「新しい扉を開いてくれた」退団20年湖月わたる×荻田浩一…ふたりで宝塚の思い出を振り返る

2時間前

湖月主演による『夜明けの天使たち』上演の翌年、彩輝なお(当時は彩輝直)が同作で演じた役を主演にした『夜明けの天使たち―悲しみの銃弾―』も上演。湖月「おぎちゃんはそうやって、役者を見て広げてくださるんですよ」撮影:村井希衣

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『王家に捧ぐ歌』のラダメス役など、ダイナミックな男役像で人気を博し、2006年に『愛するには短すぎる』『ネオ・ダンディズム!』で宝塚歌劇団を卒業した元星組トップスターの湖月わたる。退団後も数々のブロードウェイ・ミュージカルやオリジナル作品に出演している。

『夜明けの天使たち』は日本青年館大ホールでの公演のみ。荻田浩一氏は「実はわたるとバウホール公演は一度もやってない」ということで、この新作はふたりの初「バウホール」タッグに!

2026年11月、退団20周年を記念した湖月わたる 宝塚歌劇団退団20th Anniversary『TUMBLEWEED(タンブルウィード)』を、湖月の初主演作『夜明けの天使たち』を手掛けた荻田浩一氏の構成・演出で上演。

ふたりの在団時には、今も語り継がれる『ロマンチカ宝塚’04-ドルチェ・ヴィータ!-』といった名作ショーもあり、顔を合わせると思い出話が尽きない。トップ時代「太陽の申し子」と湖月を評した荻田氏が感じる、彼女の奥深い魅力とは。そして湖月が退団後も美しいスタイルやダンス力を維持している原動力とは――。

取材・文/小野寺亜紀

■ 初主演作『夜明けの天使たち』で、口数の少ないガンマン役

――湖月さんの退団20周年を記念する舞台を、荻田さんが手掛けられることになった経緯から教えてください。

湖月「荻田さん…」

荻田「普段どおり、おぎちゃんでいいよ(笑)」

湖月「(笑)。おぎちゃんとは、宝塚時代から深い深い縁がありまして!」

荻田「僕が宝塚歌劇団に入ったとき、湖月さんはすでに劇団にいらっしゃったので、彼女のほうが上級生なのですが、それ以来のお付き合いです」

湖月「おぎちゃんが初めて新人公演(※本公演中、入団7年目以下の下級生だけで東西1公演ずつおこなう)の演出担当をされた『カサノヴァ・夢のかたみ』東京公演で、私が主演。そして、おぎちゃんの演出家デビュー作の『夜明けの天使たち』が、私の初主演作でした」

荻田「そうそう」

湖月「その後も、星組トップ時代に『ロマンチカ宝塚’04-ドルチェ・ヴィータ!-』というショーや、退団前の最後のリサイタル『Across』(第2部)を作っていただき、退団後も『絹の靴下-Silk Stockings-』というミュージカルなどでお世話になって。そんなおぎちゃんと最近ご縁がないなと思い、何か自分で発信できる作品があったら…と、ずっと思っていたので、今回私の記念公演で構成・演出をお願いさせていただきました!」

荻田が演出を担当した、2010年上演のミュージカル『絹の靴下』は1955年ブロードウェイ初演、その後映画化された名作。湖月はヒロインのニノチカを演じた 提供:梅田芸術劇場/撮影:村尾昌美

――新人公演のときから、節目節目にご縁があったのですね。

荻田「どの作品も歌劇団の依頼を受けて、なのですが「巡り合えた」ということですよね。『カサノヴァ――』の新人公演は、当時の星組トップスター・紫苑ゆうさんの役をわたるが演じたのですが、紫苑さんの良さとわたるの良さは、共通している部分としていない部分があり、同じ土台の上でどうやればいいかを考えました。本役さんどおりにやるのがいい、という考え方もあるけれど、僕も若かったので、「わたるが似合うことをやったほうがいいんじゃない?」ってね」

湖月「はい(笑)。その後の『夜明けの天使たち』は西部劇でした」

■  私生活にも影響⁉20周年記念公演にもつながる「西部劇」との縁はここから

荻田「初主演作だから、やっぱりわたるが良く見えるものにしたかった。それまで爽やかな明るい好青年の役が多く、それが似合うのはわかっていたけど、お客様は見飽きているかも、と思って…」

湖月「アハハハ! そう、自分で言うのもなんですが、爽やかなイメージだったと思う。それが、初主演作で憎しみを抱えた、口数の少ないガンマンの役というのがすごく意外でした。演じていて「こういう男性像好きかも!」と。そこから男役としての幅が広がり、おぎちゃんが私の新しい扉を開いてくれました」

荻田「宝塚歌劇団の男役さんがたくさんいるなかで、わたるにしかできないものは何だろうと思い、たどり着いたのが西部のガンマンだった(笑)」

湖月「あの頃、ウエスタンもののアクセサリーやハット、ロングコートなど、私生活にまで影響が出るぐらい、西部劇の世界にドハマりしました。今でも好きで、ジュエリーなど気に入ったら買っちゃいます」

荻田「やっぱり宝塚歌劇はまずビジュアルがハマらないと、お客様に納得してもらえない世界だと思います。「このスタイルがほかの誰よりも似合っている!」と思っていただけるものを、わたるの初主演作でやりたいと考えて、『夜明けの天使たち』を作りました」

宝塚歌劇100周年に向けたソング&ダンスショー『DREAM,A DREAM』(2013年)でも、湖月×荻田の強力タッグが実現 提供:梅田芸術劇場/撮影:村尾昌美

■ 中毒性のある荻田ワールド全開の『ロマンチカ宝塚’04』

湖月「おぎちゃんのすごいところは、役者をよく見て、その良さと意外性を見つけてくださるところだと思います。『ロマンチカ宝塚’04』は博多座公演が初演で、その後に大劇場公演があったのですが、大劇場公演から入った安蘭けいちゃんの役を、新たに生み出すという魔術師のようなことをされて!」

――『ロマンチカ宝塚’04』は、文化庁芸術祭演劇部門優秀賞も受賞されましたね。

荻田「みんなの力で賞をいただきました」

湖月「あのショー大好きです! 皆さんもよくそう言ってくれます。音楽も振付も構成も本当に素敵で、流れるように絡み合っていくこういうショーは、あまり経験がなかった。ヴェネチアのリアルト橋のセットから始まり、やればやるほどその世界にハマっていく作品でした」

荻田「これももちろん、主演のわたるが映えるように、それまでやってきたショーと似ないように、と考えました。2番手格の安蘭さんがどちらかというと陰りのあるタイプで、(トップ娘役)の檀ちゃん(檀れい)も、なんとも言えない不思議な持ち味の方で」

湖月「魅惑的なね」

荻田「そういう方たちがいる座組のなかで、パーンと明るいわたるがいるからこそ映える。僕のなかでわたるは、暗い世界のなかの救世主みたいなイメージなんですよ」

湖月「へー!」

荻田「この人についていけば間違いない、と思わせてくれる人(笑)。そういう「希望」みたいなものを、あの作品にもたらしてくれたと思う。作品を背負う「屋台骨」になってくれる資質を持ってらっしゃるんですよ。だからといって背負わせ過ぎないように、みんなも活躍できるようにと考えていました。やっぱりショーは団体戦だし、作ってみないと、台本上ではわからないところがあります」

宝塚時代から、明るく爽やかな湖月のイメージは、荻田の中で「暗い世界のなかの救世主」としてショー作品の場面にも反映されている『DREAM,A DREAM』(2013年)提供:梅田芸術劇場/撮影:村尾昌美

■ 『ロマンチカ宝塚’04』で印象に残るシーンは?

湖月「振付が入り、動きが変わるとそこで違うドラマが生まれたりもしますよね。このショーといえば、「サテリコン」(※船乗りが妖しげな世界に入っていくシーン)もすごく素敵でした。いろいろな色が紡がれていって、その世界にいざなわれ、飲み込まれる感じ。「青の洞窟」のシーンも好きでした。最後に大階段が出てくるところでは、いろいろな人と絡みながら踊らせていただいて」

荻田「そう、デュエットダンスはいつもやっているので、それとは違う終わり方にしようと。中詰で檀ちゃんとはしっかり踊ってもらったのでね」

湖月「明るい中詰でしたね!」

荻田「同じ劇団にいて、普段から稽古場でも会ったりはしているけど、演出と主演で関わらせていただくことは、本当に数が限られている。二度とないかもしれないと思うからこそ、効果がある作品を作りたいと、ただそれだけを思っていました。戦略的な野心などは抱かずに」

■ 轟悠率いる雪組公演『パッサージュ』で全部出し切った?専科時代の湖月も出演

――荻田さんが初めて手掛けられたレビュー『パッサージュ-硝子の空の記憶-』にも、湖月さんが出演されていましたね。

湖月「そう、『パッサージュ』もです! 専科のときに。あのショーも大好きでした」

――その後も「荻田ワールド」と評される独特な世界観のショーやレビュー、ミュージカルを創作され、2008年の退団まで観客を魅了されました。

荻田「演出家は最初に芝居の演目でデビューすることが多く、僕も当初は芝居が続いていたので、芝居の作家になるのかなと思っていたら、劇団から「一度、ショーを作ってみないか」とお話があって。それこそ、もう二度とショーを作る機会はないと思って『パッサージュ』に臨みました」

湖月「へー!」

荻田「僕は入団2、3年前から宝塚の舞台を観始めたのだけど、当時の僕が感じていた宝塚レビューのきれいなところ、いいところを自分なりに詰め込みました。これが最初で最後かもしれないから、後悔がないようにと。だから2作目のレビューのお話をいただいたときは困りました。一作目で全部やっちゃったから(苦笑)」

湖月「そうなんだ! 『パッサージュ』のプロローグ、黒燕尾の男役さんや色とりどりのドレスの娘役さんが、次々と出てくる演出も素敵でしたよね」

荻田「この作品が2001年の上演で、もう四半世紀前!」

湖月「そんなに⁉ オソロシイ(笑)」

■「退団してからさらに、宝塚という特別な世界が愛おしくなった」

退団後、より深まった「宝塚愛」、その理由とは? 撮影:村井希衣
退団後、より深まった「宝塚愛」、その理由とは? 撮影:村井希衣

――おふたりは退団後もご一緒されている舞台がありますが、やはりずっと交流が続いていたのでしょうか。

湖月「時々、みんなでごはんを食べに行ったりしますよね。ここぞ、というときに」

荻田「はい、たまに!」

――退団後も活躍されている湖月さんについて、荻田さんからはどのように見えていたのかお聞かせください。

荻田「宝塚を辞められたとき、あまり女優さんになる気はなかったのでは、と思ってて(笑)」

湖月「アハハハ」

荻田「背が高いですし。でも歌や踊りは続けたいという思いがあり、変わらず自分のやりたいことに真っすぐ向き合って、今に至るんだろうなと思います。昔と同じくブレない人、というのが大きいですね」

湖月「ありがとうございます」

退団後に挑戦した荻田演出のミュージカル『絹の靴下』はロマンチックなコメディ作品。共演は今村ねずみ、樹里咲穂ら 提供:梅田芸術劇場/撮影:村尾昌美

――湖月さんは退団後、幅広い役を舞台で演じられながら、宝塚OG公演では「現役でもいけるのでは⁉」と思うほどの変わらないスタイルや、ダンスのキレを維持されているように感じます。どのようなことを意識されてきたのか、ぜひ教えてください。

湖月「すべては作品との出会いだと思うんです。自分がこうなりたい、と思ってなれるのではなく、毎回作品に真摯に向き合っていくなかで自然に…。私は宝塚90周年の時代に在団していたのですが、退団後しばらくして、宝塚100周年に向けてのイベントが増えたんですよ」

荻田「そうそう、梅田芸術劇場さん主催で、100周年に向けてのOG公演をやっていきましょう、というのが始まって」

湖月「おぎちゃんと一緒にやらせていただいた『DREAM,A DREAM』もそうですよね。そして私にとって、2008年に『愛と青春の宝塚~恋よりも生命よりも~』という作品に出会ったのも大きかったです。宝塚の生徒の役を初めて演じ、戦争を乗り越えられた先輩方への尊敬や感謝、偉大さを実感しました。タカラジェンヌを舞台上で演じることで、あらためて宝塚歌劇団というものに感動し、退団してからさらに、宝塚という特別な世界が愛おしくなりました」

荻田「そうだね、辞めてからね」

湖月「そこからのOGイベントだったので、やっぱりファンの皆さまの夢を壊したくない、夢を見続けてほしいという思いがあり、ダンスや肉体に対して常に意識していたところはあると今は思います。まぁ、自分が嫌なんでしょうね! ベストな状態で舞台に立ちたいと」

元星組トップスター鳳蘭筆頭に豪華キャストが出演した『DREAM,A DREAM』(2013年)でも、湖月はダンスを披露するシーンが多かった 提供:梅田芸術劇場/撮影:村尾昌美

■「ダンスを続けている元宝塚のスターは少ない。わたるはその数少ないひとり」(荻田)

荻田「ダンスを続けている元宝塚のスターさんは、どうしても少ない。ミュージカルに出演しても、役柄的に踊らない役が多くなるから」

湖月「そうですよね。あまり踊りってないですよね」

荻田「だから踊りを続けるのは、相当本人の意思が強くないといけないけど、わたるはその数少ないひとりです!」

湖月「OG公演でもダンスシーンをいただくことが多く、「湖月わたるはまだまだ踊れる」と思っていただけるのがやっぱりすごくうれしいので、そこに応えたいという気持ちはあります。それに、年齢を重ねるごとに、どんどん楽しくなっていくというか…。ダンスを続けるのは大変なのですが、今私は原点に戻っているというか、基礎的な訓練をきちんとやっておけば、どんなダンスにも対応できると先輩方からも伺うので、それを実践しています。

もちろん現役時代のほうが身体はキレキレですし、迫力があったと思うのですが、今はすごく、精神と肉体がリンクしていて、今だからこそ踊れるダンスがあるのかなと。なので、体力が続く限り、踊っていけたらと思っています」

2025年に湖月が挑んだのは、ダンス×演劇『マイ フレンド ジキル』。こちらでもキレのあるダンスを披露。柚希礼音との元星組トップスター同士の共演も話題に。撮影:岡千里
 

――素敵ですね! ちなみに基礎的な訓練とは、どんなことをされているのでしょうか。

湖月「(振付家の)前田清実先生には、「とにかく基礎はクラシックなので、やはりそのレッスンを受けておけば、どんな振付もその体でできるよ」と言っていただき、ピラティスとバレエを続けています。

そして私は身長が174cmと高いので、腰が浮くと、大きいからこそ格好悪くなってしまう。だから下半身の強化は必要だと思っています。宝塚在団中は毎日のように娘役さんをリフトし、それが日々筋トレ、みたいな感じだったのですが(笑)。今はパーソナルジムで、下半身を重点的にトレーニングしています」

荻田「筋肉は大事だよね(笑)」

湖月「そう、筋肉は裏切らないです!」

◇ ◇

荻田浩一氏が構成・演出する『TUMBLEWEED』では、湖月がかつて演じた伝説の女性ガンマン「カラミティ・ジェーン」の物語を、朗読×ダンス×歌で新たに創作。元雪組男役スターの彩凪翔と、声優や俳優として活躍する朴璐美が共演する。さらに湖月と縁あるゲストを迎えたスペシャルショーも披露。その詳しい内容を伺った、第2弾の対談インタビューも後日公開予定。

本作は2026年11月に、「宝塚バウホール」(兵庫県宝塚市)、「よみうり大手町ホール」(東京都千代田区)、「御園座」(愛知県名古屋市)で上演される。

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