塚本晋也監督「呆然として困るかな」

2015.7.17 13:05

メガホンをとった『野火』、俳優として出演した『沈黙』(マーティン・スコセッシ監督作)と、過酷な撮影続きで10kgも痩せた塚本監督

(写真3枚)

塚本晋也監督が構想に20年かけたという渾身の最新作『野火』。その公開が8月1日に迫るなか、「シネ・リーブル梅田」(大阪市北区)で一夜限りの先行上映会が行われ、塚本監督も舞台挨拶に駆けつけた。

鬼気迫る壮絶なラストカットで幕を閉じる本作。「この作品を観た後はみんなしばらく呆然とするから、上映後のトークはお客さんが困るかな・・・って思いながら、来ちゃいました」と控えめに頭を下げると、客席からは大きな拍手が沸き起こった。

原作は、太平洋戦争末期・レイテ島の戦いで、結核を患って部隊を追われた日本兵・田村の、飢えと戦いの日々を描いた大岡昇平の『野火』。「初めて読んだのは高校生だったので、もう40年前。衝撃的でした」。そこから20年ほどして、映画にしようとシノプシス(脚本の素案)を練り始めたものの、出資者探しが難航して頓挫。「それでもどうしても撮りたくて。お金はないけど自力でやろう!ってもう一度立ち上がったのが、3年前」。そこからは、一気に事が進み、原作権の取得が2013年3月。6月にはフィリピンで撮り始め、年内には撮り終えたという。「戦争というものが、現実的に身近になって来てしまっていることへの危機感、恐怖があった。必死でした」。

客席からの質疑応答のコーナーでは、「他の戦争映画を意識しましたか?」と質問が。「僕の戦争映画金字塔は、『地獄の黙示録』なんです。自分が戦場に放り込まれたようなあの衝撃が忘れられないし、時々見返してパワーをもらう作品。それからオリバー・ストーン監督自身の戦争体験が折込まれている『プラトーン』も好きだし、『プライベート・ライアン』の冒頭の20分間は繰り返し見てます! どう撮ってるんだ? ってコマ送りして見ながら、予算の違いにあきれたり悲しくなったりしてね(笑)」と、テーマは重いながらも、和やかな舞台挨拶となった。

「フィリピンの美しい原野の中、人間だけが、土くれ(土の塊)のようにボロボロになっている、一種の不条理劇」と監督が語る、残酷な明暗のコントラストに、戦争の悲惨さを今一度、胸に刻んで欲しい作品。まずは予告篇からでも、その一端を目撃していただきたい。

取材・文/hime 写真/渡邉俊夫

映画『野火』

2015年8月1日(土)公開
原作:大岡昇平
監督・出演:塚本晋也
出演:リリー・フランキー、中村達也、森優作、中村優子、ほか
配給:海獣シアター
1時間27分
PG12
シネ・リーブル梅田ほかで上映
© SHINYA TSUKAMOTO / KAIJYU THEATER

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