現在開催中の『大阪・関西万博』で、「ハンガリー・ナショナルデー」が５月２４日に開催された。会場内の「ハンガリーパビリオン」では、ドラマチックな生歌唱が楽しめると話題になっており、満を持してのナショナルデーは、民族音楽や舞踊を存分に楽しめる１日となった。

午前中にナショナルデーホール「レイガーデン」でおこなわれたナショナルデー公式セレモニーには、５月２０日から２７日の日程で訪日中のシュヨク・タマーシュ大統領が出席。

シュヨク大統領は、天皇陛下との会見でも、１５０年以上にわたる両国の外交関係で「音楽」が大きな役割を果たしているとし、音楽の話題で盛り上がったということが伝えられている。また、ナショナルデー後には、広島、長崎を訪問し、充実の日本滞在となったようだ。

ナショナルデーのスピーチで「文化によって両国のパートナーシップと友情をはぐくむことが私の願い」と語ったシュヨク大統領。式典のパール・イシュトヴァーン・サロンナ＆バンドによる音楽パフォーマンスとハンガリー国立民族舞踊団によるハンガリー各地の舞踊、さらに続けて夕方から開催された舞踊劇も夫人とともに鑑賞し、客席からステージに力強い拍手を送っていた。

バンド演奏には、ハンガリーはじめ、中欧・東欧地域で主に使用される打弦楽器・ツィンバロンも登場。ちなみにこのツィンバロンは、大河ドラマ『べらぼう』で作曲家ジョン・グラムが手掛けるオープニングテーマの冒頭でも使用されている。

◆ ダイナミックかつエレガント…驚異の跳躍力、ダンサーの身体能力の高さに驚く

１７時からはナショナルデーホール「レイガーデン」で、ハンガリー国立民族舞踊団が、舞踊劇「カロタセグの結婚式」を上演。古くからハンガリーに伝わる民族舞踊に現代的なアレンジを加えた新作だ。

一組のカップルの婚礼前から結婚式の祝宴までを圧倒的な踊りと歌で表現。バイオリンや笛などの生伴奏、歌唱とストーリーが一体となった充実のステージとなった。

男性ダンサーは、ブーツを叩いたり、足を踏み鳴らしたり、ボディーパーカッションのような力強い身体表現や、高いジャンプで感情を表現。

女性は、刺繍を施した鮮やかな色彩の民族衣装のスカートを翻し、輪になって踊るシーンが夢のように美しい。歌詞はわからずとも、言葉を超えた表現で観客たちを魅了した。

圧倒的な１時間のステージに、終演後も大きな歓声と拍手がなりやまず、ハンガリー国立民族舞踊団のメンバーたちも、それに何度も手をふって応える。まさに「エーヤン！ ハンガリー！」（ハンガリー語で、ハンガリー万歳！と言う意味）な盛り上がりだった。

◆「感動して、涙が止まらない…」舞踊歴４０年の来場者が語るハンガリー舞踊の魅力

式典のステージ終了後、素晴らしいステージに感化されたのか、自然と踊り始めた人たちがいた。ハンガリー国立民族舞踊団のステージを観ようと、フォークダンスの愛好家たちが、関東や中部など日本全国から、万博会場に大集結していたようだ。

大学時代、フォークダンスサークルに入り、ハンガリー舞踊の魅力にハマったという関東からの来場者は「すごい迫力でした。踊っている身からすると、回転の速さ、力強さなど信じられない。こんな豪華な舞踊が日本で観られる日が来るなんて、感無量です」と、かみしめるように語った。

また、素敵な刺繍が施されたベストを着用している男性に声をかけると、なんとハンガリー舞踊歴４０年。京都大学民族舞踊研究会出身で、ベストは３６年前に大学の卒業旅行でハンガリーを訪れた際に購入したものだという。

舞踊劇終了後に出会うと、涙ぐんでいるではないか。「本当に素晴らしい踊りだったのはもちろん、おそらく今までハンガリー舞踊をほとんど知らなかったであろう日本人のみなさんが、こんなにも熱狂している。最後はスタンディングオベーションまで･･･感動して、涙がとまりません」

確かに、なかなか日本では観ることのできない本場のハンガリー舞踊。日本での舞踊人口も決して多くはないだろう。そんななかで、４０年間ハンガリーから先生を日本に招聘したり、実際に現地に行ったりして、この舞踊を愛し鍛錬を続けてこられたという、このお父さんのとても熱い気持ちが伝わってくる。

ハンガリー舞踊の魅力を聞くと「まず、男性のダンスの力強さ。迫力がすごいでしょう？」と足を叩きながら答えてくれた。

さらに「男女ペアで踊るコミュニケーションも面白さのひとつ。舞台は振りを揃えていますが、実際に現地の祭りなどで踊る際は、男性が女性をリードし、もっと思い思いに自由にダンスを楽しみます。そんなコミュニケーションも楽しい。フォークダンスといっても、ハンガリーとポーランドではもちろん違うし、ハンガリー国内でも村ごとで特徴があったり、奥深いですよ」と言う。

関西でも、有志で集まってハンガリー舞踊を踊っているとのこと。「あなたもどう？ 今日の舞台を観たら、一緒に踊ってみたくなったでしょう？」と、筆者もお誘いをいただいた。

「文化によって両国のパートナーシップと友情をはぐくむことが私の願い」と語ったシュヨク大統領の思いを、このお父さんのようにダンスを通じ体現している人たちが、大勢集まったハンガリー・ナショナルデーだった。

ハンガリーに限らず、この万博をきっかけに世界中の新しい文化に触れ、新たな趣味や、仲間を見つけることができるかもしれない。そんな可能性も感じた取材となった。

取材・文・写真／Ｌｍａｇａ.ｊｐ編集部