巨匠コッポラの映画『メガロポリス』、構想40年で伝えたかったメッセージとは

映画『メガロポリス』より。カエサル・カティリナ(アダム・ドライバー)© 2024 CAESAR FILM LLCALL RIGHTS RESERVED
なんだ、これは! 心の中で何度も声を上げた。『ゴッドファーザー』3部作(1972年、74年、90年)や『地獄の黙示録』(1979年)などで知られる巨匠フランシス・フォード・コッポラ監督の新作で、主演はアダム・ドライバー。
その程度の予備知識で観始めた、6月20日公開の『メガロポリス』は、とんでもない作品だった。着想が凄い。スケールが凄い。そしてなにより、作品に込められたコッポラ監督の想いが凄い。
■ 40年以上も前から、映画化を目指し準備していたコッポラ
舞台は富裕層と貧困層の格差が広がる、21世紀アメリカ共和国の大都市ニューローマ。合衆国ではなく共和国、ニューヨークではなくニューローマ。そう、コッポラ監督は2000年の時を超えて、古代共和制ローマと現代のアメリカを重ねて描くのだ。
それは今から40年以上前の1980年代初頭に読んだ一冊の本からの発想だという。その本は、紀元前63年にローマ共和国の貴族が国家転覆を目論んだ「カティリナの陰謀」に関して書かれたもので、監督はこれをいつか映画化しようと念じ続けてきたのだ。
そう聞いて、ある意味、納得する映画ファンも多いと思う。なぜなら、あの『地獄の黙示録』も、実は19世紀後半のアフリカ・コンゴを舞台にした、ジョセフ・コンラッドの小説「闇の奥」をベトナム戦争時のことに置き換えて描いた作品だったから。今回もまた、コッポラ監督が切望し、監督ならではの大胆な翻案化がなされたというわけだ。
■ 天才建築家 VS 新市長、取り巻く愛憎劇…派手で退廃的な展開
物語は様々な分断が社会問題化しているニューローマで、すべての人々が幸福に暮らす理想社会〝メガロポリス〟建設に挑む一人の天才建築家の闘いを描いていく。男の名はカエサル・カティリナ。

宿敵は、現体制の維持に固執し、カジノ建設などの目先の利益によって財政難解消を図る現市長。名前はキケロ。二人には、数年前に謎の死を遂げたカエサルの妻の死因をめぐって、裁判で争った過去の確執もあった。

キケロの娘で社交界の華的存在だったジュリアは、カエサルの構想に感銘を受け、彼と父の仲を取り持とうとカエサルの仕事を手伝ううちに彼を深く愛するようになる。そこに大富豪の孫で、カエサルに激しい嫉妬の炎を燃やす男や、大富豪と結婚し巨万の富を得てカエサルの歓心を買おうとするテレビ・キャスターなどが絡み、いかにも古代ローマ的な派手で退廃的なストーリーが展開されていく。


■ アメリカの現代の姿が…未来をもしや予想していた!?
ただ、驚くべきはその先見性。先述したように監督が映画の原案となる小説と出会ったのは40年以上前で、映画化までに少なくとも300回以上のシナリオ改稿をおこなったという。
結果的に最終稿に落ち着いたのがいつかは不明だが、ここに描かれているのは2025年のアメリカが、そして世界が抱えている差別や排他的な思想による分断であり、まるで病に冒されているような現代の姿だ。それが40年以上前を発起点とする企画に恐るべき精密さで反映されている。

そして、そのことはこの作品のテーマの一つが「時」であることを思い起させる。2000年前と現在を重ねて不備がないということは、人の行いが本質的には変わらないことを示す。
では、どうすればより良い未来を望めるのか。それは人々が分断を越えて話し合い、より良い未来を強く希求するしかない。コッポラ監督は、それを推し進めるのは政治家ではなく芸術家であるべきだと言う。
劇中で、時間に関するパワーを失ったと嘆くカエサルにジュリアが言う。「画家は時間を止め、建築は音楽を凍結し、ダンサーは時と空間を結びつけ、音楽家は時にリズムを与え、詩人は時を謳う」、だから芸術家が時へのパワーを失うことはないのだと。これが監督の主張なのだ。

そのストーリー、テーマを背後から支える豪華絢爛なプロダクションデザイン、劇中の時代設定を越えて人の心と目を引き付ける衣装、そして、まるで街そのものが生きているように見せる特殊撮影といった映画ならではのスタッフワークには目を見張るものがある。
■ 制作費の186億円は…まさかのコッポラ監督の私財
俳優陣も豪華だ。カエサルを演じるのは2010年代の『スター・ウォーズ』シリーズ全てでカイロ・レンを演じるアダム・ドライバー。ジュリア役に『ワイルド・スピード』シリーズのナタリー・エマニュエル、大富豪の孫は『トランス・フォーマー』シリーズのシャイア・ラブーフ。
さらになんとアメリカン・ニューシネマの名作『真夜中のカーボーイ』(1969年)の主演者二人、ジョン・ヴォイトとダスティン・ホフマンが顔を見せるのもファンにはたまらない。


最後にもう一つ。この作品でコッポラ監督の名は監督・脚本の他に製作ともクレジットされている。そう、本作品の制作費186億円は監督が私財を投じて調達したものなのだ。一人の監督が40年を超える思いを結晶化して、一本の映画に託した未来への提言。映画ファンなら心して接したい。
◇
映画『メガロポリス』は6月20日、「大阪ステーションシティシネマ」「なんばパークスシネマ」など全国で公開される。
文/映画評論家・春岡勇二
映画『メガロポリス』
2025年6月20日(金)公開
製作・監督・脚本:フランシス・フォード・コッポラ
出演:アダム・ドライバー、ジャンカルロ・エスポジート、ナタリー・エマニュエル、オーブリー・プラザ、シャイア・ラブーフ、ジョン・ヴォイト、ローレンス・フィッシュバーン、タリア・シャイア、ジェイソン・シュワルツマン、ダスティン・ホフマン
2024年/アメリカ/英語/138分/カラー/原題:Megalopolis/PG12/字幕翻訳:戸田奈津子
配給:ハーク、松竹
提供:ハーク、松竹
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