辰吉と阪本監督だけの20年の距離感

「変わらない『辰吉丈一郎』を前にすると、自分自身も初打席に戻される」(阪本順治)
1人の天才ボクサーに惚れ込んだ阪本監督の視線を、カメラを通して観客が追体験する構図。無防備な笑顔の辰吉に、「負けた時の心境」、「なぜ引退しないのか」、「今後の展望」・・・突っ込んだ質問を投げかけ、その反応を伺うキャッチボール。普通ならば踏み込む事をためらうようなエリアに、映画は一瞬で懐に踏み込み、言葉の拳を繰り出す。終始穏やかながらも、その様子は、ボクシングの試合にも似ていると思った。真正面から、素手でぶつかり合う・・・というのは、男性ならではの友情の形なのか。羨ましくもある。「女性はどうなのか解らないけどさ、世の男どもは、基本的にメンタル面はホモなんだよ(笑)。『女に惚れる』と『男に惚れる』は意味が違うけど、恋と友情って、実はすごく近いから。惹かれた相手を尊重するということ。ベタベタした関係じゃなくてね」(阪本)。
劇中のインタビューでは、ボクサーとしてだけでなく、父親としての辰吉も垣間見られる。「結果的にそうなったかもしれないけど、僕は『家族を撮ろう』と思った事は一度もないよ。外から見てる人間が、『これが家族だ!』なんてやったらおこがましいでしょ。テーマは、後から見えてくるもの。最初から決めて撮っちゃダメなんだ」(阪本)。そこには、映画の神様の援護射撃もあったようで、「辰吉くんの口から家族の話が出ると、まるでタイミングを見計らったみたいに、子どもたちが駆け寄って来たり、公園で遊び始めたりするんだ。全部偶然。結果的にそういう画が撮れたのは、僕の映画監督としての運。逆にこれだけしか撮ってないのも、僕の運。撮るべきものを撮らされてたんだろうね」(阪本)。
とはいえ、自主映画で20年も追い続けるのは、実はとてつもないこと。「まあ、流行りのスタイルじゃないけど、こういう映画があって然るべきだし、僕はこういうもので成功したい。ボクシングを知らない人が見て、辰吉くんのなかに何かを見つけて、巻き込まれてくれたらうれしい。この20年、劇映画もたくさん撮ったけど、その喧噪や集団作業に疲れたとき、お馴染みのスタッフと3人で大阪へ来て、辰吉くんにカメラを据えると、なんだかホッとした。年齢を重ねてもずっと変わらない『辰吉丈一郎』を前に、自分自身も初打席に戻されるような・・・リセットできる場所。この現場をやり続けられる事が、どこかで心の支えになっていたかもしれない」と、阪本監督は20年を振り返る。

とりあえずは、この20年でひと区切りだそう。「4つ目のチャンピオンベルトを手にするまでは引退しない」と言う辰吉を、今後も追い続けるかは、まだ未定だ。「僕は、辰吉くんの人生の途中から途中までを撮影したに過ぎない。今は、次男の寿以輝くんがプロデビューしたことで、『父親・辰吉丈一郎』をたくさんのカメラが狙っているから、そのなかに混じって撮りたいとは全然思わない。別の切り口を見つけたら、また『撮らせてよ』って電話するだろうけど・・・。それより今、『劇映画に出て!』って口説いてるんだ。『七人の侍』の長門勇みたいな役とか。純愛映画もいいと思うんだ(笑)」と、冗談とも本気ともつかない阪本の言葉。現役ボクサー・辰吉は少し距離をとって苦笑いしながら、「僕は、欲しい答えをすんなり言う男やないから、あえて隠すこともいっぱいあるけどさ。でも、阪ピーやから喋れたこともたくさんあるよ」と返す。20年越しの友情は、たまに交差しながら、また別のレールを走り続ける。ちょうどいい距離感をもって・・・。
※辰吉丈一郎の漢字は、正確には「吉」は「土」の下に「口」、「丈」は右上に点が入ります。
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