信長の作戦通りって、どういうこと?「桶狭間の戦い」を解説【豊臣兄弟】

『豊臣兄弟!』第4回より。兵たちを前に檄を飛ばす織田信長(小栗旬)(C)NHK
豊臣秀吉の名参謀と言われた弟・豊臣秀長(小一郎)のサクセスストーリーを、仲野太賀主演で描く大河ドラマ『豊臣兄弟!』(NHK)。1月25日放送の第4回「桶狭間!」では、信長の勝利が決してラッキーパンチではなかったことを、改めて証明。ただ信長の戦略がやや複雑だったので、ここで今一度その用意周到さと、回想でインサートされた弟との顛末を整理したい。
■ 織田軍が今川義元へ奇襲をかける…第4回あらすじ
大高城を松平元康(徳川家康/松下洸平)に取られた信長は、家臣たちに出陣を命じる。信長の狙いは今川義元(大鶴義丹)の兵力を分散させ、首を狙いやすくすることだった。そして両軍に、丸根砦を守る佐久間盛重(金井浩人)が討ち取られたとの知らせが入る。
桶狭間にいた義元は、信長のとどめを刺すために軍勢の半分を鳴海城に向けるが、これによって義元の周囲の兵は5000程度となり、首検分により居場所まで特定された。

信長は即座に桶狭間に兵を動かすが、おりしも降ってきた雨で敵に進軍を気取られなかったうえ、今川軍の鉄砲は使い物にならなくなる。両軍が激突し、織田家家臣・毛利新介(永田崇人)が義元の首を取ったことで、信長は勝利した。
信長は、寝返りをはかっていた盛重をひそかに殺害して、戦況を動かした簗田政綱(金子岳憲)に一番手柄を与えると、ようやく妹・市(宮﨑あおい)と勝利の喜びに浸るのだった。
■ 家臣の首をエアタグに…信長の作戦を解説
数十年前の「桶狭間の戦い」は、油断した今川義元に織田信長がダメ元で奇襲をかけて、見事に博打に勝った・・・みたいな扱いで、ドラマとしても義元をいかにカッコよくあざやかに討ち果たすか? に力を注ぐ印象があった。
しかし、近年の研究で、信長がいろんなトラップを仕掛けて義元を誘い込み、孤立状態にさせてからすかさず奇襲をかけるという、かなり信長の「計画通り」な戦だったという認識になっていた。

それが、特に前面に押し出されたのが『どうする家康』(2023年)だった。家康が大高城の兵糧入れに成功できたのは家康が強かったためではなく、大高城を囮にして義元をおびき寄せるという計略に、家康がまんまと引っかかっただけ・・・という事実を、秀吉(ムロツヨシの怪演!)が嬉々として説明する姿にゾッとしたのが、非常に強烈に頭に残っている。
そして、この第4話は、まるでその時の解説の答え合わせのように、当時の状況を信長側から確認するという形になった。
まず、尾張国境の砦や城を義元の思い通りに落とさせ、しかしこちらからは動かないことで、今川の軍勢に「信長は噂通りのうつけもの」と油断させることに成功。前回の段階で、この状況を「上手く行き過ぎでは?」と早くもいぶかしんでいた徳川家康がそばにいれば、結果は変わっていたかも知れない。

さらに、信長が狙っていたのは、調子に乗った今川軍が清須の総攻撃に備えて、軍を分散させること。そこで防御が手薄になった義元の大将首だけに狙いを定め、指揮系統を破壊してしまうことだった。
そのために利用されたのが、丸根砦の佐久間重盛。簗田政綱を通じて、彼が寝返る気だというのをおそらく知ったのだろう。政綱に重盛を騙し討ちさせて、その首を敵軍に差し出した。検分は義元が行うので、首の行方を追えば義元の居場所がわかる・・・というわけ。家臣の首をエアタグ代わりにするとか、恐ろしすぎる作戦だ。
■ なぜ、一番手柄が今川義元の首じゃない?
ここまで慎重な姿勢だったのに、勝ちの大波にうっかり乗ってしまって、身の回りの家臣を減らしてしまった義元。さらに直前の豪雨によって、火縄銃が濡れて使えなくなった。この辺りは信長の運の強さもあったが、やはり今川軍の行動の先の先を読んで、一点突破を狙った戦略の緻密さが大きな勝因だろう。
そして今回は、一番手柄が義元の首を取った毛利新介ではなく、なぜ簗田政綱という武将だったのか? という謎も解き明かす回となった。

政綱が一番手柄となったのは、義元の居場所を突き止めたからだそう。これだけだとちょっと理由としては弱い気がしていたけど、今回のドラマを見て、義元の居場所が判明するというのが、作戦上最も重要な情報だったことが理解できた。
さらに重盛を「実は裏切り者でした」キャラにすることで、謀反人の誅殺+義元の居場所を突き止める餌にする・・・という、一石二鳥な役割を果たしたという設定にしたのだ。

ただこれは政綱が切れ者だったのではなく、たまたま重盛の裏切りを知り、それを信長が上手く利用したに過ぎなかったのだろう。政綱はこの後沓掛城の城主に出世したものの、その後は特に大きな働きは見せておらず、死没年すら不明だ。彼にとってはこれが一生に一度の栄光、歴史の一発屋みたいな働きだったのかもしれない。
ちなみに義元の首を取った毛利新介は、その後信長の側近として活躍。もし今回秀長が信長のスカウトを承諾していたら、彼と同僚になっていたわけだから、その世界線も見てみたかった気がする。
■ 信長の「弟」へのトラウマ…豊臣兄弟に託す
そして秀長が、信長の側近よりも兄・秀吉の配下になること(+50貫のボーナス)を選んだとき、信長がフッと自分の弟のことを回想するターンとなった。
それまでの雄々しいBGMが、プツンと無音になったときに浮かんだその風景は、信長に刃を向けた弟・信勝(中沢元紀)を、柴田勝家(山口馬木也)が斬り殺すというものだった。史実では信長は病を装い、見舞いに来た信勝を暗殺したと伝わっている。回想の信長が寝間着姿だったのは、そういうことだ。

『麒麟がくる』(2020年)では、信勝が見舞いを装って持ち込んだ毒を信長が飲ませるという、かなり強烈な絵面が視聴者にショックを与えたが、勝家が信勝を誅殺するという構図も割とキツかった。
というのも勝家はもともと信勝派で、信長とは敵対関係にあったが、いろいろあって信勝に疎まれたために、信長側についたからだ。首検分の最中に、勝家が豊臣兄弟を苦い顔で見ていたのは、単に彼らを軽んじていたのではなく、「織田兄弟!」もこうあって欲しかったという悔いを感じていた・・・とも推察できる。

そして以前のコラムでもチラッと話したけど、この出来事は桶狭間の戦いのわずか1年ぐらい前のこと。小栗信長が第1話の時点で、すでにどす黒い空気を背負っていたのは、そんな辛い事件があったからだと、改めてわかった。
自分の草履を片方ずつ豊臣兄弟に与えて、決して片方だけになってはいけないと命じた信長。これから彼が秀吉・秀長を重用するのは、みずからの「こうありたかった」を2人に託すということだろう。この信長、床に寝転んで1人で勝利を喜んだ姿と併せて、なんだかどんどんいじらしくなってきた。
◇
大河ドラマ『豊臣兄弟!』はNHK総合で毎週日曜・20時から、NHKBSは18時から、BSP4Kでは12時15分からスタート。2月1日放送の第5回「嘘から出た実(まこと)」では、豊臣兄弟が織田信長から思いがけない役割を託されるところが描かれるとともに、秀吉と出世を競うことになる前田利家(大東駿介)が初登場する。
文/吉永美和子
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