眼差しで勝負・・・石井裕也監督の映画観

2013.3.14 12:00
(写真4枚)

話題の映画『舟を編む』が4月13日から公開される。2012年本屋大賞第1位に輝き、同年度ベストセラー第1位の座も獲得した、三浦しをんの同名小説を、『川の底からこんにちは』などの作品で知られる29歳の気鋭監督、石井裕也が映画化。辞書づくりに静かな情熱をそそぐ人間たちの姿を生き生きと描き出す。来阪した石井監督に話を訊いた。

取材・文/春岡勇二 写真/成田直茂

「辞書を創る、その独特な情熱に感動しました」(石井裕也監督)

──まず、この作品を監督されることになった経緯から教えてもらえますか?

プロデューサーの方から、「今度、これを映画化にすることになったから。監督はお前で、主演は松田龍平で」と言われて、原作本を渡されたんです。

──ということは、石井監督と松田さんの主演はプロデュースサイドではすでに決定事項だったわけですね。

そうみたいです。それが昨年3月ぐらいのことで、原作もまだ本屋大賞に選ばれてなくて、お話をいただいてから読みました。

──そのときには、これを自分が監督するんだというお気持ちで読まれたわけですよね。読んでみてどう思われました?

なんていうのかな、辞書を創る人というのを初めて感じました。長い時間をかけてこつこつと、淡々と地道にやっていく仕事への静かな情熱。これまで映画ではあまり描かれてこなかった、その独特な情熱に感動しました。

© 2013「舟を編む」製作委員会
© 2013「舟を編む」製作委員会

──石井監督にとって、初めての原作ものということになるのですが、それは監督が希望されたことだったのですか?

いや、原作ものがやりたかったというよりも、これまでは脚本も自分で書いてきたのですが、一人でできることは限りがあるなと思ってはいたんです。それで、なにかもう少し広げたいなと考えてるところへ、たまたまベストセラー小説を映画化するお話がきた、ということです。

──なるほど。原作に書かれていた、独特の静かな情熱に感動したということですが、この独特な情熱を持つ人間というのは、監督の、これまでの作品の主人公たちに通じるものがあるように思うのですが・・・。

この作品に登場する人間たちは15年という歳月をかけて一冊の辞書をつくるわけで、それはもう人生を賭けていると言ってもいい。しかも、それが1人だけじゃなく、仲間もいるし、さらに次世代に交代して継承までされていく。それは、世界がどんどん広がっていく感じですよね。もっと言えば、ひとつの宇宙ができていくと言っていいかもしれない。ぼくがこれまで描いてきた人間たちと多少は通じるものがあるかもしれませんが、ここまでのスケールの視点は持ったことなかったですから、やはり別のものだと思います。

──新たな挑戦だったと…。

まあ、そうです。

──脚本は、『フレフレ少女』(2008年)などの監督作品もある渡辺謙作さんですが、監督も一緒に作りあげていかれたと思っていいでしょうか?

そうですね、一緒に悩みました。今回、脚本化するときに自分のなかでは二つテーマがあって、一つは謙作さんの書かれる世界をできるだけこちらに引き寄せること、もうひとつは引き寄せ過ぎないことだったんです。ちょっと矛盾した話なんですが・・・。

「挑戦してみるというのが今回大切でした」と石井裕也監督
「挑戦してみるというのが今回大切でした」と石井裕也監督

──いや、わかるような気がします。監督として脚本家の世界を引き寄せるのは当然だけれども、引き寄せすぎたら2人でやってる意味がないということですね。

そうです、そのバランスですね。自分では書かなかっただろうこと、わからなかった部分に挑戦してみるというのが今回大切でしたから。

──映画を観てから原作を読んだのですが、脚本がうまいなと思いました。わかり易いところで言うと、主人公の馬締光也の一人称が原作だと「おれ」ですが、映画では「ぼく」になっている。馬締のキャラなら「ぼく」の方が合ってる気がします。そんな、原作よりもこっちの方がいいぞと思える改変がいくつかありました。

そのあたりのことはぼくが言うことではないので。観てくださった方の判断におまかせします。

──でも、脚本に自信はあったのでは?

いや、それも、いい原作を与えてもらって脚本化にベストを尽くしたということで(笑)。ただ今回は、脚本の謙作さんだけでなく、この人と一緒に仕事させてもらってよかったということは多かったですね。撮影の藤澤順一さんもそうでした。自分の感覚ではここはアップだなとカメラを寄せてしまい、ある種、稚拙な方向にいきかけるのを、藤澤さんがご自分の視点でどっしりと撮ってくださっていて、結局、そっちの方がよかったということがいくつもありました。

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