本が10冊売れるとカワウソが増える…? 大阪の書店の癒やし現象を調査

11時間前

カワウソの家族が登場する『レモネードに彗星』(著者:灰谷魚)の特設コーナー(9月下旬撮影)

(写真6枚)

「梅田 蔦屋書店」(大阪市北区)の一角に現れたとあるポップがSNS上で話題を呼んでいる。それは「本が10冊売れるごとに、カワウソの家族が1匹ずつ増えていきます」というもので、「かわいすぎる」「天才の発想」などの声が続出。

なんとも癒やされる企画だが、なぜカワウソ・・・? 謎に迫るべく、同店の書店員で文学コンシェルジュをつとめる河出真美さんに直撃してみることに。

■ 書店員の「個人文学賞」から生まれた、カワウソの家族

──早速なのですが、話題のカワウソ家族がいるのはどちらですか?

灰谷魚さんが7月1日に発売した小説『レモネードに彗星』の特設コーナーです。こちらの作品は、私が過去半年に出合った文学作品のなかから、「新作・旧作を問わず本当に読んでほしい本」を選出した個人文学賞「河出真美賞」の第1回受賞作となっています。

話題となったポップ。当初の目標である10匹まであと少し
話題となったポップ。当初の目標である10匹まであと少し(9月下旬撮影)

──そもそも「個人文学賞」を設けたのはどういった経緯があったのでしょうか?

一番のきっかけは、第173回の芥川賞と直木賞がどちらも該当作なしだったことです。発表の日は、全国の書店が受賞作品を売り込んでいくためにも心待ちにしている日なのですが、両賞が該当作なしということがものすごくショックだったんですね。

そんな折に「個人文学賞」の存在が思い浮かびました。「個人文学賞」というのは、さまざまな書店で実施されているスタッフが個人で選ぶ文学賞のことなのですが、以前からいいなと思っていて。

「該当作なし」の発表を聞いたときに、「個人文学賞」の形でなにか違う本に光を当てたいなと思いました。それから店長に相談をして、おすすめするための文章やポスター、本に付ける帯なども特急で作成し、ひと月も経たないうちに発表まで至りました。

個人文学賞「河出真美賞」を考案した、「梅田 蔦屋書店」の書店員で文学コンシェルジュをつとめる河出真美さん
個人文学賞「河出真美賞」を考案した、「梅田 蔦屋書店」の書店員で文学コンシェルジュをつとめる河出真美さん

──なるほど。そこからどういった経緯で「売れるたびにカワウソの家族を増やす」というアイデアにつながったのか気になります。

店長の知り合いに、書店販促の戦略アドバイザーをつとめ、書籍も出している瀬田崇仁さんという方がいまして。店長が瀬田さんとご飯に行った際、私が「個人文学賞」を作りたいと話していたことを相談してくださったんです。

それで決まったのが、「本が10冊売れるたびにカワウソを増やす」という案でした。私も、正直なところ初めて聞いた時には「どういうこと?」となったんですが・・・(笑)。

ただ、近年さまざまな書店で「個人文学賞」を実施しています。そんななか「うちならではの特色を出すには?」と考えた結果、生まれたアイデアということです。

私の名前に「河」がついているので、そこから「カワ」を取ってカワウソを増やすことになりました。つまり、「選んでいる人間」を打ち出していこうということですね。

一連のアイデアを提案した『ひらめきはスキルである』の作者・瀬田崇仁さん
一連のアイデアを提案した『ひらめきはスキルである』の作者・瀬田崇仁さん

──そんな深い意味があったんですね! それにしても話題になるのも納得な可愛さです。

うちの店のスタッフに「カワウソのぬいぐるみを探してるんです」と言ったら、「めっちゃ可愛いカワウソのぬいぐるみがある!」と探してきてくれたのがこの子たちです。私もオンラインショップで写真を見たときに、すごく可愛かったのですぐに決まりました。

ただ可愛いだけじゃなく、手がマグネットになっているので、パネルを挟んだりできるのもお気に入りなところです。

実は1匹ずつ違うデザインのリボンをつけており、それぞれ個性がある
実は1匹ずつ違うデザインのリボンをつけており、それぞれ個性がある

カワウソたちも用意して、SNSに投稿する準備が整ったと思ったら、お客さまが先にXで投稿してくださって。

カワウソが話題になる前から文学賞自体に注目してくださるお客さまも多かったんですが、時間の経過で少し落ち着いた矢先に、投稿のおかげでブーストがかりました。アイデアを考案してくださった瀬田さんを含め、本当に感謝しかないです。

──現在9匹にまで増えたカワウソ家族ですが、今後どうなるんでしょうか。

今回の展開はもう少し経ったら一度終了する予定です。もちろん『レモネードに彗星』は置き続けますが、一旦カワウソ家族とはお別れという形に・・・。ただ「個人文学賞」は1月・7月と年に2回実施するので、そう遠くない日にまた会えると思います。

『レモネードに彗星』を読んだ人に河出さんがおすすめしたい作品『燃えるスカートの少女』(著者:エイミー・ベンダー)も併設
『レモネードに彗星』を読んだ人に河出さんがおすすめしたい作品『燃えるスカートの少女』(著者:エイミー・ベンダー)も併設(9月下旬撮影)

──最後に、今回の展開に込めたメッセージがあれば教えてください。

今回、素敵なアイデアのおかげで注目していただいたのですが、やはり主役は受賞作品の『レモネードに彗星』だと考えています。芥川賞・直木賞が該当作なしとなり、「個人文学賞」の企画が始動し始めてから、選ぶ時間はわずかでした。

そんななか「面白いらしい」と聞き手にとったこちらの作品を、あっという間に読んでしまいました。そしてすぐに「これだ!」と決まりまして、本当に運命的な出合いでした。他のどこでも読んだことのない作品なので、ぜひ色々な人に手にとっていただきたいです。

なお同店では9月30日に目標としていた100冊をクリアし、10匹目のカワウソが仲間入りした。ひとまず『レモネードに彗星』の特設コーナーは終了したが、来年1月の河出真美賞に向けての準備は進んでいる。またカワウソの家族が見られる日も近いかもしれない。

取材・文・写真/つちだ四郎

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