【連載】春岡勇二のシネマ重箱の隅 vol.2

2016.3.23 19:00
(写真2枚)

映画『家族はつらいよ』より、 山田洋次監督が映画に込めた「想い」

映画『Mr.ホームズ 名探偵最後の事件』(現在公開中)に、シャーロキアン(シャーロック・ホームズの熱狂的ファン)をニヤリとさせる仕掛けがある。劇中、ホームズが自分をモデルにした映画を観に行くのだが、その映画でホームズを演じているのがニコラス・ロウなのだ。彼は1985年、映画『ヤング・シャーロック ピラミッドの謎』で主役を演じていた人。30年ぶりのホームズ役というわけ。『Mr.ホームズ・・・』には、ほかにもシャーロキアン向けの小ネタや、英国が生んだサスペンスの名匠アルフレッド・ヒッチコック監督作品へオマージュが隠されているので、興味のある人はぜひどうぞ。

『男はつらいよ』から20年ぶりとなる喜劇 © 2016「家族はつらいよ」製作委員会
『男はつらいよ』から20年ぶりとなる喜劇 © 2016「家族はつらいよ」製作委員会

劇中で登場人物が映画を観る。と言えば、山田洋次監督の最新作『家族はつらいよ』にも、主人公・橋爪功が自宅のテレビで小津安二郎監督の『東京物語』(1953年)を観ているシーンがある。このシーンは山田監督にまつわる、あるエピソードを思い出させる。山田監督があるとき黒澤明監督を自宅に訪ねたら、黒澤監督が書斎で『東京物語』を熱心に観ていた。山田監督は若い頃、自分の会社の巨匠という煙たさもあって小津作品をどこか軽んじていたが、歳を重ねて良さに気づきだした頃、尊敬する黒澤監督のその姿を見て衝撃を受けたという。そして、改めて小津監督とその作品への敬意を確かなものにしたという。

『家族はつらいよ』は、2013年の山田監督作『東京家族』で主人公の家族を演じた俳優が再び結集し、物語の内容や職業の設定などは違うものの、家族関係はそのままに一家を演じている。『東京家族』は『東京物語』を現代版にリメイクしたものだったから、つまりは山田監督のなかで、かつて黒澤邸で見た光景が、数十年の時を経て『東京家族』につながり、さらに『家族はつらいよ』になったのだ。橋爪功が『東京物語』を観ているシーンには、おそらくそんな監督自身の想いが込められている。

映画『家族はつらいよ』

2016年3月12日(土)公開
監督:山田洋次
出演:橋爪功、吉行和子、西村雅彦、夏川結衣、中島知子、林家正蔵、妻夫木聡、蒼井優
配給:松竹

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