【光る君へ】まさに吉田羊劇場、彼女でなければならぬシーン

『光る君へ』第18回より、一条天皇に涙ながら訴えかける母・詮子(吉田羊) (C)NHK
吉高由里子主演で、日本最古の女流長編小説『源氏物語』の作者・紫式部(ドラマでの名前はまひろ)の人生を描く大河ドラマ『光る君へ』(NHK)。5月5日放送の第18回「岐路」では、道長と伊周の出世争いが決着。その大きなきっかけを作った詮子役の吉田羊と、闇落ちする伊周役の三浦翔平の演技に注目が集まった(以下、ネタバレあり)。
■ 第18回「岐路」あらすじ
藤原道長(柄本佑)の兄・道隆(井浦新)亡きあとの関白の座は、嫡男の伊周(三浦翔平)ではなく、次兄の道兼(玉置玲央)が継ぐことになった。しかし流行病にかかっていた道兼は、関白就任の慶賀奏上の場で倒れ伏し、7日後に逝去。伊周たちがその死を喜ぶ一方、道兼に母を殺されたまひろは「あのお方の罪も無念も、すべて天に昇って消えますように」と念じながら、かつて道兼に聴かせた琵琶を弾いた。

そのあと権大納言以上の貴族たちが、道長と伊周を除いて疫病で亡くなり、一条天皇(塩野瑛久)は伊周を関白にしようと考える。しかし道長の姉で天皇の母・詮子(吉田羊)の「道長の方が、ずっとお上の支えとなりましょう」という必死の訴えにより、天皇は土壇場で道長に内覧の宣旨をくだし、右大臣に昇進させた。はしごを外された伊周は、天皇の中宮である妹・定子(高畑充希)に、父と同じように「皇子を産め」とまがまがしく迫るのだった。
■ 吉田羊でなければならなかった、詮子の見せ場
「岐路」というサブタイ通り、この18回で勃発したポスト道兼争いは、藤原道長が奇跡の出世コースに乗れるか否かの、大きな分岐点だった。その奇跡を現実のものにしたのは、道長を溺愛する詮子による、息子である天皇への涙の説得だった・・・というのは、いかにもこのドラマらしいフィクションに見えるかもしれないが、しっかりと実話。その詮子の一世一代の見せ場と言える寝所での説得が、今回は描かれた。

そしてこれが「吉田羊劇場」とも言える、予想をはるかに上回る名場面となった。第1回では、まだ入内直後だった詮子の役に、吉田羊では貫禄ありすぎでは? なんて否定的な意見もちらほら見受けられた。しかし実はこの涙ながらの、しかし有無を言わせぬパワーと抗いがたさを持つ演説を視野に入れたキャスティングだったのだと、誰もが納得しただろう。
定子LOVEが過ぎて、兄・伊周を抜擢しようとする一条天皇の強い決意は、並大抵のことでは揺るがないと思われたが、まさにその「並大抵のこと」でないことをやってのけて、逆転満塁ホームランなみの大アシストを成し遂げた詮子さま。それにはもちろん弟・道長への愛は不可欠だったが、演じる吉田は「それ以上に、道長が執る政治を見たいと願ったのでは」とインタビューで語っている。確かに、男性なら父・兼家に比肩する剛腕政治家になっていたかもしれない詮子なら、純粋な政治判断で道長を推したというのも十分ありえるし、そこに目をつけた吉田の洞察力の勝利と言えるだろう。
■ 三浦翔平の顔芸、憎まれ役ながらあっぱれ!

そんな女傑・詮子さまに足を引っ張られる形となったのが、道長のライバルである伊周だ。父親にしっかりと将来のレールを敷いてもらった、挫折知らずの人生を送ってきたため、その「レール」が道隆の死で大きく崩れた途端、どんどん器の小ささが露呈していった。とりわけ、いくら出世を出し抜かれたとはいえ、叔父である道兼に「よくぞ死んでくれた」なんて言い放つとかありえない。それに笑顔で同意する母・貴子(板谷由夏)や弟・隆家(竜星涼)も、残念を通り越してホラーだった。
さらに道長にトップの座を奪われると、まるで晩年の道隆が降臨したかのように、定子に「皇子を産め」と執拗に迫ってしまうのだから、これは定子はもちろん、一条天皇の心も離れてしまうだろう。揺るぎないと思われたバラ色の未来が、どんどん灰色に覆われていく伊周。その揺れ動く心の内を、これ以上はないほどわかりやすく表現してくる三浦翔平の顔芸も、憎まれ役ながらあっぱれ! と言いたくなるほど見事だった。

多分視聴者も清少納言(ファーストサマーウイカ)と同じように、定子さまにマタニティハラスメントを仕掛ける伊周に、呪詛の目を向けていただろう。そうしてマイナスポイントをためまくった伊周への報いは、どうも来週あたりで発動しそうな気配だ。ただ伊周が不幸になるのは別に良いとして、そのとばっちりは身内である定子にも少なからず降りかかるはず。どうか一条天皇&定子のアツアツカップル(死語)だけは、史実の荒波から守ってもらうわけにはいかないだろうか・・・。
『光る君へ』はNHK総合で毎週日曜・夜8時から、NHKBSは夕方6時から、BSP4Kでは昼12時15分からスタート。5月12日放送の第19回「放たれた矢」では、まひろがききょう(清少納言)のはからいで定子や一条天皇と対面を果たすとともに、道長に出世を阻まれた伊周が、思わぬ事件を起こしていく姿が描かれる。
文/吉永美和子
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