リアルタイムの東京を…映画『見はらし世代』、20代監督と俳優がタッグ

映画『見はらし世代』主演の黒崎煌代(右)、団塚唯我監督
2025年の「カンヌ国際映画祭」監督週間に⽇本⼈史上最年少(26歳)で選出された、団塚唯我監督の長編デビュー作『見はらし世代』が10月10日より全国公開される。同作は、父親が家族のことをほとんど顧みず仕事に没頭した結果、離散した一家の物語。東京の街の再開発や整備が進む様子に、壊れきった家族の姿が対照的に描かれていく。
そんな家族の一員である胡蝶蘭の配送運転手・高野蓮を演じたのが、NHK連続テレビ小説『ブギウギ』(2023年度後期)でデビューした注目の若手俳優・黒崎煌代。黒崎は、自身の出演映画『さよなら ほやマン』(2023年)でメイキング映像を担当していた団塚監督と出会い、『見はらし世代』への出演に繋がった。そこで今回は、団塚監督と黒崎に『見はらし世代』について話を訊いた。

■ 黒沢清監督の言葉「生の雑味」を削らず、今の街や人々を記録
──『見はらし世代』は、都市や日常の何気ない様子が映画的な暗喩と符号へと変わっていく部分が素晴らしかったです。「まるで黒沢清監督の映画のようだ」と思ったのですが、映画美学校在学中に団塚監督自身が師事されたのは万田邦敏監督だったようで。
団塚:確かにお二方の影響はすごくあると思います。万田さんからは「まず現場で、役者さんの芝居を見ましょう」「役者さんに動いてもらう過程のなかで『こういうものがおもしろい』と画を決めていきましょう」と教えてもらいました。
黒沢さんも、授業に来られたとき『(現場で起きた)生の雑味をあまり削り取らない方がいい』とおっしゃっていました。それらの言葉を受け、今回の映画は「今の街」や「今の人々」をしっかり記録する意識で進めていきました。

──確かに、画作り自体はかなりビシッと決めている感じがありましたが、役者が動いたり、喋ったりすると、その場面の雰囲気が一気に変わっていった印象がありました。特に蓮が、久しぶりに会った姉・恵美(木竜麻生)から「私、結婚する」と聞かされたときの「あ、おー、おめでとうございます」という他人行儀なリアクション。黒崎さんの独自のテンションもあり、クールな画だけどユーモアが溢れ出ていました。
黒崎:あのシーンは、実は若干苦労したところでした。姉と弟の距離感をどのように出したらいいのか、そしてそれがうまく表せないとその後の展開が壊れてしまうと思っていたんです。ですので、あのシーンに関しては監督や木竜さんと話し合って、何度かトライしました。
団塚:珍しく僕が細かく言ったシーンだったかもしれません。物語の土台になりうるシーンで、そこがうまくいけば話がちゃんと駆動していく。つまり「この人たちによって物語が作り上げられて行く」と思っていたんです。蓮と恵美、そしてその前の父親・初(遠藤憲一)と母親・由美子(井川遥)の会話の場面だけは、僕が細かくいろいろ言わせていただきました。

■ ちょっと聞き取りづらい!? 黒崎煌代の「声」に注目
──あの場面での、黒崎さんの特徴的な低い声がとても良い。黒崎さんの声は、良すぎるからこそ逆にそれが持て余されることもあるんじゃないかなって。しかし『見はらし世代』に関しては、黒崎さんの声でどんな台詞を言わせるのか、この低い声でこんなことを言わせたらおもしろいんじゃないか、そんなことがすべてバチッとはまっています。
団塚:黒崎くんの声は、その低さゆえにちょっと聞き取りづらい瞬間が他の人よりある気がします。でも僕は今回、聞き取りづらさみたいなものも、聞き取りづらいままで「OK」を出し続けました。極端な言い方ですが、黒崎くんがなんて言ったのかはっきり分からなかったけど、「うん、OK」みたいな(笑)。
黒崎:ちょっと待ってください、そうだったんですか(笑)。

団塚:でもその方が、黒崎くんらしさが出ると思ったんです。あと黒崎くん自身も、蓮のキャラクターを考えて台詞を立たせようとしていなかったはず。そういう役者さんの気持ちに僕も応えたかった。だから、ほかの現場だったら「もう一回」となるかもしれないところも、今回は制限を設けないことを意識していました。
黒崎:でも実は、それは狙っているところもありました。あと、ボソボソっと言う台詞のなかにも聞き取りやすいところを作っているんです。というのも自分自身、台詞を台詞として言いたくなくて。
特に団塚さんの脚本に書かれているものは、台詞というより自然と出てくるような言葉ばかり。自分がそれを台詞っぽく言って、この作品の世界観を壊したくなかったんです。だからそこは勇気を持って自分らしい口調にし、監督や音声さんたちに委ねました。

──あと先ほどお話が出てきた、初と由美子が家族の今後について話し合い、亀裂が生じるシーンもすごかった。映画のスタートを飾る場面で、あれだけ夫婦の深刻な会話を、間をじっくり使って見せるのはチャレンジングに感じました。
団塚:あの二人の会話をどう撮るかはもっとも重要でした。遠藤さん、井川さんには「間みたいなものは何分あってもいいと思ってやってください」という風にお伝えしました。もしも3分黙りたくなったら、黙ってもらっても大丈夫ですと。
実際にこういう恋人同士や夫婦の言い合いって、会話と会話の間に3分くらいの沈黙が流れたりしますよね。別れ話のときとか、そんな沈黙の時間も一瞬で過ぎていって、気付かないうちに6時間経っていたり。そういう「別れ話を6時間する感じ」を映画でやってみたかったんです。
黒崎:あのシーンはすごくいいですよね。私も、監督から「どれだけ間を取ってもいいよ」と言われたら、めちゃくちゃ取ります。これは自分の考えですが、俳優が間を気にするのは「極めて芝居的だな」と思うんです。私自身、間合いをとる芝居に対しては怖がらないところがあります。
だから歩道橋のシーンでの蓮の間合いが成立しているんです。私はあのシーンを見ていて、「この俳優、間合いを取りすぎだろう」「早く台詞を言え」と自分で思ったくらいでしたから(笑)。でも、あのシーンをやっているときはなんとも思っていなくて、これが普段の人間の間合いであり、蓮の間合いだなって。
──黒崎さんの芝居でもう一つ印象的だったのが、リフティングをするシーン。ボールを蹴り終わって、なにかを納得しているように見えたんです。でもなにに納得しているのか分からない。あのリフティング後の納得は自分事でしかない。そしてこの映画自体、そういった自分事が重なり合っていきます。
黒崎:実は今回、蓮の役作りに関してはすべてリフティングをやりながら考えていたんです。「映画のなかでリフティングをする場面がある」と聞いていたので練習をしていて、そこで「こういう映画なのかな」とか。
だからリフティングのシーンでは、自分の考えがそのまま出ていて、自分だけが納得しているリアクションになっていたのかもしれません。「リフティングがうまいですね」とかはよく言われますが、そこを見破られたのは初めてなので嬉しいです。

■ 黒崎「ここまでリアルタイムな東京を撮ったものはないのでは」
──先ほど団塚監督が「生の雑味を削り取らない」とおっしゃっていましたが、確かに映画的演出なのかノンフィクションなのか分からないところも多い。特に恵美が、知り合いになったばかりのマキ(菊池亜希子)と連絡先を交換する場面。遠く離れた向こうでトラックが走っていて、二人の間を繋ぐように見えます。実際、映画が進むにつれて二人の関係性や距離感が身近であることが分かっていきます。
団塚:あれは偶然なんです。撮っているときはそこまで気づかなかったところ。この映画には乗り物がたくさん出てきて、世代ごとに使用される乗り物の違いや、「バイクは男らしさの象徴」みたいな固定化されたものとは異なる表現をしたかったのですが、一方でそうやっていろいろ乗り物が出てくることがノイズになる場合もあります。現場ではその良し悪しが判断しきれないこともあるのですが、あのトラックの場面は編集で繋いだときに「これはいける」と。
黒崎:そうやって思いがけないことも芝居や場面に組み込んでいくやり方は、俳優としては楽しいですね。団塚さんは特に、そういう出来事もいい感じにしてくれるんだろう・・・というか、「それでもいい」とするメンタルを持っていらっしゃるので、こちらもなにをやっても正解に感じられます。こちらも信頼がありますし、また団塚さんも俳優を信頼してくれているのが伝わります。

団塚:俳優さんは、僕よりも役を分かっているかもしれない。だから、現場で悩んでも「いや、これはいけるんだ」とOKを出す。そういう判断はこの映画に関しては間違っていなくて、実際に繋いでみたらちゃんと筋が通っていた。あらためて映画作りのおもしろさを感じました。
黒崎:団塚さんは、なにが起きても成立させられる脚本を作れる。編集で繋いでみて、結果的に「うまくいった」とおっしゃっていましたが、何事もうまく結びつけていけるのも才能の一つ。そして、そういう見えない余白みたいなものが団塚さんの脚本にある。
その上でこの映画は、「ここまでリアルタイムな東京を撮ったものはないんじゃないか」と思える内容になっています。今を生きる世代、そしてこの先の未来でこの映画を見てくださる人たち、その時々の感じ方がある物語ではないでしょうか。

◇
映画『見はらし世代』は10月10日より全国公開される。
取材・文/田辺ユウキ 写真/Lmaga.jp編集部
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