半世紀ぶり!大阪を代表する画家・小出楢重の大回顧展、真骨頂の裸婦画も

2時間前

『小出楢重 新しい油絵』展示風景

(写真8枚)

大阪を代表する洋画家として知られる小出楢重(こいで ならしげ)の25年ぶりとなる大規模回顧展『小出楢重 新しき油絵』が「大阪中之島美術館」(大阪市北区)で開催中。実際、その名前は知っていても何点かの作品を断片的に見たことがあるだけ、という人も多いハズ。

大阪・島之内にあった老舗の薬屋の息子として生まれ、東京美術学校(今の東京藝術大学)へ進学するも、卒業後すぐに大阪に戻ってきた生粋の大阪陣・小出楢重。会場では、楢重が中之島を描いた作品なども展示され、展覧会から美術館のある大阪の街へと自然に接続して見ることができる。楢重作品を鑑賞するにはもってこいの環境だ。

■ 裸婦画は楢重の真骨頂

「第4章 芦屋での円熟期 1926-1931」でも、裸婦画を連続して展示
「第4章 芦屋での円熟期 1926-1931」でも、裸婦画を連続して展示

展覧会は時代を追って小出楢重の作品を紹介していくオーソドックスな構成。43歳の若さで急逝した楢重だが、20代で画家となってから以降の油絵は、どちらかといえば禁欲的な印象で、かなり限られたモチーフを繰り返し描いている。裸婦、静物、そして風景画だ。

それぞれのモチーフを楢重がいかに深めていったのか。時系列に作品が並ぶ展覧会なので、そこは大きな注目ポイントだが、素人目にはその深化を明瞭に理解することはなかなか難しかった。なので、ここは裸婦についての解説テキストから一部を引用したい。

真っ黒な壁面に、最晩年に描かれた裸婦画7点を集めた特集展示「楢重の裸婦」。裸婦は楢重芸術の真骨頂だという
真っ黒な壁面に、最晩年に描かれた裸婦画7点を集めた特集展示「楢重の裸婦」。裸婦は楢重芸術の真骨頂だという

”最晩年の一九三〇年になるほどなめらかな造形になり、様式化を極めてゆく。…(略)…色彩は複雑に塗り重ねられ、同じく最晩年に向かってより伸びやかになって、艶を帯びた魅力的な肌の質感を創りあげるのである”。展示の後半には、楢重の裸婦をまとめて紹介するコーナーも設けられていた。

個人的には、静物画が持つ、妖しいムードに惹かれる。小出楢?重 《卓上静物》1928年 京都国立近代美術館
個人的には、静物画が持つ、妖しいムードに惹かれる。小出楢󠄀重 《卓上静物》1928年 京都国立近代美術館

■ 大阪ゆかりの画家ならではの作品も

それぞれ1914年、1915年に描かれた道頓堀の風景
それぞれ1914年、1915年に描かれた道頓堀の風景

冒頭に書いたように大阪と縁の深い小出楢重。今回の展覧会でいえば、展覧会の中盤でまとめて紹介される、信濃橋洋画研究所時代が興味深い。これは、楢重を含む4人の新進画家が開設した私設の美術学校で、四つ橋筋と本町通の角に竣工したばかりの日清生命ビルに拠点を構えていた。会場では、各講師や研究生の作品もまとめて紹介されている。

特に、楢重を含む3人の画家が研究所のビルの窓から見下ろして街を描いた、同じような画角の作品も並べて展示され、それぞれの画風や何を描くのかの取捨選択を見比べるという楽しみがある。

大阪を描いた作品ということでいえば、東京美術学校を卒業して大阪に戻ってきた20代後半に描いた道頓堀の風景2点がいい。にぎやかな繁華街としての道頓堀いうよりは、どこか夢で幻のような街として描かれていて、まだ画家としての道も定まっていない自身の気持ちまで投影されているかのようで心惹かれる。

1914年、東京美術学校の卒業制作として描かれた絵画2点も好き。左は「銀扇」大阪中之島美術館蔵、右は「自画像」東京藝術大学蔵
1914年、東京美術学校の卒業制作として描かれた絵画2点も好き。左は「銀扇」大阪中之島美術館蔵、右は「自画像」東京藝術大学蔵

■ 装幀本にガラス絵…こっちの楢重もいい

晩年の5年間は芦屋へ移り住み、芦屋の風景も描いている。1931年2月、谷崎潤一郎夫妻が見舞いに訪れた翌日、心臓発作で逝去。43歳の生涯だった
晩年の5年間は芦屋へ移り住み、芦屋の風景も描いている。1931年2月、谷崎潤一郎夫妻が見舞いに訪れた翌日、心臓発作で逝去。43歳の生涯だった

回顧展では、絵画作品だけでなく、作家にまつわる数々の資料がまとめて見られるのも大きな楽しみのひとつ。今回の展覧会でいえば、最も古いものでは中学時代のスケッチブックや手紙類があり、30代で出かけた欧州旅行の旅先から送ったスケッチや書簡があり、精力的に手がけた装幀本の数々も見ることができる。

ずらり並んだ楢重の装幀本や表紙絵を担当した雑誌。左上に見える『辻馬車』は今も続く難波の書店「波屋書房」から刊行されていたことで知られる文芸誌。中も見たい~
ずらり並んだ楢重の装幀本や表紙絵を担当した雑誌。左上に見える『辻馬車』は今も続く難波の書店「波屋書房」から刊行されていたことで知られる文芸誌。中も見たい~

特に装幀は、新聞連載の挿し絵から手がけた谷崎潤一郎『蓼食ふ虫』が代表的な仕事として知られるが、それを含めた多くの本や雑誌、自著の自装本を一堂に展示。当時の印刷の色味などもあってモダーンと形容したくなるような、楢重の装幀ワールドを楽しめる。

そしてもうひとつ、ガラス絵も興味深い。ガラス面に直接絵の具を乗せていき、その反対面から作品を鑑賞するガラス絵は小さな作品が多く、楢重自身も「定食のあとのアイスクリーム」のような息抜き作品だとしているが、描き直せず即興的な筆がそのまま反映されるガラス絵の特性もあって、ナマな楢重が見られるようで興味深い。

観覧料は1700円で、会期は11月24日まで。なお、小出楢重の芦屋時代のアトリエが、芦屋市立美術博物館の庭に復元されて公開されているが、現在、芦屋市立美術博物館では、楢重の弟子で、後にそのアトリエにも移り住んでいた山崎隆夫の展覧会を開催中。あわせて見ておきたい。

取材・文・写真/竹内厚

『小出楢重 新しい油絵』

期間:2025年9月13日(土)~11月24日(月・休)
時間:10:00~17:00 月曜休館、ただし月曜日が休日の場合は翌日休
会場:大阪中之島美術館 4階展示室
料金:1700円
電話:06-4301-7285(なにわコール)

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