横浜聡子監督「いちばん好きな作品」

「いかに日常の延長線上に描くか」(横浜聡子)
相手役の麻生久美子さんは、監督の長編としては前作となる、7年前の作品『ウルトラミラクルラブストーリー』にも出演なさってますが、今回はどうでしたか?
麻生さんが来るとそれだけで現場がパッと明るくなるんです。スタッフもみんなにこやかになって。今回は安田さんをずっと撮ってることが多かったのですが、男性をメインで撮るのと女性をメインで撮るのと、現場の雰囲気がこれだけ違うのかって思いました(笑)。
──なんとなくわかる気がします(笑)。主人公の亀岡拓次は、現場スタッフの信頼厚い脇役俳優という設定ですが、本作には横浜作品ではおなじみの個性的な役者で、いま映画ファンの注目を集める宇野祥平さんと野嵜好美さんが出演されてます。2人とも『ウルトラ・・・』にも出ているし、野嵜さんはその前の『ジャーマン+雨』では主演ですね。
野嵜さんにはぜひ出てもらいたかったんです、それも普通の役で。これまで個性の強い役柄が多かったので。でも、もともとあまり女性の出演者の少ないお話だったのでどうしようかと悩んでいたら、プロデューサーからスペインの巨匠の通訳はどうかなって提案があって、「それだ!」と(笑)。
──あの通訳もあんまり普通の感じはしなかったですけど(笑)。
そうですか。私としては普通に演じてもらったつもりなんですが。もし、それでもはみ出しているものがあれば、それはやはり野嵜さんの個性ですね。

──宇野さんは亀岡の友人で、亀岡と同じような脇役の俳優さんを演じていますが、亀岡のところにくる仕事のオファーを、「なんで自分のところにこないのかなあ」と何度も愚痴ります。あれ、この映画の亀岡役のことも言ってるみたいで面白いですね。
私も最初に原作を読んだときには、原作者の戌井さんが宇野さんをご存知なことは知っていたので、「亀岡って、ひょっとして宇野さんのことかな?」と思いながら読んだのですが、でもちょっと考えたら、宇野さんにはもう宇野さんらしい強い色があるので、亀岡はもっと無色透明な感じかなって思いました。宇野さんが亀岡役をやりたかったのかは、本音を聞いてないので、わからないですけど(笑)。ただ、私は安田さんと宇野さんの2人の絡みシーンも好きでした。仲はいいんだけど、結婚していたことも知らなかったっていう距離感とか、やっぱり亀岡ってこういう人なんだなって気がして。
──あと、正直言って驚いたのが、三田佳子、山﨑努というビッグネームの出演でした。
三田さんは大女優という役柄だったので、どうせやってもらうのなら私たちが普段手が届かないと思っているような、本当の大女優の方にやってもらいたいなと。お手紙を書いてオファーさせてもらったんです。三田さんも最初は「監督もスタッフも若くて、私ついていけるかしら」なんておっしゃってたんですが、いざ仕事に入ったらこちらの指示にくらいついてくる方で、「監督の言う通りになんでもしますから、遠慮なく言ってください」って。姿勢がハングリーなんです。衣装合わせでも一切妥協せず、何時間もかけてくださって。すごい方でした。
──三田さんが亀岡に言う「あなたの中に流れる時間は映画向きだと思う」という主旨の台詞は原作にあるんですか?
まったく同じではないですが、主旨としては同様のことを言う台詞はあります。私、実はあの台詞の意味がもう一つわからないのですが、三田さんがおっしゃるとなにかすごい意味があるんじゃないかって思わされるんです(笑)。説得力があるんですね。
──山﨑さんはどのようにしてオファーされたのですか?
山﨑さんが原作のファンだということは聞いていたんです。それで、プロデューサーが一度お願いしてみようと言いだして。私も山﨑さんが出演してくださったらどんなにいいかと思っていたので、快諾してくださったと聞いたときにはほんとにうれしかったです。

──現場ではどんな感じでしたか?
山﨑さんが現場に入られると、それまでざわざわしていた空気が一変して、澄んだ緊張感が生まれるんです。こんなことってあるんだなってびっくりしました。山﨑さんには日本映画界の重鎮である大監督を演じてもらったんですが、山﨑さんは本当に日本映画の大巨匠たちと仕事をしてこられた方なので、そういう人たちが生み出す空気がすでに血肉として身についている感じでした。
──現場に生まれる空気と言えば、この映画には、亀岡が矢継ぎ早に参加する現場が次々と出てきますが、その様子がとてもリアルで面白いです。
そこは意識しました。この映画には4つの映画とひとつの舞台の現場が出てきますが、映画については、それぞれのストーリーとかだけじゃなくて、予算といった作品の概要までわかるようにしたいって思っていたんです。例えば、これはあの映画会社の作品、これはVシネ、これは自主製作に近いものっていった具合に。
──そこは本当にうまく描かれていると思います。
撮影現場以外でも、亀岡が参加するオーディションのシーンとか、映画の内容を体現するシーンとかも含めて、こういった非日常の世界を、日常とかけ離れたものではなくて、いかに日常の延長線上に描くか、というのが実はこの映画で挑戦してみたかったことなんです。それは亀岡が単に俳優であるからというだけじゃなくて、彼には気負いがなくて、とても身軽だというのが大きいです。でも、それは原作の戌井さんが書かれた世界観がそうなっていて、私はそこを大事にさせてもらった感じです。
──うまくいった自信があるのではないですか?
少なくとも、これまでの自分の作品のなかで、いちばん好きな作品にはなりました。
横浜聡子(よこはま・さとこ)
1978年生まれ、青森県出身。横浜市立大学国際文化学部卒業後、1年間のOL生活を経て、2002年に映画美学校に入学。卒業後に自主制作した長編映画『ジャーマン+雨』で第3回CO2シネアスト大阪市長賞を受賞、自主制作映画としては異例の全国劇場公開となる。同作で、第48回日本映画監督協会新人賞を受賞。2009年、松山ケンイチ主演『ウルトラミラクルラブストーリー』で商業映画デビュー。
映画『俳優 亀岡拓次』
2016年1月30日(土)公開
監督・脚本:横浜聡子
出演:安田顕、麻生久美子、宇野祥平、新井浩文、染谷将太、ほか
配給:日活
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