度、自分の映画監督としてのキャリアを「リセット」してみたかったということでしょうか。
──というと?
今回のプロデューサーは、僕の2010年の作品『半分の月がのぼる空』を観て、僕にこの仕事をオファーしてくれたのですが、僕も40歳になって、ここで一度原点回帰というか、あの作品からの6年間を考えてみたかったんです。あの作品が僕の青春映画の原点であった印をここで一度刻んでみたいという、そういう気持ちでした。
──高校の文化祭のシーンとか、屋上での会話とか、『半分の・・・』と似たシーンがいくつか見受けられました。
ええ。実はあの作品以後、高校生を主人公にした作品は、いくつもお話はいただいたのですが、断っていたんです。それは自分よりも上の世代の方と仕事したいと思っていたことと、少し下の世代のことをわかったフリして仕事するのもどうかなっていう思いがあって。それがここにきて、年齢も半分くらいで、デジタル能力を自然に備えている世代との関係を考えてみたいと思ったんです。
映画『サクラダリセット 前篇/後篇』
前篇=2017年3月25日(土)公開、後篇=5月13日(土)公開
監督・脚本:深川栄洋
出演:野村周平、黒島結菜、平 祐奈、健太郎、玉城ティナ、恒松祐里、ほか
配給:ショウゲート
TOHOシネマズ 梅田ほかで上映
© 2017映画「サクラダリセット」製作委員会
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