【京都・老舗の継承】手仕事を守り、発展させていく「かづら清老舗」

6時間前

『かづら清老舗』6代目、代表取締役社長・霜降太介さん(2025年8月撮影)

(写真8枚)

八坂神社へ続く祇園商店街の北側に、慶応元年(1865年)創業の「かづら清老舗」(京都市東山区)があります。美しい髪にまつわる商品「つばき油」、「つげ櫛」、「かんざし」のほか、和装バッグなども並ぶ和モダンな店内で、6代目の代表取締役社長・霜降太介さんにお話を聞きました。

『かづら清老舗』6代目、代表取締役社長・霜降太介さん(2025年8月撮影)
『かづら清老舗』6代目、代表取締役社長・霜降太介さん(2025年8月撮影)

『かづら清老舗』は、初代・霜降栄吉氏が、寺町で芝居小屋「東向座」を経営しながら、髢(かもじ)(日本髪につける付け髪)やかつらを、役者や花街関係者に販売したことから始まります。2代目・清三郎氏は、かつらをあつかうお店を独立させて、かつらと自らの名前をとった「かづら清」と名付けました。2代目は京都御所および宮中女官用品の御用達として長く務めてきたそう。現在の地に移転したのは、1936年です。

「昔は店内にもっとかつらが並んでいて、舞妓さん、芸妓さんはもちろん、一般の家庭でもお正月は日本髪のかつらをレンタルするような文化だったんです」と新聞の切り抜きを見せてくれた霜降さん。それは「日本髪をレンタルして振袖を着てお正月を迎えましょう」という内容が書かれた、若かりし頃のおばあさまが写る新聞記事でした。

かづら清が紹介された古い新聞の切り抜き(提供:かづら清老舗)
かづら清が紹介された古い新聞の切り抜き(提供:かづら清老舗)

■つばき油の事業を4代目がスタート

その後、時代とともにかつらは減り、髪飾りが増えていきます。それを見越していたのか4代目・俊哉氏が、「美しい髪に、美しい髪飾りを」の理念のもと1974年に長崎県五島につばき油の搾油工場・椿園をつくり、つばき油の自社生産をスタートさせます。さらに、かんざしの生産拠点「かづら清加賀工房」を加賀に開き、趣味だった古美術のギャラリーも始めました。

「加賀は湿度が高くて漆の作業に適していた。五島列島は椿の名産地。ほんまにええもんやええ職人さんがいるんやったら京都にこだわりません。4代目は仏師だったこともあり、手先が器用で、かづら清の発展に貢献したおもしろい人です。その血を引いているからか、うちの家系は挑戦が好き。大事なことやなと思っています」(霜降さん)

看板商品のつばき油は、自社椿園で収穫した実を、自社工場で搾油しています
看板商品のつばき油は、自社椿園で収穫した実を、自社工場で搾油しています

5代目の霜降さんの父・茂夫さんは、女将の富紀子さんと協力して、つばき油を使用したシャンプーなどヘアケア・スキンケア製品を開発して用途を広げました。霜降さんも、コロナ禍でいち早く、つばき油を配合し手荒れに配慮した「高濃度アルコール除菌ジェル」を企画開発し医療機関や学校などに供給してきたほか、今年8月には約2年かけて開発したボディーソープ、ハンドソープ、バスソルトをリリースしました。

また、祇園本店を日本古来の工芸の美が感じられる和材を使った内装にリニューアル。ラグジュアリーホテル向けに商品開発をおこない、アメニティーに自社のスキンケア商品を利用してもらうBtoBも始めています。

「うちは無添加の処方にこだわっていて。つばき油も添加物はもちろんゼロだし、農薬も使わずに育てるようにしています。できるだけ自然に仕上げて、お肌に負担をかけすぎないようにと考えています」

「1粒の椿の種から、つばき油はわずか数滴しか取れません。スタッフみんなが1滴を大事にしています。だから想いを持って使ってくださると嬉しいし、そういうところとお取り組みをしたいなと思っています」

■32歳で社長に、6代目を引き継ぐ

そう話す霜降さんは32歳で社長になり、翌年に5代目の父が62歳で病により亡くなりました。大学卒業後は株式会社リクルートで修業をしてきた霜降さん。容態が悪化した父から「お前ならいける。潰してもいいからやれ」と言われて急な家業の引き継ぎになりました。

「引き継ぎが十分できたかというと、やはりそうではないですね。数字で読み取れることは事実としてわかるんですけど、その裏側でどんな想いを持ってやっていたとか、どんな哲学があったのかっていうのは引き継げていない。もっといろいろなことを聞いておいたらよかったと何度も思いました」

引き継ぎから3年くらいは、必死すぎてほとんど記憶がないそう。さらに引き継いですぐにコロナ禍になり、祇園の商店街は94%が閉まっていたと話します。コロナが明けてからはオーバーツーリズムが叫ばれるようになり、環境が目まぐるしく変化するなか、現在も忙しく過ごしています。

「僕が引き継いでから、高齢の職人さんの引退をたくさん見てきたんですよね。当たり前にやっていた技術が立ち枯れてしまうことに、もどかしい気持ちがありました。これからは技術の継承や、そのための道具の開発もしていきたい。大量生産ではない手仕事の領域を守り、今のラインアップを維持発展させたいと思っています。そして、手仕事のぬくもりを体験していただくためにも、オンラインだけでなく京都で手に取ってもらうことを大事にしたい」

店内には美しいかんざしなどの髪飾りがならびます
店内には美しいかんざしなどの髪飾りがならびます

「つばき油は髪やお肌にもいいですし、娘たちも0歳から全身に使っています。つばき油には、人間の皮脂にも含まれるオレイン酸を豊富に含むことで、髪や肌の保湿、保護、柔軟化、そして肌のバリア機能のサポートといったさまざまな効果が期待できます。自然な形でお肌を健やかに保ちます」と話しつつ、ふたりの娘さんが写る携帯の待ち受け画面に目を細める霜降さん。長女は7歳だそう。

「得意不得意や本人の希望もあるとは思いますが、できることなら継いで欲しいと思っています。昨日は上の子とはじめてデートしたんですよ。すごく楽しんでくれていて、かわいかった。そんな姿を見て、将来一緒に仕事ができたらいいなって、昨日もやっぱり思いました」

取材・写真・文/太田浩子

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