打ちこわしにパレードで対抗、蔦重の広報戦略【べらぼう】

『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第33回より。「御救い銀」が出ることを「読売」で知らせる重三郎(横浜流星)たち(C)NHK
江戸時代のポップカルチャーを牽引した天才プロデューサー・蔦屋重三郎の劇的な人生を、横浜流星主演で描く大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』(NHK)。8月31日の第33回「打壊演太女功徳(うちこわしえんためのくどく)」では、打ちこわし中に仕掛けた重三郎の新たな宣伝方法に驚くとともに、松平定信の老中就任に向け、思いがけない逆転劇が起こったところが描かれた。
■ 田沼が尽力、打ちこわしは終息へ…第33回あらすじ
江戸市中でついに打ちこわしが起こるなか、重三郎は田沼意次(渡辺謙)と面会し、約束していた米が来なかった理由を問う。手配に手間取っていることを聞かされた重三郎は、米を十分買えるだけの金を配って時間を稼ぐ方法を提案する。意次はその実行に動き、さらに諸大名に対して米を出すように懇願。不満を述べる大名たちを前に、意次は米を出すことが、打ちこわしを収めた功労者として、後世に名を残す行為だと説得する。

これによって打ちこわしは落ち着き、意次の時代がまだつづくかと思われた矢先、一橋治済(生田斗真)配下の大奥女中・大崎(映美くらら)に脅迫された大奥総取締・高岳(冨永愛)が、松平定信(井上祐貴)の老中就任を受け入れる。しかし定信は治済に対して、自分を老中首座にすることを条件にした。治済は、定信の実家である田安家を将軍家に献上し、幕府の御金蔵を助けるという忠義を示せば、それは叶うかもしれないと提案する・・・。
■ パレードで告知「エンタメ」で心を変える
天明の打ちこわしで視聴者がショックを受けたのは、米屋から運んだ米をみんなで分け合うとかではなく、それをすべて道にぶちまけたり、川に捨てたりしたことだろう。重三郎の妻・てい(橋本愛)や女中・たか(島本須美)ならずとも「もったいない!」と思ったはず。打ちこわしは単なる暴動ではなく、あくまでも米屋を襲撃することで、悪徳業者&幕府に反省をうながすためのデモンストレーションだから・・・という理由があるとはいえ、現実社会も米不足な今、ちょっと酷な絵面ではあった。

そしてデモンストレーションを収めるには、それを上書きするぐらいのデモンストレーションを起こさねばならない。ということで、今回の打ちこわしのテーマ「あくまでも米屋とのケンカでとどめる」を提案した重三郎が、今度は田沼意次の直々のリクエストで「米を安く売る代わりに補助金を出すよ!」という速報を出すことで、打ちこわしを収める側に回った。これって八方美人というか、ほぼほぼマッチポンプに見えるけど、どちらの陣営からも頼りにされる調整役の宿命というものだろう。
そこで重三郎は、前回のお救い米配布の告知のように、ただビラを巻くだけでは誰も関心を持たないと予測を立て、今回は祭のような山車を出し、富本斎宮太夫(新浜レオン)の歌で大衆に知らせるという大胆な策に出た。今で言うと、政府広報を曲にして、それをアイドルに歌ってもらいながら、街中をパレードするようなもの。間違いなく目を引くだけでなく「どうせやるなら、パーッと明るい方がいいじゃない」がポリシーの、重三郎らしいアイディアだろう。打ちこわしで攻撃的になった人々の心を、演太女(エンタメ)で変えた瞬間だった。

現代でも給付金が出ると政府の批判はひとまず落ち着くように、今も昔も「現金」というのは強いもの。これによって田沼意次の裏老中システムは当面安泰かと思われたけど、松平定信の老中就任が突然現実味をおびはじめた。この急な展開に「どういうこと?」と戸惑う人も結構いただろうが、そもそも定信は徳川御三家&一橋家から幕政トップにふさわしい人材として推薦されていた。それを阻んだ大きな防波堤が、大奥だったのだ。
■ 将軍家の裏番長・大奥を脅かす「死の手袋」
大奥は政に直接の権限はなかったけど、将軍の後継者作り&育成という、将軍家存続の重大な部分を担う裏番長的な組織なので、敵に回すとかなりやっかい。また大奥側も、トップ次第で自分たちの待遇が違ってくるので、幕府の人事には常に目を光らせていた。側用人時代から美少年だったために大奥の女性ウケが良く、老中になってからも良好な関係をつづけていた意次は、大奥にとって非常に都合の良いトップだったわけだ。

その大奥が、定信の老中就任を承知したとなると、もうこの流れを止められる者は誰もいなくなる。実際の高岳が手のひらを返した理由は定かではないけれど、『べらぼう』では徳川家基(奥智哉)暗殺に使われた鷹狩用の手袋が、高岳の発注で作られたものなので、これを深堀りされたらまずいんじゃない? と、大崎に脅されたというドラマを作り上げた。あの第15回で、謎の人物によって松平武元(石坂浩二)の元から回収された手袋が、政治の流れを急転換させるキーアイテムになるとは・・・。

しかも松平定信は、老中就任の条件に「首座にすること」という大胆な条件を出した。初当選した議員がいきなり総理大臣職を要求するようなものだけど、確かにそこまでの強い権力を持たなければ、幕閣にしっかりと根付いた田沼派の一掃には時間がかかる。
しかも定信の祖父は、名君と言われた徳川吉宗。名君の血筋=才能アリと思われがちだったこの時代では、吉宗の濃い血を受け継いだ自分こそ、祖父のように大きな改革を起こせる才覚があるはずだと、根拠のない自信を持っていてもおかしくはないだろう。

政治家の依頼で社会を動かす一大メディアにまで成り上がった蔦屋重三郎と、意次が作り上げつつあった新しい世を、「秩序ある古き良き時代」に戻そうとする松平定信。いよいよ2人の対決が迫ってきた局面だが、小田新之助(井之脇海)の死によって社会との向き合い方が変わった気配を見せる重三郎と、今回も寝床でこっそり黄表紙を楽しむなど、本当に出版統制なんかするの? ってアンバランス感が気になる定信のバトルは、思ったより一筋縄ではいかなさそうだ。お互いがどのようなナイスファイトを見せてくれるのか、期待して見守りたい。
◇
大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』はNHK総合で毎週日曜・夜8時から、NHKBSは夕方6時から、BSP4Kでは昼12時15分からスタート。9月7日の第34回「ありがた山とかたじけ茄子(なすび)」では、ついに松平定信による「寛政の改革」がスタート。狂歌師・大田南畝(桐谷健太)が絶筆を宣言する一方で、重三郎がある決意を固める姿が描かれる。
文/吉永美和子
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