スキップ週は「お笑い週」のようでいて重要な週「2人の関係性のはじまり」

2時間前

『ばけばけ』第40回より。ヘブン(トミー・バストウ)からクイズ大会の優勝賞品を手渡されるトキ(髙石あかり)(C)NHK

(写真5枚)

今週の連続テレビ小説『ばけばけ』(NHK総合ほか)は第8週「クビノ、カワ、イチマイ。」が放送され、トキ(髙石あかり)が失敗を繰り返しながらも、なんとかヘブン(トミー・バストウ)から「正式採用」をもらった。

■ ふじき脚本の面目躍如、「何も起こらない物語」始動

本作を手がける脚本家のふじきみつ彦さんは『きょうの猫村さん』(テレビ東京)や『阿佐ヶ谷姉妹の のほほんふたり暮らし』(NHK総合)など、ささやかな日常の描写が光る脚本で知られる。『ばけばけ』の制作発表時も、ふじきさんは「何も起きない物語を書いています」と語っていた。

そう言いながら第7週までは、司之介(岡部たかし)の商売の失敗と出奔、松野家の凋落、トキの出生の秘密、トキと銀二郎(寛一郎)との結婚と別離、ヘブンとの出会い、雨清水家の零落、ラシャメン覚悟のトキの決意・・・と、毎週ジェットコースターのような展開が続き、「何も起きないどころか、かなりのことが起こってるが!?」と思った視聴者も少なくないはず。

『ばけばけ』第37回より。(C)NHK
『ばけばけ』第37回より。ビール瓶から泡があふれ、慌てるトキ(髙石あかり)とヘブン(トミー・バストウ)(C)NHK

しかし今週8週こそは、トキがビールの調達に苦心したり、ヘブンが教えたスキップがトキたちの間で流行ったり、「ヘブンクイズ大会」が開催されたりと、実に「何も起こらない日常」が描かれた。いよいよ、ふじき脚本の面目躍如といった趣だ。

■ 互いの想い人を尊重しあうところから…

しかし、そんななかにもトキとヘブンの「異文化コミュニケーション」を通じて、互いの心が動く瞬間がいくつかあった。39回で、トキが人力車に乗るのが初めてでない理由を、銀二郎とのことも含めて、錦織(吉沢亮)がヘブンに説明しようとしたとき、ヘブンは「思い出はべらべらと話すものじゃありません」と差し止める。

『ばけばけ』第39回より。(C)NHK
『ばけばけ』第39回より。蚊帳を出てトキたちと話すヘブン。写真左から、トキ(髙石あかり)、ヘブン(トミー・バストウ)、英語教師・錦織(吉沢亮)(C)NHK

また40回では、トキがこれに返礼するかのように、錦織や学生たちがヘブンが大事にしている恋人・イライザ(シャーロット・ケイト・フォックス)の写真について詮索しようとするのを、「ヘブン先生の大事な人だから」とたしなめた。ヘブンはこれに、心を動かされる。

何気ない日常のなかで、トキとヘブンの心が少しずつ、少しずつ近づいていく。その入り口に立ったと言える第8週と、今後のふたりの心の動きについて、制作統括の橋爪國臣さんに聞いた。

■ 人生もドラマも、一本筋にはいかない

橋爪さんは、トキとヘブンの心が近づく過程について「とてもこだわって描いた」と語り、こう続ける。

「『大きな出来事は起きないけれど、何かが少しずつ進んでいく』という作劇は、ふじきさんが最も得意とするところで、この8週の脚本は『ふじきさん、とても筆が乗ってるな』と感じました。

人生って、『トキとヘブンが出会いました』『ふたりは結婚して幸せになりました』というように、一本筋にいくわけではなくて。うまくいくこともあれば、いかないこともあり、寄り道しながら、少しずつ少しずつ、ふたりの気持ちが高まっていくように描きたいと思いました」。

『ばけばけ』第40回より。(C)NHK
『ばけばけ』第40回より。英語教師・錦織(吉沢亮)のヘブンへの質問を制するトキ(髙石あかり)(C)NHK

また、銀二郎とイライザという、トキとヘブンの心のなかの大切な存在を、互いが尊重することで、ふたりの心が開きはじめるという8週の繊細な作劇について橋爪さんは、

「何も起こらないようでいて実は、第8週はトキとヘブンの関係性の第一歩目という大事な週でした。『人力車をめぐる銀二郎との思い出』と『イライザの写真』が、ひとつのきっかけとしてつながるといいなと。

『ばけばけ』第39回より。(C)NHK
『ばけばけ』第39回より。英語教師・錦織(写真左、吉沢亮)やトキ(写真中央、髙石あかり)と、にこやかに話すヘブン(写真右、トミー・バストウ)(C)NHK

8週・9週にはそれ以外にもとても小さな、細かいところでふたりの心が近づく出来事があるのですが、作劇をしていくときに特にこだわったのは、『こういう大きなポイントがあったから、この人なんです』ということではないように作りたい、ということでした。『気づいたらいつの間にか、お互いに意識していた』というふうになればいいね、という話をスタッフ間でしました」と語った。

これからゆっくりと時間をかけて、心を通わせていくトキとヘブンの物語。視聴者も「気づいたらいつの間にか」この朝ドラに夢中になっているに違いない。

取材・文/佐野華英

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