1本5000円も当たり前…「高級シャーペン」にはまる中高生男子、人気になった理由は?

3時間前

上からぺんてるの「SMASH」「SMASH Amazon.co.jp限定」、三菱鉛筆の「クルトガ」「クルトガ ダイブ」、ぺんてるの「オレンズネロ」「オレンズ」。いずれも芯が出る部分(ガイドパイプ)の長さや、芯出しの機構、グリップに工夫が施されている

(写真7枚)

「やっぱりメカ系かな~。機構が気になる」
「軸の重さがある方が“書いてる”感があって好き」
「ガイドパイプの長さも選ぶポイントの一つ」
「木軸が落ち着いてていい。使ううちに色も変わってくるし」
「筆箱の中、あわせたら2万くらいになるわ」

こちら、巷の中学生男子たちの会話の一部。1本5000円というのも当たり前、多くの中高生たちが魅了されるマニアックな「高級シャーペン」。春の入学シーズンを前に、大阪・堂島の文房具店、ロフト、人気の木軸ペン木工作家、シャーペン人気の仕掛け人でもあるYouTuberの方に、現在のシャーペン人気を取材しました。

現在のシャーペンのトレンドとして挙げられるのが「機能性」と「デザイン」。芯が尖り続ける、折れない、ノックが不要、グリップの重さや握りやすさ、芯硬度表示窓の採用など各メーカーで特色あるものが販売されています。

価格帯も約100円から5000円以上する高級なものまで幅広く、製図用や芯径が細かく分かれているもの、軸が木製のものなど多種多様です。

まず「ロフト」(東京都千代田区)で、どの層に、どんな商品が人気なのかを聞きました。

社会人より学生の方が、高級シャーペンを!?

生活雑貨専門店として全国展開する「ロフト」によると、高価格シャーペン(2000円以上)の購買層のおよそ8割は男性で、世代別では学生8:社会人2程度と推定しているとのこと。便箋やシール、ハンコなどの文具は女性人気が高いですが、シャーペンにいたっては全く異なるようです。

「ギフト需要というよりは『お小遣いを握りしめて自分で選びに行く』といった買い方が多く見受けられます。高価格シャーペンの在庫に関する問い合わせは日々ある状況です。

ロフトでは、『機能』ではなく『デザイン』での差別化視点にこだわりを持って筆記具を展開しています。『機能』は日々開発を行っているメーカーの知見をそのままに、他では売っていない別注色やIP版権を使用した『デザイン』に注力しています。“これは!”という商品ではロフトのコーポレートカラーであるイエローを生かした別注色の開発を打診しています」

シャーペン好き中3男子の筆箱の中。お気に入りは抽選申込の末、貯金から購入したという一番右の「クルトガ ダイブ(三菱鉛筆)」。デザインが好きとのこと
シャーペン好き中3男子の筆箱の中。お気に入りは抽選申込の末、貯金から購入したという一番右の「クルトガ ダイブ(三菱鉛筆)」。デザインが好きとのこと

売り場で人気なのは、メカ系では、ぺんてる「オレンズネロ」、KAYOU+「AIMVISION PRO」、ステッドラー「ヘキサゴナル」が、木軸系では、三菱鉛筆「クルトガ ウッド」、パイロット「S20(エストウェンティ)」、ラダイト「EVERDRAW」。しかし、販売数によって人気を比べるのは難しいとのこと。

「木軸系は生産難易度の高さから相対的に供給量が少なく、“希少性”という意味での熱量は高いです。実売では比較的供給の安定するメカ系の方が高い状況です」

10年前からじわじわと人気に

そこで、人気になったきっかけを探るため、関西で『シャーペンの聖地』と呼ばれる店「ギフショナリー・デルタ」(大阪市北区)代表の前田武嗣さんに話を聞きました

「元々10数年前から、『SMASH(スマッシュ)』や『ケリー』といったぺんてる社の製品や、レアなシャーペンを集めて販売していました。すると土日に学生のお客様がたくさん集まり始めて、『シャーペンの聖地』とまで言われるように。

高価なものが人気なので、親御様と一緒にご来店くださる方も多く、学業へのモチベーション向上を目的としたプレゼントの用途で購入されています。“文房具は勉強に使う道具”という思いからか、比較的高価な文房具でもすんなりとお買い求めいただくことが多いです」

人気のロットリング600を手にとる前田さん。「文房具とSNS、特にInstagramとの相性が良いですね。“推し”という言葉も文房具ブームを後押ししてくれています」
人気のロットリング600を手にとる前田さん。「文房具とSNS、特にInstagramとの相性が良いですね。“推し”という言葉も文房具ブームを後押ししてくれています」

前田さん曰く、文房具を紹介するYouTubeチャンネルを2014年に立ち上げたしーさーさんの動画が中高生に大きな影響を与えたことが大きかったのではないかと推察。特に軸部分が木で覆われた“木軸ペン”の人気についてはしーさーさんの貢献が大きいのだそう。

1本ずつ柄や色合いも異なる木軸ペン。なかでも人気ブランドのひとつは、2021年から取り扱いをはじめた「工房 楔(せつ)」。初めて取り扱う初日には、オープン前から行列ができたほど。ただ、入荷はタイミング次第、イベントは入場抽選制といった理由から、今は商品棚で現物を目にできる機会もタイミングによるのだとか。

2月にギフショナリー・デルタ主催で開催された「工房 楔」イベントスペースの様子。約2000本を準備。ペンケースや芯ケースなどの小物も
2月にギフショナリー・デルタ主催で開催された「工房 楔」イベントスペースの様子。約2000本を準備。ペンケースや芯ケースなどの小物も

そこでこの木軸ペンを作っている、「工房 楔」代表の永田篤史さんに話を聞きました。

もともとは大人に人気だった木軸ペン

岐阜県に工房を構え、国内外の希少な銘木の杢(もく=複雑な木の模様)を厳選し、精密な削りの技術で仕上げていく永田さん。永田さんが尊敬する「野原工芸」(長野県木曽郡)と並び、現在の木軸ペン業界の人気を牽引しています。

「これまで23年ほど木の文具を作ってきていますが、購入される方のほとんどが大人の方でした。『人と違った物を持ちたい』『営業などで目を引かせる道具として』『大勢いるオフィスで自分のペンの独自性を出したい』『コレクションにしたい』などを含め、物にこだわった大人の世界のもとして製作してきました。

学生さんも1割以下くらいいらっしゃいましたが、本当に少なかったです」

「一番大切なのは木の選定。そこで作品の7割が決まるといっても過言ではないです」と「工房 楔」の永田さん
「一番大切なのは木の選定。そこで作品の7割が決まるといっても過言ではないです」と「工房 楔」の永田さん

木の材質、種類、木目へのこだわり。熟練した職人の技で一本一本手づくり。そのため、メーカーのシャーペンに比べると高価ですが、その貴重さと独創性から、知る人ぞ知る存在に。[工房 楔]の代名詞でもある「花梨こぶ杢」「花梨紅白」「ハワイアンコア」「黒柿」のほか、希少な材が出てきた際の限定販売も人気です。

大人向けのアイテムと思われていたところ、先述の前田さん同様に、「文房具YouTuberのしーさーさん」の影響で、学生にも人気が広がったと言います。

「YouTuberやインフルエンサーなど情報発信が若者主体の影響下で、色々な物の情報を集めることができるようになったからか、若い世代の方々が木のペンを知って使ってくれるようになりました。購入者層は、2~3年前には学生6割、大人4割くらいになり、今は半々ぐらいかなといった感じです」

しかし、「工房 楔」のシャーペンは入手困難。提携文房具店店頭での販売もありますが、イベントでの対面販売(抽選制)が主。ネット販売でも、抽選に当選しなければ購入できません。それだけに入手できた子どもたちの思いもひとしおだそう。

左から、「工房 楔」の「0.5mmペンシル楔」の「花梨こぶ杢」「花梨紅白」「ハワイアンコア」「黒柿」。芯径を0.3mm~2mmまでの5種を用意しているのは「楔」ならでは。イベントでの購入時は好みの芯径と交換が可能
左から、「工房 楔」の「0.5mmペンシル楔」の「花梨こぶ杢」「花梨紅白」「ハワイアンコア」「黒柿」。芯径を0.3mm~2mmまでの5種を用意しているのは「楔」ならでは。イベントでの購入時は好みの芯径と交換が可能

「直接イベントに足を運んでくれた子が、2~3年経って成長して『こんな風になりました』とペンが変化していく過程を楽しんでいる様子を見せてくれた時や、『あの時のペンで頑張って合格できました』と報告をしてくれた時など、本当に嬉しく作家冥利に尽きます。

決して安くはないものですが、若い子たちがその歳の感性で“使い込んでいく喜び”を知ってくれるのもとても良い経験になるかと。

木って触り心地が良いかと思います。自然の物を手で触れて道具として使う…これって今の世の中でとても贅沢な事だと思います。ぜひイベントなどにお越しいただいて、ご自身の目で見て触って選んでほしいです」

そのため、手間がかかっても、対面販売を大事に続けている永田さん。取材時も大阪「ギフショナリー・デルタ」でのイベント準備中でした。

「元々は社会人の方々を対象に作っていたものが、こうして年齢層が下がってきて、価値のあるものを手にとってもらう機会が増えていることがありがたいです。

イベントなど販売の場ではたくさんの方々に平等に機会を提供したいので、申し訳ないのですが時間制限を設けさせてもらっています。少しでもスムーズに選んでもらえるよう毎イベント前に作品をYouTubeで紹介したり、生配信も行っています。ぜひ実物の木目や色味を見に来てください」

ただ、残念なことに、かつて子どもによる親のクレジットカードの無断使用が発覚したことも。カードの決済履歴を見た親が確認するために連絡して知ったと言います。現在は同様のトラブルを避けるために、公式サイトにも注意書きを加えています。

「現在WEB上では販売の案内ページに『親御さん名義のクレジットカードで抽選販売に参加される時には、必ず名義人さんの許可を得て参加してください。子供が勝手に買ったなどのクレーム電話がきております。この件はこちらではなく参加して頂く方のご判断で参加・買って頂くものですので何卒宜しくお願い致します』と記載しています」

「工房 楔」、一番人気の材木「花梨こぶ杢」を使った「0.5mmペンシル楔」。イベント時の価格は11000円~13200円。天然木のため、商品ごとに木目や色目、重量も異なる。使い込むほどに濃くエイジングしていく
「工房 楔」、一番人気の材木「花梨こぶ杢」を使った「0.5mmペンシル楔」。イベント時の価格は11000円~13200円。天然木のため、商品ごとに木目や色目、重量も異なる。使い込むほどに濃くエイジングしていく

流行の発端、人気の文房具YouTuberしーさーさん

今回、「ギフショナリー・デルタ」「工房 楔」でも話に出てきたYouTuberのしーさーさん。2014年よりYouTubeチャンネル「しーさー文房具ch」を開設し、現在チャンネル登録者数は100万人以上。分かりやすい解説と美しい映像表現を追求し、こだわりの文房具レビューを行っています。

中高生の文房具人気の火付け役ともなったしーさーさんに、発信への思いを聞きました。

「文房具にこだわることで、勉強が楽しくなる…私はそう信じて、『勉強を楽しめる人を増やしたい』という想いで発信を続けています。

気に入った文房具を持つことで、『勉強しなきゃ』という義務感が『早くこのペンを使いたい』という前向きな気持ちに変わります。膨大な量を書く勉強において、『気持ちよく書ける』という感覚は、苦しい時間の心強い支えになってくれます。

そうした小さなきっかけを届けられていたら嬉しいですし、文房具に夢中になる若い方が増えていることは本当にありがたいことだと感じています」

また、高級だから、レアだから…買うのではなく、シャーペンの選び方が大事であることを話してくれました。

「文房具は、手に合う・書き心地が好き・見た目が気に入る、その『好き』の理由が人によって全然違うところが面白いです。周りが使っているからではなく、自分が本当に気に入った一本を見つけてほしいと思っています」

◇   ◇

中学生男子たちにも話を聞いたところ、お気に入りのシャーペンを「一軍」「二軍」と位置づけし筆箱にスタンバイ。普段使いしながら勉強へのモチベーションをアップ。誕生日やクリスマスなど「ここぞ」という時のためにリサーチを重ね、プレゼントとして頼んだり、お目当てのためにお小遣いを貯めて欲しいアイテムを手に入れているようです。

子どもたちからの購入の相談やプレゼントの依頼に、最初は「えっ!?」と驚き、「高すぎない!?」「失くしたりトラブルになるのでは」と心配になる親御さんたちも多いはず。しかし、その熱量や大切に使う意思をプレゼンされ、何よりも「勉強を頑張る!」というやる気を宣言されたら…きっとその気持ちに寄り添うことを検討するのではないでしょうか。

とはいえ、残念ながら紛失や盗難は起こりうるもの。複雑な機構のため壊れると直りにくい可能性もあります。高価で大切なものゆえ、自宅や目の届く場所のみで正しく使用するなど子どもたち自身が気をつけるよう注意が必要です。

筆圧や書き心地、握りやすさは一人ひとり異なり、デザインの好みも千差万別。新生活のスタートを前に、中高生たちが足繁く文具店や文具コーナーに通い、目を輝かせる様子がまだまだ続きそうです。

【ロフト関連情報】
定番商品とトレンドを反映した商品で売場を展開。筆記具に焦点を当てた『ロフトのペン覧会』や『文フェス』を開催するなど、体験型やフェス形式での企画が好評を博す。

【ギフショナリー・デルタ関連情報】
大阪・堂島のビジネス街にある文房具店。筆記具やノート、事務用品一式の他、ギフト商品や雑貨まで幅広く揃える。万年筆とインクのラインアップも豊富。店内には「北浜ポート焙煎所」の美味しいコーヒーを飲めるカフェスペース「Nib」を併設し、ワークショップなども開催中。

【工房 楔関連情報】
販売店舗は持たず、ネットショップと全国の提携文房具店・系列店舗で木軸ペンや木工小物、インク等を販売。国内のイベントは全て往復ハガキによる事前予約・抽選制。詳細はイベント1か月半位前にYouTubeやHPで情報発信。次回の関西でのイベント予定は5月30日(土)に大阪・天満橋OMMで開催される『ナニワペンショウ』、2027年1月に神戸・三宮のナガサワ文具センター 本店にて。

【しーさーさん関連情報】
数百本の筆記具に触れ、細かくレビューを重ねる中で、2023年には自社ブランド「SEASAR」を設立。「これが好き」と思ってくれる誰かのために妥協を許さないプロダクトを設計する。

取材・文・写真/太田真弓

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