若葉竜也、憧れた峯田和伸と共演「頭で考えるのではなく、二人で感じたものを表現」

映画「ストリート・キングダム 自分の音を鳴らせ。」に出演する若葉竜也
写真家・地引雄一の原作を、田口トモロヲ監督、宮藤官九郎脚本で映画化した『ストリート・キングダム 自分の音を鳴らせ。』が3月27日より全国公開される。同作は、パンクロックに魅せられた若者たちが、自分たちの手でロックシーンに革命を起こしていく物語だ。
銀杏BOYZの峯田和伸がカメラマンの夢に破れて東京のパンクシーンの関係者として人生を歩むユーイチ役、若葉竜也が自分らしい音楽を模索する人気パンクバンド・TOKAGEのボーカリストのモモ役を務めている。今回はそんな若葉に、同作について話を訊いた(取材・文/田辺ユウキ、写真/バンリ)。
■「峯田さんの一挙手一投足を、絶対に見逃さないという気持ち」
──若葉さんはもともと、田口さんが初めて監督を務めた映画『アイデン&ティティ』(2003年)の大ファンだったそうですね。
『アイデン&ティティ』って観るたびに自分に突き刺さり、違う感想が出てくるんです。10代の頃に初めて観て、そのときは峯田さんが演じた主人公・中島の苦悩ややるせなさに共鳴し、苦しくなって、だけど「やらなきゃならないことをやるだけさ。だからうまくいくんだよ」という言葉にも救われました。
──劇中に登場するミュージシャン、ボブ・ディランの名言ですね。
でも、大人になってから改めて観てみると、また別のところで感動できたんです。自分のなかにある“いい映画の基準値”を、『アイデン&ティティ』が作ってくれました。何回観ても、何回も観たくなる。それがいい映画なんだなって。

──今回、『アイデン&ティティ』で主演を務めていた峯田さんとがっちりと組み合って芝居をされましたね。
峯田さんは着飾らずにユーイチを演じていらっしゃったので、僕の受け方や返し方も、思っていた以上に変わりました。峯田さんの一挙手一投足や息づかいを絶対に見逃さないという気持ちが常にありました。
「このシーンはこうだ」と頭で考えるのではなく、二人で感じたものを表現し、監督がそれを見て微調整していく感覚。台本に書かれていないディテールが現場で生まれていきました。

──その点がすごく気になっていました。というのも、この映画は「初期衝動」がテーマになっていますが、演技において「初期衝動」は存在するだろうかって。アドリブなどはあるにしても、「衝動のままに演じる」ということはありえるのでしょうか。
これはたまに起きることなんですけど、撮影中、監督の「本番」という声だけが聞こえて、そのあと自分がどういう風に動いているか覚えてなくて、「カット」の声だけ聞こえて我に返るときがあります。全自動運転みたいな、台詞をちゃんと言えていたのかどうか不安になるくらいのことがあるんです。
言語化が難しいんですけど、「ああ、なんか終わったんだ」と記憶も曖昧で。関係者試写で作品を観て、初めて「こんなシーンになっていたんだ」と驚くんです。

──今回の映画でも?
ありました。まずモモが、精神状態が不安定な中でギターをかき鳴らすシーン。あと終盤の、ユーイチとカセットテープを聴くシーンです。後者は「記憶がない」というより、「コントロールができなかった」が正しいかも。
──カセットテープの場面は、全部が台本通りだと聞いて驚きました。あまりに美しいシーンで、人の手で意識的に作られたものだとは思えなかったです。この映画ってそもそも、1978年の東京のパンクシーンという過去の出来事を描いている。だからあの美しさも、「過去を美化している」と捉えることもできます。それでもカセットテープの場面は、「美化でもなんでもいいだろう。だってそこに映っているものが、あまりに美しいんだから。しょうがないじゃん」と思えるんです。
「美化しているかも」というのはすごく重要な視点だと思います。撮影のときにも、実際にそういう時間があったんです。カメラがあるとか、映画を撮っているとか、それがどうでも良くなるというか。
峯田さんの目がキラキラして、西日が差し込んできて、あの瞬間は本当に美しかった。その瞬間を素直に「美しい」と感じてもらえたのなら、それは僕らとしては「勝ち」だなって。

■「どこまで何者でもない自分でいられるか、僕自身の最大のテーマ」
──「初期衝動」の重要性についても伺いたいのですが、劇中、サチが率いるバンドのレコードのジャケットに、お客さんが撮ったブレブレの写真が使われるくだりがあります。ユーイチはそれを知って「俺でも撮れる」と言います。確かに写真家として経験を積んだユーイチは、技術でブレブレで荒々しい写真を撮ることができる。でもそのジャケット写真には、技術では補えない“素人写真”ならではの初期衝動がある。経験を積んで上手くなることで、初期衝動が持つ魅力が失われていくジレンマが表されていました。
たしかに、どんな仕事でもプロになればなるほど失われる部分も出てくると思います。どこまで何者でもない自分でいられるか、というのは僕自身の最大のテーマでもあるんです。だから、かつての自分に必死にしがみつくしかない。現場へ行って、本当に身震いするぐらい緊張ができるかどうか。
どこまでいってもそれを見失わないためには、積み上げてきたものを良い意味で壊したい。経験と技術はもちろん大事ですが、それになんとか抗っている自分もいるんです。

──なるほど。
この間、芸歴もすごく長くて誰もが知っている芸人さんとお話をして、「どんな“踊り”をしたらいいのか」という話題になったんです。若い頃はいろんな“踊り”を試すことができて、「どれが自分に合うか」と模索していたけど、だんだん自分のリズムや呼吸が分かり、「俺はこういう風に踊れる」というのが見えてきたそうなんです。
一方で、“踊り”がうまくなったことに対し「これでいいのかな」と不安になったともおっしゃっていました。だけど、模索や不安があってもその“踊り”をつかんだということは、「それこそが自分らしい“踊り”なんだ」って。すごく素敵な考え方ですよね。

──模索する背景には、音楽も俳優の世界も、どんどん新しい人が出てくる現実もあると思うんです。『ストリート・キングダム』で言うと、未知ヲ(仲野太賀)のような存在。そういう若者たちの勢いもあり、「自分はこのままでいいのか」と不安を覚える。
今だからこそ言えますが、僕も10代や20代前半は「全員、大したことない!」と思っていました(笑)。でもそれは、そんな僕を先輩方がしっかり受け止めてくださっていたからなんです。
そして先輩たちもきっと、そういう若い時期を経験してきたはず。自分も年齢を重ねて、「あのとき、みなさんはこういう目線で若い俳優を受け止めていたんだな」と分かるようになってきました。
でも今の若い俳優は、僕のように牙を剥き出しにするのではなく、内側で燃えている感じ。赤い炎ではなく、青い炎がメラメラしています。今回もバンドメンバー役の俳優たちは、内側でギラギラしている感じがありましたから。経験を重ね、若い俳優たちの勢いの受け止め方も大切になる気がします。

■「『不満なままで作られるもの』には出たくない」
──映画のメッセージとしては、メジャーとインディーズという構図があり、売れるものを作るのか、それとも自分性や作家性が強いものを作るのかというテーマも流れています。
どちらも守りたいし、どちらにも抗いたいです。これって解決しない問題。ただ、売れるかどうか以上に、僕自身は「不満なままで作られるもの」には出たくないと考えています。
──どういうことでしょう。
たとえば「自己満足」って、映画の世界では良くない意味で使われることが多いじゃないですか。でも自分が観客だったら、作り手が自分で満足できないものは観たくない。「本当はもっとできたんだけどね」とか思っているのなら、「じゃあ、最初から満足できるものをやってほしい」って。
自分が作ったものを広く届けたいなら、自分のなかの最善をちゃんとやらなきゃいけない。作り手の「満足」はきっと観る側に伝わるから。「自己満足」もできていない作品は、観客も「なにを見せられたんだろう」となりかねない気がします。

──そういう意味では、田口監督や出演者のみなさんにとってこの映画は、しっかり「自己満足」できた作品になったのではないですか。
すごく満足しています。だからこそ、かつて自分が『アイデン&ティティ』に感化されたように、何十年後かに「『ストリート・キングダム』に影響を受けて、この仕事をやっています」という人と映画の現場で会いたいです。
そのときには、映画のなかの大森南朋さんみたいな立ち位置になっているかも。そうなることが、俳優としての自分の今後の楽しみの一つです。

◇
映画『ストリート・キングダム 自分の音を鳴らせ。』は、3月27日より全国公開される。
『ストリート・キングダム 自分の音を鳴らせ。』
2026年3月27日(金)公開
監督:田口トモロヲ
原作:地引雄一「ストリート・キングダム」
脚本:宮藤官九郎
音楽:大友良英
エンディング曲:「宣戦布告」(峯田和伸/若葉竜也)
企画製作・配給宣伝:ハピネットファントム・スタジオ
©2026映画『ストリート・キングダム _自分の音を鳴らせ。』製作委員会
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