設計者たちのアフター万博…半年のみ、環境配慮、酷暑…各パビリオン建築が挑んだ課題

左から、荒井さん、石井さん、大石さん、山崎さん、御所園さん、勝又さん、小林さん
約200の建物が参加する、日本最大級の建築イベント『生きた建築ミュージアムフェスティバル大阪(イケフェス大阪)2025』が、今年も10月25日と26日に開催され大盛況だった。期間中はさまざまイベントもおこなわれたが、今年は『大阪・関西万博』に関連する企画も登場した。
万博をきっかけに建築を身近に感じ、興味をもった人たちもいるだろう。なぜパビリオンはあの形になったのか、また、「パビリオンの終わり」とは…?大阪の街歩きをする人がグッと増える『イケフェス大阪』の関連イベントとして、26日午後におこなわれた『アフター万博 組織・ゼネコン設計者の当事者たち』を取材した。
◆ 万博の「建築」に注目集まる。万博ならではの課題とその対策は…?

『大阪・関西万博』の話題で、メディアに登場する機会の多かった設計者といえば、「大屋根リング」を設計した会場デザインプロデューサーの藤本壮介さん、シグネチャーパビリオン「EARTH MART」などを設計した隈研吾さん、「2億円トイレ」として話題になった米澤隆さんなどが挙げられる。だが、万博会場には多くの建築物があり、彼ら以外にも多くの設計者が活躍する場となった。
今回座談会に登場したのは、個人名がなかなか表に出ない、設計事務所やゼネコンに所属する設計者たち。異なる組織の設計者が、万博開催が批判されるなかでおこなった、万博ならではの課題(半年のみの使用・建材の高騰・環境への配慮など)を解決した設計アプローチを話し合うという珍しい企画だった。
登壇したのは、「ガスパビリオン おばけワンダーランド」、「三菱未来館」、「森になる建築」、「うみクル」を設計した6名。知ると「なるほど!」となる貴重な話が多数飛び出した。

◆ 「うみクル」(大成建設/勝又洋、御所園武)

何度も万博に足を運んだというファンも、「うみクル」は知らないという人も多いかもしれない。「うみクル」とは、会場の西端にあったEXPOアリーナ「Matsuri」の海に面した場所に建っていた物販棟の名称だ。単管の構造に、ブルーとホワイトのグラデーションに並べられた丸いパーツが、風をうけてクルクルと回る建物で、海をバックにキラキラと光る姿を記憶している人もいるのではないだろうか。

「自分が作る建築と風景の間に何があるのかということにすごく興味があって、人の心を揺さぶる情景みたいなものを作っていきたいと考えています」と勝又さん。5000枚の丸いパーツは、社員たちと対馬に行って拾った海洋プラスチックごみ100%でできている。ペットボトルにすると3万本分にもなるそうだ。
「うみクル」は、組み立ても解体も手作業でできる。プラスチックはまた粉砕して再利用が可能で、今後の利用は検討中とのこと。「私自身も海が好きで。『うみクル』ができればできるほど、海が綺麗になっていくって素敵じゃないですか。いつか海のゴミがなくなるといいですが、決して簡単な問題ではない。『うみクル』を見て『なんだろう?』『ゴミでできてるんだって』と、自分事として捉えてもらえたらいいなと思っています」と勝又さんは話した。

◆ 「森になる建築」(竹中工務店/山崎篤史、大石幸奈)

「森になる建築」は、万博会場に置かれることになった経緯も特殊だ。山崎さんは、「北京オリンピックの建物の荒れ果てた10年後の姿をニュースで見て、自分たちが作った大きな建築の成れの果てがこういうふうになるのかと衝撃を受けました。ゴミになるのではなく、建築があることでその場所の環境がよりよくなるものができないかと考えました」と、プロジェクトをスタートした経緯を話す。
フジツボや玉ねぎのような形をしたこの建物は、「酢酸セルロース樹脂」を3Dプリントしたもので、表面には山崎さんたちが森で拾った種が漉き込まれた紙が貼り付けられている。「酢酸セルロース樹脂」は、見た目はプラスチックのようだが、樹木のバルブでできた樹脂で、「森になる建築」の建物ひとつで7、8本の杉が使われている。生分解性が高い(自然に還りやすい)のが特徴だ。

「森になる建築」は、社内の万博に向けたコンペで最優秀賞を受賞したプロジェクトだったが、実際に万博会場に設置するという話はなかった。山崎さんたちはプロモーションに力を入れ、動画を見た藤本壮介さんからGOが出て実現に至ったという。

閉幕の頃には、種子から発芽した植物がのびてきていた。山崎さんは、「手を加えていくことで愛着が生まれていく、だんだん可愛くなっていくことを意識しました。同じように、自分の目の前にあるもの、たとえば家なんかを大事にしてほしいなって。飽きたりするから、建築って捨てられると思っていて、自分で手を入れてもいい存在なんだと思うと捨てられなくなるんじゃないかと思うんです」と、「森になる建築」に込めた想いを明かした。「森になる建築」は、同社の「森づくり研究所」に移されて森になる予定だ。
◆ 「ガスパビリオン おばけワンダーランド」(日建設計/石原嘉人)
「ガスパビリオン おばけワンダーランド」(一般社団法人日本ガス協会)を設計した石原さんは、パビリオンで実証試験をおこなうことで、未来の環境に貢献するパビリオン建築にすることを目指した。

陽射しを反射させる性能と、熱を放出させて冷却する性能を持つ膜材「SPACECOOL(スペースクール)」一枚のみで内外の仕上げとし、拡張現実(AR)と仮想現実(VR)の体験を広げる大空間を確保。スペースクール膜の効果を利用し、三角屋根の上部から熱を放出することで。その結果、空調負荷の削減効果60%以上を実現している。また、構造材にはリース鉄骨を利用することで、建設・解体時のCO2の発生量を大幅に削減しているという。

「放射冷却膜材『SPACECOOL』を使っていることもあって、段階的に発生した課題を解決しながら建築に落とし込んでいくというのは、万博ならではの体験でした」と石原さん。

使用したレンタル鉄骨は解体後またレンタル鉄骨として利用され、膜材は市政や企業と連携したイベント用のテント膜に生まれ変わる予定とのこと。パビリオンのコンセプトだった「化けろ、未来!」は、閉幕後も続いていく。
◆ 「三菱未来館」(三菱地所設計/荒井拓州)
「三菱未来館」(三菱大阪・関西万博総合委員会)を設計した荒井さんは、唯一、万博設計が2度目の経験者。最初は2005年の『愛・地球博』で、開幕後に現地に行ってみると、暑いなか日傘をさして並ぶ人たちがいた。それを見て、「来る人のことを考えられていなかった」と反省したと話す。

そのため、2回目の設計となった大阪の万博では、「夏場に長時間並ぶということは、最初から想定されていたので、日除けをどうしても作りたかった。そのためあえて半地下空間を作り、日除けスペースを設けています」と荒井さん。

建物の先端は浮いているようなデザインになっているのもポイント。また、建物には仮設の資材がうまく利用されている。半地下にするために掘った土は、建物の外構部でつかい、建物を解体したあとに埋め戻す予定だ。
そして、荒井さんは横浜でおこなわれる『GREEN×EXPO2027』(2027年国際園芸博覧会)の三菱グループのパビリオンも設計する。大阪の万博で使用した木材を、横浜のパビリオンで再利用するそう。また、地下は作れないが、日除けもしっかりと考えていると話した。
「一般の人には、単純に『万博に来て楽しかったね』とか『先っぽが宙に浮いている三菱未来館、地下が涼しかったね』みたいなことをちょっと記憶に残してもらえたら、それだけでいいんじゃないかなと思っています」と荒井さん。

どの設計も、万博ならではの課題をそれぞれのアプローチで解決しながら、実験を繰り返し、多くの人の協力のもと完成している・・・ということが改めて感じられる座談会だった。これは、万博会場にある全ての建物に共通することだろう。
なお、イベント当日は、会場となった「大成建設関西支店」でシュレッダーごみを利用した工作と、会場周辺に飛来する野鳥の塗り絵のワークショップも開催され、座談会の内容とあわせて、楽しみながら環境について考える取り組みも行われた。
取材・文・写真/太田浩子

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