「口からも涙」前代未聞の慟哭シーン…髙石あかり、“トキを生きた”集大成【ばけばけ】

3時間前

『ばけばけ』第125回より。「ママさん、泣かないで」と言っているかのように、トキ(髙石あかり)の手に1匹の蚊がとまる(C)NHK

(写真4枚)

連続テレビ小説『ばけばけ』(NHK総合)が最終回を迎えた。

「パパさんの最後、台無しにしてしまったけん」──。トキ(髙石あかり)は、ヘブン(トミー・バストウ)が世を去る間際、自分が彼の作家としての自由を奪ってしまったのではないかと自責の念にかられていた。

イライザ(シャーロット・ケイト・フォックス)の叱咤激励、母・フミ(池脇千鶴)の助言、そしてリテラリーアシスタントとなる丈(杉田雷麟)によるサポートもあり、回顧録を綴るべく、ヘブンとの思い出を語りだしたトキだったが、出てくるのは後悔と懺悔の言葉ばかり。

■「“フロッグ”コート」の思い出とフミの言葉が、トキを突き動かす

追憶のなかでトキは、「“フロッグ”コート」の思い出を語った。帝大に和服で通いたがっていたヘブンに、トキは「西洋人らしいほうがよい」と、洋装と「“フロッグ”コート」を勧めた。

はじめのうちは「シブシブ」だったヘブンだが、いつの日からか嫌がらずに、笑いながら着るようになった。これをトキは、「縛りつけようとする私に愛想が尽きて、笑っちょったんです」と回顧する。すると、聞き書きをしていた丈が思わず吹き出す。

フロックコートを「“フロッグ”(蛙)コート」と言うトキが愛おしくて、ヘブンは笑っていたのだ。そう丈は言う。そしてフミが、トキに語りかける。

「こげな話がええんだない? ヘブンさんとふたり、こげな夫婦だっただない。他愛もない、ほんに他愛もない、スバラシな毎日だっただない」。

するとトキの脳裏に、ヘブンと過ごした何気ない日常の記憶が鮮明に蘇る。慟哭するトキの手元に、一匹の蚊がとまる。「生まれ変わったら蚊になりたい」と言っていたヘブンが、まるで「ママさん、泣かないで」と言いにきたかのように。

そうしてトキは、ヘブンとの「他愛もない、スバラシな毎日」を語り出し、やがてそれが『思ひ出の記』というタイトルの書籍として出版され、物語は幕を下ろした。

『ばけばけ』第125回より。(C)NHK
『ばけばけ』第125回より。「これが、私、トキの話でございます」。『ばけばけ』は、トキがヘブンに心で語りかけた「お話」だった(C)NHK

■「蛙コート」はオリジナルエピソード

ところで、トキのモデルとなった小泉セツさんが記した『思ひ出の記』のなかで、フロックコートについて書かれた箇所を探してみると、

《(ヘルンは)フロックコートなど大嫌いでした》

《フロックコートは『なんぼ野蛮の物』と申しました》

など、ヘブンのモデルであるラフカディオ・ハーンが大層嫌っていたこと、そしてセツさんが着ることをうながしたことは記されている。しかし、セツさんが「フロッグ」と聞き間違えたという記述はない。「“フロッグ”コート」は『ばけばけ』のオリジナルエピソードだ。

制作統括の橋爪國臣さんに、最終回に「“フロッグ”コート」と「蚊」のエピソードを持ってきた意図を聞いた。

■「正しくは『フロックコート』ですよ」との意見が多数寄せられた

遡って第24週で、トキが出かけるヘブンにコートを着せながら『“フロッグ”コート』と言う“前フリ”があった。これについて橋爪さんは、「視聴者の皆さんから『間違ってます』とたくさんのお叱りとご意見をいただきました」と明かし、こう続ける。

「第24週でトキが言った『“フロッグ”コート』。特別際立たせることなく、さりげなく仕込んだつもりだったのですが、視聴者の皆さんはよく見て、よく聞いてくださっているのだなと感心しました。

最終回では、今までトキが『うらめしい』と思っていたことが逆転するようなエピソードを作りたいと思いました。説教臭くなく、何気ない日常のなかの出来事で、あとから考えれば『素敵だったな』と思える。

そんな『おかしみ』のあるエピソードはできないかと、脚本打ち合わせで話し合ったときに、ふじき(みつ彦)さんからこのアイデアが出たんです」

『ばけばけ』第125回より。(C)NHK
『ばけばけ』第125回より。「“フロッグ”コート」の思い出が「うらめしい」から「すばらしい」に「ばけ」た(C)NHK

■ 有名な「小泉八雲と蚊」のエピソード、満を持して最終回に

また、慟哭するトキに寄り添うように、彼女の手にとまった一匹の蚊。小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)は複数の随筆で「死後は蚊になりたい」「墓参りに来た人を刺したい」と語っている。

これが第118回でトキと散歩に出かけたヘブンが言った「ワタシ、生まれ変わり、蚊になります」「会いたい人、刺します」という台詞にアレンジされており、最終回への「前フリ」となっていた。橋爪さんは、

「八雲の蚊のエピソードはとても素敵なので、ぜひどこかに使いたいと思っていてました。最後に、ヘブンの著書の前を蚊が飛ぶカットは、最終週を担当した村橋(直樹/チーフ演出)のアイデアです。蚊のCGって難しいんですよね。小さくて見えにくいし、大きくしすぎれば蝿になってしまうので(笑)」と話す。

ところで「蚊」といえば、トミー・バストウが役作りの一環で小泉八雲の墓参りをしたとき、1匹の蚊が飛んできて刺されたという運命的なエピソードを『歴史探偵』(NHK総合)や『あさイチ』(同)で披露していた。これにも関連づけて、

「トミーのエピソードにも刺激を受けて、『蚊』はやはり『ここぞ』という最終回で使うことになりました。このドラマではそんな、『運命かな?』と思えるような出来事が何度か起きました。八雲の導きか、出雲神々の導きなのか。いろんなことがうまくいってくれたなと、2年間の制作をふり返ってあらためて思います」と橋爪さん。

■ フミの言葉にトキは慟哭。ずっと一緒にいた母娘の関係性が表れたシーン

最終回で息を呑んだのが、なんといっても、トキの慟哭シーン。これまでの朝ドラで人物が激しく泣くシーンで、「鼻水」までは見たことがあるが、「口からも涙」というのは史上初ではないだろうか。このシーンの成り立ちについて、橋爪さんは語る。

「トキの慟哭にもっていくためのひと言を誰が言うのかという話し合いを、ふじきさんと村橋と僕とでしました。フミの言葉がいちばん響くだろうという結論になり、『ヘブンさんとふたり、こげな夫婦だっただない』という台詞を言ってもらいました。

『ばけばけ』第125回より。(C)NHK
『ばけばけ』第125回より。フミの言葉を聞いて、トキの目から涙があふれ出す(C)NHK

母親としてずっとトキを見守ってきたフミが、万感の思いを込めてトキに語りかける。もうここまでくると、何も作らなくても、トキのあの慟哭に至りますよね。

主人公の半生を描く朝ドラで、第1回から最終回まで両親が健在なのは珍しいのではないかと思います。フミは『もうひとりのヒロインなのではないか』というぐらい、ずっと出ていました。

トキとフミ、髙石さんと池脇さん。1年間の撮影期間中、ずっと一緒にお芝居をしてきたおふたりの関係性のなかで、ああいう台詞が書かれたら、必然的にああいうシーンになります」。

■ トキの「いちばん最初のリアルな感情」を収めた

さらに、「口から涙」が出てもOKとした意図について、

「普段は数回おこなうリハーサルを極力減らして、トキの『いちばん最初のリアルな感情』をカメラに収めようと臨んだシーンでした。『あそこまで見せるか?』というご意見もあるかもしれませんが、きれいに見せようとか体裁を整えようとか、そんなことを飛び越えたお芝居を、髙石さんが見せてくれました。

あの慟哭に至らしめるために、髙石あかりさんをトキ役に選んだのだ、そしてこのドラマを描いてきたのだと感じました。髙石さんがトキとして生きた1年間が、すべて詰まったシーンだったと思います」

と明かし、髙石の渾身の芝居を絶賛した。

最終回のラストは、『思ひ出の記』のページをめくる演出のエンドロールで、これまでの名シーンが流れたあと、第1回冒頭のシーンに戻り、ふたりが散歩に出かけるところで締められた。トキとヘブンの「他愛もない、スバラシ」な日々は、『ばけばけ』ファンの心のなかでこれからも生き続けることだろう。

取材・文/佐野華英

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