河瀬直美監督が目論む、奈良から世界へ

『なら国際映画祭』のエグゼクティブディレクターをつとめる河瀬直美監督
歴史都市・奈良に映画人が集う、『なら国際映画祭』が9月17日に幕を開ける。エグゼクティブディレクターをつとめるのは、世界三大映画祭のひとつ『カンヌ国際映画祭』で、今年2つの部門の審査委員長を務めた河瀬直美監督だ。同映画祭で、1997年に『萌の朱雀』でカメラ・ドール(新人監督賞)を史上最年少で獲得、2007年には『殯(もがり)の森』で最高賞に次ぐグランプリに輝いた。地元・奈良での映画祭開催に強い思いを持つのはなぜか。河瀬監督に話を訊いた。
「この映画祭から、新しい才能を発掘していく」(河瀬直美)
──2010年から隔年で行われてきた『なら国際映画祭』、その4回目がまもなく開幕します。まず、映画祭を奈良で開催することに、監督自身が強い想いを抱かれて突き進んできたと思うのですが、そのこだわりについてお聞かせください。
「映画祭」というのは、映画作家・河瀬直美を育ててくれた場所でもあるので、カンヌだけじゃなくて、自分の故郷にもそういう場があればいいなと考えました。あるとき、あれはフランスのマルセイユ映画祭だったと記憶してるんですが、そこでボランティアの若い子たちが「自分の町が好きだから、ここで開催する映画祭に関わっている」と言ったことが非常に印象的で。その感覚って、日本の若者にはあるかなぁと。田舎では何もできないといって、すぐ都会に目を向けてしまう。そうではなくて、自分の場所で足元を掘り下げて物事に向きあうことの方が健全な気がして。「奈良」は歴史的な街ですが、地方都市でもあり、経済優先の考え方では良さを見出す事が困難です。そこにある宝物をきちんと自らの目で見出し、誇りを持つ事、それは私にとって、映画監督以外のもうひとつのライフワークとも言えます。
──奈良に住みながら、国際的に活躍する河瀨監督だからこそ説得力があります。奈良も、若者が都市部へ流れ出して行く深刻な事態なのですか?
もはや、全国どこも同じなのではないでしょうか。息子の学校は中心市街地にありますが、1学年1クラスしかない。ドーナツ化現象ですね。
──これまで、奈良の地元の人、なかでも若い人たちと一緒に映画祭を作ってこられたと思うのですが、その監督の想いがカタチとなって現れていますか?
そうですね。ボランティアの数は200人を超えていて、近郊の大学生たちを中心に、国際的な交流もどんどん増えてきました。国際コミュニケーション関連の学科が増えて、そこの子たちがインターンで関わりだしたり、地元の小学校でワークショップを行ったり。そういう感じで次第に映画祭に関わる人の輪は広がってますね。今年、奈良市の助成金カットがあってから、「この映画祭を絶やしちゃダメだ!」と思い支援してくださる方がさらに増えてきました。
──奈良市からの補助金がカットされたことに対し、映画祭に関わるスタッフの強い思いが、ピンチをチャンスにしたと?
そう、まさにそうですね。

──今回、これまでにない規模、日数で行われるわけですが、そうなると、これまで以上にスタッフや予算の部分で、大きな負担も出てきます。このピンチをチャンスにした大きな転換点はどこにあったんですか?
ちゃんとした結果を残して、それを成果としてご報告差し上げるチャンスをいただいたと思っています。今回、国からは文化庁の「芸術文化振興基金」と「国際交流基金アジアセンター」、経済産業省の「J−LOP(ジェイロップ)」から助成金をいただくことができました。結果的に国の支援を手厚くいただけたので、良かったと思っています。
──奈良という土地、そこに住む人々。そこに監督自身がすごくポテンシャルを感じているのが分かります。それを映画祭というフィルターを通して、いろんな可能性に触れて欲しいというわけですが、この『なら国際映画祭』ならではの試みはなんでしょうか?
今回は、日本の新人監督の発掘ですね。俳優の別所哲也さんが代表をつとめる、国際短篇映画祭『ショートショートフィルムフェスティバル&アジア』と春ぐらいから仕掛けているんです。ちょっと遡りますが、『釜山国際映画祭』の中心人物に、「最近、日本の映画どう思いますか?」って訊いたときがあったんですね。そしたら、「いい作品を見つけるのが困難」と言われて。映画は作っていたけれども、上映ができないという例が多々あります。
──上映できても、レイト枠だったり、長くて2週間ということも多いですね。
そうなんです。興行として回収できないんですよ。そうなると、クリエイターは映画を作るために、余計な労力を強いられる。それはクリエイターの欲求をもぎ取るんですね。それを釜山の映画人の言葉からすごく感じたんです。カンヌでも、最近セレクトされる日本映画はだいたいこの監督、と決まっていて、新しい才能が出てこれない。今年は深田晃司監督が出てくれたけど(「ある視点」部門審査員賞・『淵に立つ』)、深田監督のワールドセールスも製作会社も、私の映画『あん』(2015年)と同じなんですよね。その枠組みじゃないと国際的な評価を伴わない、っておかしくないですか?

『なら国際映画祭2016』
期間:2016年9月17日(土)〜22日(祝・木)
会場:春日大社、春日野園地、ならまちセンター、ホテルサンルート奈良、鹿の舟 -繭-、ほか
料金:プログラムにより異なる(詳細は公式サイトにて)
電話:0742-95-5780
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