吉沢亮演じる錦織友一の壮絶な最期…「ヘブンとの別れと死」の描写にこめられた彼の生き様とは

2時間前

『ばけばけ』第115回より。『東の国から』の1ページ目に書かれたふたりの友情の証を目にし、微笑む錦織(C)NHK

(写真5枚)

静かで、しかし壮絶な死だった──。今週放送された連続テレビ小説『ばけばけ』(NHK総合ほか)第23週「ゴブサタ、ニシコオリサン。」で、錦織(吉沢亮)がこの世を去った。

トキ(髙石あかり)とヘブン(トミー・バストウ)は、ふたりの間に生まれた長男・勘太を含む家族3人を同じ戸籍に入れる手続きのために松江を訪れた。ヘブンは、熊本に発つ際にすれ違って別れて以来、久しぶりに錦織を訪ねる。

ところが錦織は驚くほどに痩せこけ、声に生気はなく、今にも消え入りそうな姿をしていた。かねてより患っていた結核が相当に進行していたのだ。

■ リテラリー・アシスタントとして最後の仕事を遂げて逝った錦織

ヘブンは名を「雨清水八雲」とし、日本に帰化することを決めていた。松江はおろか日本で前例のない「国際結婚の夫婦とその子どもの同籍入り」を江藤知事(佐野史郎)が認めてくれるよう説得してほしいと、ヘブンは錦織に頼む。しかし錦織はそれを断った。

一見無情にも見えるこの錦織の言動の真意は、ヘブンが日本に帰化してしまえば海外渡航ができなくなり、これまでのように世界各地の紀行文が執筆できなくなるから、というものだった。

熊本に行ってからヘブンはスランプに陥り、心から書きたいと思う題材が見つからずにいた。それを見透かしたかのように錦織は、近年ヘブンの著作が精彩を欠いていると指摘する。そのうえ、ヘブンを煽って焚き付ける。松江大橋のたもとでの激しいやりとりが、ふたりが顔を合わせた最後の時となってしまった。

錦織が絶命する瞬間は描かれなかった。喀血を受けた手を隠しながら、リテラリー・アシスタントとして最後の仕事を果たしたのだと打ち明ける錦織。その姿を、トキが回想する。ヘブンの最新作『東の国から』の1ページ目には「出雲時代の懐かしい思い出に 錦織友一へ」と書かれていた。

「ヘブンと錦織の別れ」の描き方について、また今週の『ばけばけ』に込めた思いを、制作統括の橋爪國臣さんに聞いた。

『ばけばけ』第115回より。(C)NHK
『ばけばけ』第115回より。錦織はヘブンに「作家としてのあなたは死んだも同然」と厳しい言葉を向けた(C)NHK

■「錦織は、どう生きて、何をやりたかったんだろう」

「錦織の最期の描き方については、脚本制作の最初の頃から、ふじき(みつ彦/脚本家)さんを含むスタッフ間で何度も議論を重ねました」と語る橋爪さん。さらに、こう続ける。

「モデルである西田千太郎の史実から、錦織が亡くなることは決まっている。錦織とヘブンの別れをどう描くかについて我々がいちばん考えたのは『ヘブンと錦織って一体どんな関係だったんだろう』ということです。錦織はただヘブンに尽くすだけのリテラリー・アシスタントだったのか。否、友達以上の何かだった。だけど、その『何か』ってなんだろう、と。

議論を深めていくと、とどのつまり『錦織は、どう生きて、何をやりたかったんだろう』という問いに行きつきました。ひたすら島根の学校教育の発展に貢献したかった人なのか。本当はもっと他に野心があったのではないか。

たくさん話し合った末に、『ヘブンの文学的才能に惚れ込み、何かを託して、自分が死んだ後も錦織のアイデンティティを残したかったのではないか』というひとつの答えにたどり着きました」。

■ 死の直前までヘブンを執筆に向かわせようとした錦織

『ばけばけ』は、いちばん大切なことを説明的な言葉では表さないという作劇を貫いている。錦織とヘブンの関係性と「別れ」の描き方も、まさにその作劇法が際立っていた。

第23週ラスト、雪がちらつく窓の外をヘブンが物思いに耽りながら眺める、そしてペンを走らせるというシーンに、錦織がこの世に残し、そしてヘブンが錦織から受け取った「何か」が込められているように見えた。

『ばけばけ』第115回より。(C)NHK
『ばけばけ』第115回より。錦織の「焚き付け」を受けて、一心不乱にペンを走らせるヘブン(C)NHK

橋爪さんは、「錦織は相棒として、死の直前まで何かに取り憑かれたように、ヘブンを執筆に向かわせようとしました。そうすることで、自らの魂をヘブンの文章のなかに刻み込んだ。錦織の、とても文学的な『存在の残し方』を描けたのではないかと思っています」と語る。

「熊本に行ってからヘブンが書いたものに『松江にいた頃のような輝きがない』と錦織は言います。錦織の怒りは、ひとえにヘブンを『真の物書き』にさせたいという執念からの怒りであり、ヘブンを一流の作家にさせることが彼の『生きる意味』だったのではないかと思います」。

■ 錦織からヘブンへの「焚き付け」はオリジナルエピソード

モデルである西田千太郎は、小泉八雲を焚き付けたりしたのだろうか。橋爪さんにたずねてみると、

「橋のたもとでの錦織とヘブンのやり取りは完全にオリジナルです。遡って、第19週で描いたヘブンが熊本へ旅立つときのふたりの『すれ違い』についても、本当のところはどうだったのかわかりません。しかし史実として、小泉八雲が旅立つとき、唯一無二の親友であったはずの西田千太郎が見送りに行っていないという記録が残っています。

また、八雲が熊本で暮らしていた時期、西田は熊本を訪れているのですが、なぜかふたりは会っていないんです。たまたまタイミングが合わなかったのか、それとも西田が八雲を避けていたのか。真意はわからないけれど、こうしたいくつかの史実にヒントを得て、錦織とヘブンのすれ違いを描きました。

西田と八雲は離れてからも手紙のやり取りを続けていましたが、ふたりの断交を強調するために、ドラマでは音信不通になったという設定にしています」。

『ばけばけ』第112回より。(C)NHK
『ばけばけ』第112回より。錦織の家を訪ねたヘブン(トミー・バストウ)(C)NHK

■ アメリカでは「一発屋」「すでに過去の人」と評された小泉八雲

また、錦織がヘブンの書いたものについて指摘した「精彩を欠いている」という旨の物言い。史実ではどうだったのか。

「西田千太郎はたくさんの日記を残しているのですが、語調は常に淡々としていて、個人的な感情がほとんど書かれていないんです。小泉八雲との往復書簡の文面についても同様のことが言えます。

しかし実際、小泉八雲が日本で初めて上梓した『知られぬ日本の面影』(ドラマ内では『日本滞在記』)がベストセラーになりましたが、以降、それを超えるヒット作は出ていない。この頃の八雲についてのアメリカ国内での評価は『一発屋』『すでに過去の人』という厳しいものでした。西田の心中にも、なんとかしてもう一度ベストセラーを出させてあげたい、という思いがあったのではないかと想像しました」。

『ばけばけ』第115回より。(C)NHK
『ばけばけ』第115回より。ヘブンのリテラリー・アシスタントとして最後の大仕事を終えた錦織は「あの人は、本当に世話がやける」と笑って言った(C)NHK

■ 松江大橋の欄干に腰かけて、八雲を乗せた船をずっと見つめていた西田千太郎

橋爪さんは、モデルがいる人物をフィクションのドラマで描く際の方針についてもふれた。

「史実の断片と断片のあいだに、それぞれの人にどんな感情があったのか。それを紡ぐのがドラマ作りだと思っています。たとえば史実では、小泉八雲が一度松江に戻った際に西田千太郎と会ったという記録が残っている。けれど、ふたりの間でどんな会話がなされたのかは、わかりません。

しかし、八雲がふたたび松江を離れるとき、『西田千太郎が松江大橋の欄干に腰かけて、八雲を乗せた船が遠くに行って消えるまでずっと見つめていた』という記録が残っています。これをヒントに、第19週でヘブンが熊本に発つ日、錦織が書斎の窓から遠くを見つめて思いを馳せるシーンを作りました。あの姿が、錦織友一の生き様を表していると思いました」。

■ 解釈はひとつではないが、「こういう解釈もあり得る」

「僕らの解釈が、唯一の正解だとは思いません。でも、我々の作るドラマとしては『こういう解釈もあり得るよね』という思いで作劇しています。『大盤石』と呼ばれる秀才でありながら、時代や境遇、いろんなことに恵まれなかった悲運の人。それでも最後まで真摯に生きて、人生の証を残そうとした錦織友一という人物。ご覧になってくださった方に、どこかしら共感していただける部分があるのではないかと思います」。

次週、第24週「カイダン、カク、シマス。」では、トキが錦織に代わってヘブンのリテラリー・アシスタントとなり、『怪談』執筆に向けて動き出す。

取材・文/佐野華英

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