26年ぶりのアルバム、江口洋介が音楽活動を再始動したワケ

11月6日「ビルボードライブ大阪」に登場する江口洋介(写真/バンリ)
■ 俳優として「イメージを壊したくてしょうがなくなる」
──俳優に集中していた時期にも、たくさん転機があったと思います。特に、2008年の『闇の子供たち』はすごく印象的でした。振り返ってあそこが転機だったと思う時はいつでしょうか。
今、おっしゃっていただいた『闇の子供たち』は大きな転機でした。日本ではなかなか表現が難しい部分もある社会派映画の主人公のオファーをもらって、今までやってきたエンタメみたいなところからはすごく遠く感じましたが、よくよく考えたら俺もそういう映画を観てきたし、刺激をいっぱいもらってきました。どこかにそういう作品をやりたいという欲求があったんだと思います。
──なるほど。
劇映画で社会的な問題を訴える方法があると教えてくれた作品です。連続ドラマでも、『ひとつ屋根の下』から『救命病棟24時』のように、全く違うキャラクターを自分で選んでるんですよね。イメージを壊したくてしょうがなくなるんです。
──役のイメージを作られたくない、と。
一つの役を長くできる人もいらっしゃいますが、それはすごいことだと思うんです。俺は、コメディから三枚目、シリアスまで全く違うものをチョイスするから。一つのイメージに縛られたくないし、これは俺じゃないと思いたくないと思ってやってると、発見があるんです。
──ヤクザという役柄でも『孤狼の血』と『コンフィデンスマンJP』では、土着のヤクザとインテリヤクザのように全然違ってました。
すごくいい例を言ってもらいましたけど、そうですね。例えば、ヤクザの役でもコメディだったら『ゴッドファーザー』のパロディを意識して、観直したり。『孤狼の血』は、『仁義なき戦い』シリーズを観ました。役によって、今まで観てなかったものを観たり、観たことがあったらもう1度観直しますが、そういう作業が肥やしになるんだと知ってから、よりいろんな役をやりたいと思うようになりました。
──そういう視点で役を選んでらっしゃるんですね。
振り返ってみると、ちょっと難しいかな?と思った役の方が転機になってると思います。

──音楽活動と俳優業の違いはどんなところでしょうか。
音楽は自分発信なんです。俳優業は、原作を読んでディレクターや監督に持っていくこともありますが、そうじゃない場合は、俳優は最後に入っていくんです。ロケハンから何から準備を全部スタッフがやってくれて、ライトとカメラをセッティングして、やっと俺たちが来て、テイクを撮っていくという壮大な流れ作業の最後の部分なんです、言ってみれば。
──そうですね。
音楽は、何にもないところからギターでメロディーを作って、言葉を当てながら作詞をして、そうやって積み上げたものをライブでやると、ファンの方が盛り上がって手を挙げてくれて、聞き入ってくれる。違うベクトルの満足感があります。
──俳優業とはまた違う満足感があるんですね。
それが音楽をやめられない理由です。まだやり尽くしてないことはいっぱいあるので、1枚作ればまた次に行けると思って。もちろん、このアルバムを届けたいというのが第一ですが、もっともっとという欲も出てきてますね。
──全く違う、レゲエみたいなジャンルにいくかもしれないと。
そうですね。そういう気持ちになってます。これも、ターニングポイントというか。
──江口さんは90年代からずっと俳優として活躍されてますが、ご自身に求められるものに変化は感じてらっしゃいますか。
自分ではあまり感じてませんが、その辺は、観てる人の方が感じてくれるものかもしれないですね。年齢も重ねて、経験もあるので、こういうことを求められてるのかな?と意識はしてます。今年の5月に公開された『からかい上手の高木さん』では、学校の先生の役はあまりやったことはなかったですが、新鮮でした。
──そんな風に感じながら演じてらっしゃるんですね。
2022年に公開された『線は、僕を描く』で言うと、水墨画のことは全く知らなかったんです。「そういえば襖に書いてあるな」というぐらいで。水墨画を習いに行ったんですが、先生の話が面白くて。「まず線を書いてください」と言われて書くと「あ、そういう方ですか」とおっしゃるんです。水墨画の先生になると、線で人を判断できるレベルまでいくんだと思って、知らない世界を知れることが面白くて。
──なるほど。
俳優をやっていると、一つのことに真正面から取り組んでる方に会えるのが本当に面白い。音楽もそうです。ミュージシャンでも、昔から変わらずにドラムだけで家族を養ってる友だちもいて。一つのことをずっとやり続ける職人のような、こだわりのある方にすごく感化されるんです。
──音楽をやってることが俳優業にすごくいい影響があるんですね。
ありますね。例えば、その場面のトーンがわからなくて迷った時は、ディレクターに「どんな曲がバックに流れますか?」と聞くこともあります。そうすると、客観的に自分なりに考えることができるんです。芸術の大元は音楽なんじゃないかな。
──芸術の根底にあるというか。
同じ芝居でも、全然違う音楽をかけると、全く違うように見えますよね。試写で完成作を観る時は、監督の音楽のつけ方がすごく気になります。
──撮影してるときはわからないですもんね。
そうなんです。最近の作品で言うと、Netflixの『忍びの家 House of Ninjas』はアメリカ人の監督で。忍者の家族の話に、ニール・ヤングの『Crosby,Stills,Nash & Young』の『Our House』をかけちゃう感覚は、日本人にはないじゃないですか。
──そうですね。
アメリカのスタンダードだけど、そんな風に家族を表現されると楽しくて。異文化の人と仕事をすることも刺激があるんですよね。そこは俳優をやってて面白いことだと思います。
──江口さんの根底には、ずっと音楽があったんですね。
ミュージシャンのドキュメンタリーを観るのも好きでしたね。この人はどんな人だろうと興味を抱いて、昔はYouTubeもなかったので、ミュージシャンのビデオを探して観てました。でも、それは俳優業でも言えることで。この人はどんな作品をやってたのかなと思って昔の映画を観たり。
そう考えると、音楽活動と俳優業に変わりはないですね。表現という言葉を使うのはあまり得意じゃないですが、根底に表現があるんだと思います。言葉では伝えられない、本当はこう言いたいけど、ちょっと恥ずかしいとか、いろんな思いを芝居や音楽で伝えられるんです。
──なるほど。
自分が音楽を聞いたり、映画を観て思ったこと、感じたことを身体や声を使って表現したいんです。それを伝えたいという思いは変わらないかもしれないですね。
■「音楽を通して、お客さんとエネルギーを交換」ライブへの想い
──では、音楽活動の一番の魅力というのはどのようなものなのでしょうか。
例えば、昔作った曲からメンバー1人、ギター1人違ったら全く違う曲になるし、俺の歌も変わってしまう。景色が違うというか。そういう意味で言うと、やっぱり音楽は偉大ですよね。
──時代によっても変わりますよね。
変わるでしょうね。自分の好きなサウンドを追求していくと、自分が年を重ねたからこそ生まれるメロディーもあって。柔らかさやグルーブのテンポも全く変わってくるので。自分の軸はブレさせずに、これからも作っていける可能性を感じてます。
映画はなかなかお客さんの顔を見れないので、曲を聞いてもらったり、ライブに来てくれたときのお客さんの顔を見られることが音楽活動で1番嬉しいことかもしれないですね。やっとここまで来て、ライブができて、お客さんがそんな思いになってくれたんだと感じると、それがまた俺のエネルギーになって。音楽を通して、お客さんとエネルギーを交換してるように感じます。
──11月のライブではどんな曲を演奏してくださるのでしょうか。
新しいアルバム『RIDE ON!』の曲はもちろん、昔の曲もやるつもりです。ぜひ、ビルボードライブ大阪にお越しください。
◇
江口洋介のミニアルバム『RIDE ON!』は10月23日発売。アルバムを引っ提げ、11月6日に「ビルボードライブ大阪」、11月12日に「ビルボードライブ東京」でライブがおこなわれる。
取材・文/華崎陽子 写真/バンリ
江口洋介
江口洋介『RIDE ON!』
2024年10月23日(水)発売
『RIDE ON! YOSUKE EGUCHI LIVE 2024』
日時:2024年11月6日(水)・1st17:30〜/2nd20:30〜
会場:ビルボードライブ大阪
料金:BOXシート22100円、S指定席10500円、R指定席9400円、カジュアル8900円
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