新喜劇の人気キャラ“茂じい”、その裏にあった覚悟…辻本茂雄「必ず笑いを取らなあかん」

吉本新喜劇の辻本茂雄(Lmaga.jp撮影)
吉本新喜劇の辻本茂雄による人気キャラクター・茂造(通称:茂じい)を中心とするゴールデンウィーク恒例公演『茂造祭り!』が4月29日より開催される。京都の「よしもと祇園花月」閉館にともない、今回は会場を「サンケイホールブリーゼ」(大阪市北区)へと移す。
“竜じい”の井上竜夫、“和子ばあちゃん”の桑原和男など、新喜劇に数多の老人役が揃うなか誕生し、長く愛され続けている「茂じい」。演じるうえでの思い、またその魅力を、辻本に訊いた。(取材・文/田辺ユウキ)
■ 必ず笑いを取る…「重荷に感じたことはなかった」

──今回の『茂造祭り!』は、初の「サンケイホールブリーゼ」での実施になります。
『茂造祭り!』はもともと2009年から3年間、大阪の「京橋花月」でやっていて、2011年の閉館にともなって「祇園花月」へ会場が移りました。まず、「京都でもちゃんとお客さんが来てくれるんやろうか」と不安がありましたね。あと「祇園花月」での初公演「茂造のよみがえる祖先」では、「セット転換ができない」ということにもなり、「じゃあ茂造の過去の話をやっていこう」とそれまでとは発想を変えて舞台を作って。

──逆に「サンケイホールブリーゼ」は転換なども可能になりますね。
「サンケイホールブリーゼ」はいろいろな舞台をやってらっしゃる劇場なので、今までよりも作品の可能性が広がるかもしれません。
──辻本さんが茂造役をやりはじめた1995年頃は、老人役も“竜じい”の井上竜夫さん、“和子ばあちゃん”の桑原和男さん、そしてすでに吉本新喜劇を退団されていましたが間寛平さんも“寛平爺さん”で出演されていました。そんな群雄割拠の“老人役”に食い込んだのが、辻本さんでした。
今は逆に老人役をやる座員がいませんしね。僕にとって茂造は、役者として、芸人として育ててくれたキャラクターです。あと一番思うことは、茂造役をやるということは、必ず笑いを取らなあかんということ。あの格好ですから、それはすなわち「笑いを背負う」ということでしたから。
──プレッシャーはありましたか?
「必ず笑いを取らなあかん」とは思っていましたけど、それを重荷に感じたことはありませんでした。平成元年に「やめよっカナ」(※)があって、新喜劇で一緒にやっていた今田耕司さん、東野幸治さんも東京に拠点を移され、石田靖、内場勝則さんと僕の3人で引っ張っていかなあかんようになったとき、ものすごいプレッシャーを味わっていましたから。あのときは、時間があったらアイデアを出し合って朝を迎えて、みんなで考えて新喜劇をおもしろくしていきましたし。

(※)期限までに動員目標が達成されなければ吉本新喜劇を解散する企画
──辻本さんが茂造を演じて約30年、彼の生き方のこういうところがいいなと思うところはありますか。
ハチャメチャなだけではなく、優しさもあるところです。でも、ハッキリとものも言う。自分の子どもの頃を思い出したら、そういうおじいさんやおばあさんが周りにいたなって。僕は漁師町で育った悪ガキで、いたずらしたときにお母ちゃんに「反省せえ」と家を締め出されていたこともよくあって。そういうとき、近所のおばあちゃんが「うちにおいで」って入れてくれたんです。町全体が家族みたいで、特に近所のおじいちゃん、おばあちゃんは厳しさと優しさがありました。茂造にはそういう雰囲気がありますよね。

■ コロナ禍の公演で大ピンチ!? 「涙を流して…」
──そんな茂造のいろんな面を楽しめるのが「天使の茂造」。初演は2023年のゴールデンウィーク興行でした。
コロナ禍での公演でした。当時は、5月7日までコロナ禍で、8日に5類へ移行したんです。今でも覚えているのですが、そんな5月7日の公演の開演50分前、出演する役者が体調を崩して発熱したんです。同じ楽屋にいた2人も濃厚接触者で出られへん。ほぼ満席の状態で間もなく開場だったんですけど、支配人たちと「お客さんを帰らすか?」という話になって。でも「俺はそんなんできへん」と。
──ギリギリの判断に迫られた、と。
役者が3人もいませんから。でも、休演する座員の振りを受けて芝居をやるパートを、高井(俊彦)が急きょ一人芝居で乗り切ってくれたり、ほかにも穴が空いた役を別の役者がやってくれたり。こっちも「なんかあったら舞台上で全部、フォローするから」って。開演まで数十分しかない中で全部組み替えていったんです。
僕もメイクをしながら段取りをすべて変えていって、台詞の言葉数やツッコミの数も増やして。それで最後までやり切りました。カーテンコールが終わった瞬間、支配人と涙を流して抱き合いました。もしあの日の公演が5月7日のコロナ禍やなく、8日やったら、そこまでのことになっていなかったかもしれない。みんなでピンチを乗り越えてすばらしい舞台を作れたので、すごく記憶に残っています。
──「天使の茂造」は思い入れの強い公演なのですね。
今回は新しいメンバーも加わってよりパワーアップしています。たとえば、新喜劇のメンバーではないんですけどピーチ(かたつむり)はお客さんが腹を抱えて笑うくらいおもしろい子で、そんな彼をあるところにポンッと入れていて、それがまた作品に違う空気感を与えてくれます。新喜劇の座員では、小林ゆうちゃんのがんばりにも注目してほしいです。
とにかく笑いが増えていて、その分、緊張感もあります。本も頭から書き直しているので、一度ご覧になっている方も新鮮な気持ちで楽しめると思います。

──辻本さんは日頃から新喜劇の公演があり、さらにゴールデンウィークは『茂造祭り!』、年末は『茂造新喜劇祭り!』など大きな興行も行っていらっしゃいます。1年中大忙しですが、もし時間があいたら「こういうことをやりたい」という夢はありますか。
たまに休みの日も打ち合わせがあるし、新喜劇の作・演出もやっています。だからいつも本を書いていますね。稽古場が家みたいになっています。
ただ、お盆が終わったら、秋はちょっとスケジュールに空きがありそうなので…。そのとき、一個だけ夢を叶えたいです。娘がロスにいるんで、奥さんにロス旅行をさせてあげたい。ドジャースの大谷翔平選手が好きなので、試合を観戦させてあげたいです。僕は、家にいる犬と蛇の面倒を見なあかんから、こっちにおっていい。奥さんにロスで娘とゆっくりして来てもらうのが夢です。
◇
ゴールデンウィーク恒例公演『茂造祭り!』が4月29日から5月5日まで、「サンケイホールブリーゼ」にて開催される。チケットは昼の「GW茂造特別寄席公演」が前売4500円・当日5000円「天使の茂造」が前売5000円・当日5500円。
昼はネタ4組+茂造スペシャル新喜劇の寄席公演、第2部は笑って泣ける茂造の夜芝居「天使の茂造」が上演される。
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