ビニール袋に注意、観光客増加の「奈良公園」で鹿が危ない

奈良公園の敷地内には、観光客が捨てたらしきゴミが散乱していることも(提供/鹿サポーターズクラブ事務局)
コロナ禍のため一時期は激減していた観光客。徐々に活気を取り戻し、各地を賑わせているが、人通りが多くなったことでトラブルに発展することも。関西きっての観光スポット「奈良公園」もそのひとつだ。
「奈良公園」といえば、世界でも類を見ないほど人と野生動物・鹿との距離が近い場所として知られる。それもあってか、観光客が増加した現在、鹿の生活をおびやかすようなトラブルも発生しているという。鹿と人との共生を支える団体「鹿サポーターズクラブ事務局」(所在地:奈良県奈良市)の高見さんに、現状を訊いた。
■ コロナ禍で誤った餌やりが増加
──コロナ禍で観光客が減っていた時期、人と鹿の関わりに変化はあったのでしょうか?
奈良公園で鹿せんべいを目当てに集まっていた鹿たちは、人がいなくなったことで近隣の児童公園などに足をのばしたりするようになりました。それにより「せんべいがもらえなくなり、飢えた鹿が街をうろつくようになった」という話が、一時期メディアを中心に広がっていたことは記憶に新しいでしょう。
鹿せんべいはあくまで「おやつ」で、主食は芝や木の実です。しかし、誤った情報が拡散されてしまったことで「鹿がかわいそう」と思った方が、野菜や調理くずなどを鹿にあげるような、間違った餌やりが増えた時期もありました。
──同情から誤った餌をあげてしまうケースが増えたんですね。最近は観光客が増え、「ビニール袋の誤食」や「鹿せんべいが散乱」といったトラブルが起きていると聞きました。
お客さまが増えると、確実にゴミも増えます。奈良公園にはゴミ箱がないため、テイクアウトした食べ物のゴミや飲み物の容器が散乱する光景も見かけるようになりました。
鹿は人の食べ物をもらったことで「袋のなかに食べ物がある」と学習しますし、嗅覚も発達しています。それにより、人が持っている袋ごと奪い取ったり、落ちている袋を食べるようになり、鹿の胃にプラスチックゴミがたまり、死に至るという悲劇が起こってしまいます。あと、紙を食べると思い込んだお客さまが、チラシなどを食べさせてしまうケースもありました。

■ 春から夏は出産シーズン、マナーは守って
──ほかに気をつけるポイントがあれば教えてください。
まず、一番大事なのは奈良公園は「野生動物の生息地」であること。誤食を防ぐため、ゴミは必ず持って帰っていただきたいです。そして、お腹をこわしたりゴミを漁るようになるので、野菜もふくめ、鹿せんべい以外の食べ物はたとえねだってきてもあげてはいけません。
そもそも、鹿は野生動物ということもあり身体にマダニなどがついていますし、授乳期の子鹿は人間の匂いがつくと親から育児放棄されてしまうケースもあるので、鹿には基本的に触らないようにお願いします。

また、春から夏は出産シーズンなので、母鹿はとてもナーバスになります。さらに秋になると雄鹿は発情期を迎え攻撃的になるので、いずれも近づかないよう気をつけてください。
──知らず知らずのうちに鹿を傷つける可能性もあるんですね。
前提として、奈良公園にいらっしゃる方々は鹿のことが大好きで、危害を与えよう・いじめてやろうという方はほとんどいないと感じます。ただ、鹿に関する情報をご存知ないだけなのです。
弊団体の事務所前にも啓発看板を設置しているのですが、看板を見た方々は「えっ、そうなの! かわいそう、袋を食べるんだって」「秋の雄鹿には注意なんだって」など驚いた様子を見せます。トラブルは、人間側が理解さえすれば減っていくでしょう。むやみに「禁止」と連発するだけではなく、人の心に届くような啓発活動が大事だと感じております。
◇
ほかにも「鹿せんべいは鹿が密集している場所ではなく、数頭の落ち着いた場所であげるのが安全。じらすと怒ってしまう」「鹿は犬が苦手なので、近づけてはいけない」など、意外な鹿の習性を教えてもらった。
「古来から、奈良の人々は鹿との共生のあり方を模索してきました。現在の奈良公園も、その共生の微妙なバランスの上に立っている状態です」と語った高見さん。人のちょっとした行動で、そのバランスが一気に崩れてしまう可能性もある。奈良公園に足を運ぶ際は、同団体のサイトに公開されている情報などをチェックしてみてほしい。
取材・文/つちだ四郎
「奈良公園」
住所:奈良市春日野町ほか
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