奈良国立博物館、開館130年にして初の「国宝展」を開催へ

国宝 菩薩半跏像(伝如意輪観音) 飛鳥時代 7世紀 奈良 中宮寺 展示期間5月20日~6月15日
「奈良国立博物館」(奈良市登大路町、以下:奈良博)は2025年、開館130年のメモリアルイヤーを記念し、開館以来、意外にも初めての「国宝展」を開催する。近年、仏教美術を身近に感じてもらおうとさまざまな試みを実践している同館なだけに、一体どのような意味があるのか、そしてどのような内容なのか期待が高まる。
■ 明治28年設立の「奈良博」とは一体?

仏都奈良に根差し、仏教や神道美術に特化した博物館として長年親しまれてきた「奈良博」。設立の背景には、明治元年(1868)の神仏分離令(神仏判然令)によって起きた廃仏毀釈(はいぶつきしゃく)など、社会的な混乱のなかで、仏像をはじめとする貴重な文化財が散逸、流出した危機があった。
特に仏教文化の聖地である奈良の文化財が受けた影響は著しく、それを憂いた人々によって、明治8年(1875)からの「奈良博覧会」で、文化財保護と展示の重要性が広く認知されたことにより、明治28年(1895)の「帝国奈良博物館」(現在の奈良博)創立に繋がった経緯がある。
ちなみに、その2年後に現在の文化財保護法のもとになった「古社寺保存法」が制定され、そのなかで、今日の私たちにも馴染み深い「国宝」という言葉が登場した。そのため、今回の展示タイトルに 「超 国宝」と冠したことについて、同館の井上洋一館長は、「なんだこりゃと思われたかもしれませんが、飛び抜けた国宝、奈良博の研究員が選りすぐったすばらしい国宝を集めたという意味だけに留まりません」と明かす。

長年、「仏教美術研究センター」の役割を担ってきた同館設立の背景にある「文化財を守り、その価値を広く共有し、それを確実に次世代に継承していこうとする人々の営みの歴史」を踏まえ、「超」に込めたメッセージとして「先人達から受け継いできた文化の灯(ともしび)を『時代を超えて』次の世代へ繋いでいくという意味があります」と力説した。
■ 誰もが一度は教科書で…名品が勢揃い

見どころは、奈良博ならではの国宝が集結した初の国宝展かつ、サブタイトルの「祈りのかがやき」に由来する「仏教・神道美術100%」である点だ。奈良博が総力をあげて取り組むだけあって、飛鳥時代の仏教彫刻を代表する傑作である中宮寺『菩薩半跏像(伝如意輪観音)』や、NHK『びじゅチューン!』の「その天女、柄マニアにつき」でお馴染みの薬師寺『吉祥天像』といった社会科の教科書や資料集で誰もが一度は目にしたことがあるような名品ばかり。
なかでも、奈良博と最も縁の深い仏像のひとつ、法隆寺『観音菩薩立像(百済観音)』は必見。仏教美術や奈良ファンの愛読書として知られる和辻哲郎(1889年~ 1960年)の『古寺巡礼』で、「このガンダーラもしくはインド直系であるはずの百済観音は、ガンダーラ仏あるいはインド仏に似るよりも、むしろはるかに多く漢代の石刻画を思わせる。全体の気分も西域的ではない」など、奈良博で観た当時の印象が記されており、改めてさまざまな時代の人々の心を捉えてきたことが分かる。
仏教彫刻だけでなく、古代刺繡工芸の最高傑作である『刺繡釈迦如来説法図』や左右にそれぞれ3本の枝刃を交互に作り出す唯一無二の形状の剣で、古代日本の国際関係を知る超一級の名品・石上神宮(いそのかみじんぐう)の『七支刀』など、国宝保有が全国第3位の奈良県ならではの名品中の名品が目白押し。

奈良博の周辺社寺も国宝だらけなので、奈良は「国宝の聖地」ともいえ、同展とプラスして、県内の国宝を改めて堪能できそうだ。開館130年記念特別展『超 国宝―祈りのかがやき―』は、「奈良国立博物館」(奈良県奈良市)で、2025年4月19日~6月15日で開催予定。詳しくは今後、公式サイトにて発表予定。
取材・文/いずみゆか
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