世の中って悲惨、からなるKERA舞台

「世の中は悲惨」って人生観を、
根っこに持った人間にしかできない笑い
──ナイロンの大阪公演が始まった頃(1996年)は、すでにナンセンスからは距離をおいて、むしろ来阪するたびにスタイルの違うコメディをやっていましたね。
ナンセンスばかりやってると、気が狂いそうになるので、ヤバいと思って(笑)。それとあの頃は、芝居のスタイルを変えること自体に、意義を感じてたんでしょうね。ただ劇団10周年の少し前ぐらいからかな、自分が作るコメディの大きな一方向を「シリアス・コメディ」と銘打つようになりました。

──あらすじだけ読んだら深刻な世界なのに、実際の舞台はなぜか笑ってしまうという。
本来なら笑えない設定を、コメディにしてるわけですから。自分が絶対やりたくないタイプの笑いを避けて通ると、必然的にしんどいものが残る。重さやつらさ、悲しみ、或いは混乱の果ての笑いですね。そうしたコメディって、ペシミスティック(悲観的、厭世的)な人生観を根っこに持ってしまった人間にしか作れない気がします。前提として、世の中って悲惨じゃん、っていうのがある。
──すでに有頂天の楽曲からして、そういう人生観が根底にあるような感じがしました。
僕は1歳の時に、病気で死にかけたんですよ。親からそのことを教えられた時に「そうか、本当は死ぬはずだったのに生きてるんだ。でもあと何十年かすればどうせ死ぬのに、何で生きてるんだろう?」と、思春期になれば誰もが感じるようなことを、5歳にして考えだして(笑)。昔から、異様に世の中を俯瞰して見てました。
──早熟にもほどがありますね(笑)。
だから毎回全然違う芝居を見せているようでも、根底にある人生観は、僕の中では実は同じだったりするんです。一見デタラメで笑える作品にも、絶望的な面があったりするし。逆にすごくヒドい話でも、対象から距離をとってドライに書けば、コメディっぽくなる。そうした距離は、毎回書く前にすごく悩みますよ。書いてる時間と同じか、それ以上にかかったりする(笑)。
──特に『わが闇』以降は「声を出して笑う」という“笑い”は減った気がするので、KERAさんの作る芝居を「コメディ」と紹介していいものかどうか、悩んだりするんです。
笑いは僕の舞台からなかなか切り離せないと思うけど、作品によっては笑いがない方がいいと判断するものが出てくるかもしれません。中途半端にあるぐらいなら、一切なくしてしまうとか。

──ただそんな作品でも、多分人間の喜劇的な部分は描かれ続けると思うんです。三谷幸喜さんの作品の中で、作家が「笑いのない喜劇を書け」と無理難題をつきつけられるシーンがありましたが、実はKERAさんってそれをやってしまってる作家じゃないかなと。
あー、そうなのかね。ちょっと違う話かもしれませんが、声に出して笑えなくても、ニヤニヤできるものの方が、評価できるコメディだったりすることは多いですし。ただ長年やっていると、評価される芝居・されない芝居が大体わかってくるんで、たまには受け入れられないような作品もやっておかないと、と思うんです。でもそういう作品を、2本連続でやることはないでしょうね。やっぱり、同じようなことは続けたくないんですよ。食生活と同じで、牛丼の後には、もう少しいい物を食べたくなる、とか(笑)。
profile
ケラリーノ・サンドロヴィッチ
1963年生まれ、東京都出身。1982年にニューウェーブバンド・有頂天を結成し、自ら主宰するインディーズレーベル「ナゴムレコード」と共に、音楽界に一大センセーションを巻き起こす。その一方で、1985年に田口トモロヲらと「劇団健康」を結成。1992年の解散後、翌年に犬山犬子(現イヌコ)らと「ナイロン100℃」を旗揚げする。1999年『フローズン・ビーチ』で第43回岸田國士戯曲賞を受賞。2003年には『1980』で長編映画監督デビューを果たした。今年は2本の演劇公演が控えているほか、ムーンライダーズの鈴木慶一とのユニット・No Lie-Senseのアルバムリリースなど、ジャンルを超えて目が離せない存在となっている。
ナイロン100℃
『わが闇』
作・演出:ケラリーノ・サンドロヴィッチ
出演:犬山イヌコ、峯村リエ、みのすけ、三宅弘城、大倉孝二、松永玲子、岡田義徳、坂井真紀、長谷川朝晴、ほか
日程:2013年7月20日(土)
会場:梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ
ナイロン100℃
シス・カンパニー公演『かもめ』
作:アントン・チェーホフ
上演台本・演出:ケラリーノ・サンドロヴィッチ
出演:生田斗真、蒼井優、野村萬斎、大竹しのぶ、ほか
日程:2013年10月4日(金)~9日(水)
会場:イオン化粧品 シアターBRAVA!
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