「全部意次のせい」に…! 止まらない治済の暗躍【べらぼう】

2025.5.29 19:30

『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第20回より。島津藩との縁組みについて話す一橋治済(生田斗真)(C)NHK

(写真7枚)

江戸時代のポップカルチャーを牽引した天才プロデューサー・蔦屋重三郎の劇的な人生を、横浜流星主演で描く大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』(NHK)。5月25日の第20回「寝惚けて候」では、将軍の後継者をめぐって、一橋治済がまたしても謎の動きを。それと同時に「狂歌」という、新しい文化の黎明期も描かれた。

■ 将軍の後継問題に新たな火種…第20回あらすじ

将軍・徳川家治(眞島秀和)は実子を作ることをあきらめ、御三卿・一橋治済(生田斗真)の長男・豊千代を養子として迎え入れることにした。そして松平定信(寺田心)の妹で家治の養女・種姫を豊千代の正室にするため、すでに輿入れしている島津重豪(田中幸太朗)の姫は側室にするよう、田沼意次(渡辺謙)は治済に申し出るが、重豪が強く拒否。しかしそれは、治済の指示による重豪の演技だった。

『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第20回より。(C)NHK
『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第20回より。葡萄酒を飲みながら、娘・茂姫の縁組みについて話す薩摩藩主・島津重豪(田中幸太朗)(C)NHK

意次は大奥総取締・高岳(冨永愛)に判断を仰ぎ、その結果種姫は紀州徳川家に嫁ぎ、家治の側室・知保の方(高梨臨)は西の丸から追い出されることになった。ほとんどの人間が、これらは意次が田安家を排除するための陰謀だと考えるなか、家治は豊千代の周りが、一橋家の者で固められていることを懸念。誰が将軍になっても揺るがない政の体制を整えようとする意次に、そのためには自分を上手く使うようにと命じるのだった・・・。

■ 一橋治済の謀略により「全部意次のせい」

この第20回の重三郎は、ライバルの看板商品のコピーを作ることで細見の大きなミスを誘発し、周囲が自分の作った細見だけを買い上げるように仕掛ける・・・という、文字だけで説明すると「ただの悪徳商法じゃねえか!」としか思えない、なかなかギリギリの手段で成功を収める所が描かれた。そして幕府パートの方もまた、謀略の成果が見事に結実した者がいる。そう、『べらぼう』きってのヒールキャラ・一橋治済だ。

『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第20回より。(C)NHK
『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第20回より。次期将軍について老中・田沼意次(写真右、渡辺謙)と話す一橋治済(写真左、生田斗真)(C)NHK

江戸の内でも(多分)外でも毒を盛りまくったおかげで、時期将軍の候補は自分の息子に一本化された。意次からその報告を受けて「次の将軍には 当家の豊千代を・・・」と驚いた風に言う姿に、さぞ視聴者たちは「白々しいんじゃあああ!」と心のなかでシャウトしたことだろう。しかし治済の望みはそこにはとどまらず、田安家出身の種姫を将軍の正室にするという計画にまで、妨害工作を仕掛けはじめた。

薩摩の島津重豪を猿芝居に巻き込み、しかも息のかかった大奥女中・大崎(映美くらら)を使って、種姫の輿入れには田沼意次が反対しているという、まったく逆の情報を流した。こうして定信をはじめとする田安家の人々に「全部意次のせい」と思いこませることで、一橋家には火の粉がかからないようにする・・・という完全犯罪ぶりは、もう憎たらしいのを通り越して芸術性すら感じる領域である。

『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第20回より。(C)NHK
『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第20回より。老中・田沼意次の策略だと憤る、田安徳川家の正室・宝蓮院(花總まり)(C)NHK

本当に踏んだり蹴ったりな意次だけど、救いとなっているのは前回で覚醒した将軍・家治が、意次が目指している政治体制づくりを、全面的にサポートしてくれていることだろう。とはいえ、治済が自分の子どもを将軍にするだけでなく、ほかの徳川家の血を宗家から遠ざけようとする理由が、重豪が指摘した通り、今のところはよくわからないのがかえって不気味だ。ただの気まぐれなのか、それとももっと壮大な野望の一手なのか? 当分治済から目が離せない・・・というより、インパクトがいろいろすご過ぎて離しようがない(笑)。

■ 狂歌界の人々が新登場!ビジネスチャンス到来

そんな真っ黒クロスケな治済&グレーな重三郎で暗くなりそうだったドラマに、パカーンと陽気な空気を注入したのが、大田南畝(桐谷健太)をはじめとする狂歌界の人々だった。ドラマのなかで重三郎が説明した通り、堅苦しい「雅語」に縛られることなく、自由な言葉で思うままのことを歌にすることができる狂歌。人間の機微や社会の風刺を巧みに詠むだけでなく、百人一首などの和歌を上手く本歌取りできるといっそう粋。芸術性というより、娯楽性や遊戯性の方が強い表現だろう。

『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第20回より。(C)NHK
『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第20回より。狂歌の会の後の酒席で盛り上がる狂歌師・大田南畝(桐谷健太)(C)NHK

狂歌が広まった背景は青本と同じく、純粋な娯楽でありつつも、しっかりした文学的な教養があると、より味わいが増すという深味もあったからだと思われる。そしてこのブームは、貴族社会の京都、商人社会の大阪ではなく、武家と庶民の境目が曖昧になっていった、当時の江戸だからこそ起こり得た。嗜みとして教養を身につけた武家と、どん欲に娯楽を求める庶民が交流を深めるなかで、知性と遊び心の両方を満たせる狂歌は、身分の垣根を壊して盛り上がることができる、最高の遊び場になったのだろう。

『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第20回より。(C)NHK
『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第20回より。狂歌の会に参加する狂歌師・智恵内子(水樹奈々)(C)NHK

そして重三郎が幸いしたのは、まだブームの黎明期だったため、それを書籍にするという手段がまだ手探りだったことだ。「読み捨て」ということで、記録に残すことなどほとんどの人が考えてなかった・・・だなんて、ビジネスチャンスがその辺にゴロゴロしているようなもの。新しいカルチャーの発展には、それを紹介&批評するメディアの存在が不可欠ではあるけど、蔦屋は今後まさにそういう存在となっていくわけだ。

■ 「めでたい」精神の大田南畝、癒やし枠に?

しかしこの狂歌の会を見ていると、エリートの武士から湯屋の主人まで同様にワイワイキャッキャッとしていて、昔教科書で習った「士農工商」って、本当に(少なくとも江戸では)あまり関係なかったんだな・・・ということを実感する。この理想郷のような世界が実現できたのは、わりとこのコラムでは何度も言ってきたけど、身分にとらわれない政治体制を目指した田沼意次の治世だったからこそ。

『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第20回より。(C)NHK
『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第20回より。狂歌の会に参加する重三郎(写真左、横浜流星)と義兄・次郎兵衛(写真右、中村蒼)(C)NHK

その体制が変わっても、この楽園はつづいてくれるのだろうか? ただ大田南畝だけは、なにが起こっても「めでたい」と言って乗り切ってくれそうな謎の安心感があるので、俺たちの次郎兵衛(中村蒼)兄さんと並んで、このドラマの癒やし枠となってくれそうな予感がする。

大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』はNHK総合で毎週日曜・夜8時から、NHKBSは夕方6時から、BSP4Kでは昼12時15分からスタート。6月1日の第21回「蝦夷桜上野屁音」では、地本問屋・鶴屋喜右衛門(風間俊介)が思わぬヒット作を生み出したことで重三郎があせりを見せる姿と、田沼意次が蝦夷(北海道)上知のために動き出すところが描かれる。

文/吉永美和子

  • LINE

関連記事関連記事

あなたにオススメあなたにオススメ

コラボPR

合わせて読みたい合わせて読みたい

関連記事関連記事

コラム

ピックアップ

エルマガジン社の本