大阪の路上シーンを震撼させる、全身タイツシンガーちゃきって?

「ドン・キホーテ梅田本店」の店頭(ドンキストリート)で歌う全身タイツシンガーちゃき(1月30日・大阪市内)
「ベージュの全身タイツ」ひとつで全力のパフォーマンスを披露する人物を、大阪の路上で見たことはあるだろうか? 彼女の名前は「全身タイツシンガーちゃき」。全身タイツ歴は6年だ。
彼女が注目を集めるのは、全身タイツという奇抜な見た目だけではない。動物の面をかぶってブリッジするような格好で映画『もののけ姫』の曲を歌うという「放送事故」的なパフォーマンスだったり、観客の目の前まで接近してダンスを披露したり、カバー曲を歌う際には観客に「J—POPとK—POPのどちらが良いですか」と2択を強要するなど、かなり強引な・・・いや、パワーあふれるステージングをみせている。
彼女のストリートライブを見ていると、通りすがりの人から「あの人、知ってる」という声が聞こえてくることも少なくない。TikTokなどでも何度かバズっており(フォロワーは29万人超!)、大阪ではちょっとした有名人だ。
■ 「裸に見えるね」と言われ、続けようと思った全身タイツ
大学1年生のとき、歌手になることを志して芸能事務所に入ったというちゃき。歌手を目指すきっかけとなったのは幼少期、母親に連れて行ってもらった「大阪城ホール」でのBoAのコンサートだった。
「『こんなにすごいステージに立つなんて、私だったら緊張して無理』と思ったんです。でも幼いながらに、そうやって自分の可能性が信じられずに『無理』と感じたことがすごく悔しくって。そこで、いつか歌手になって大阪城ホールでライブがしたいという夢を持つようになりました」。
芸能事務所に入ってからは、鼻歌を作ってその録音データを編曲家に渡し、曲を完成させる「作詞作曲スタイル」に。代表曲のひとつ『カッコー』は、大阪市内では歩行者信号が青になったときに流れる音が、童謡『かっこう』の歌に聴こえることにインスピレーションを受けたものだ。
「かっこうのメロディーが流れると、みんな自然と前に進んでいく。だけど落ちこんでいて、立ち止まりたい瞬間だってあるはず。そういう心の葛藤を表現しました」と、深いメッセージが込められていると話す。

しかし、持ち曲は増えても肝心のファン数はなかなか伸びなかった。ちゃきは「普通に歌っているだけではダメだなと早い段階で気がついて、バケツに入った水を被って歌ったり、エアバンドを結成したりいろんなことを試しました。そこで行き着いたのが全身タイツだったんです」と全身タイツに袖を通すようになった。
どんなことでもすぐに飽きてしまう性分だが、「全身タイツだけは『また次もやろう』と思えた」という。続けられた大きな理由は、観客から「裸に見えるね」と言われたことだった。
「その言葉を聞いてピンとくるものがありました。中学生のとき、私はエクステをいっぱいつけて着飾っていました。常に周りよりかわいく見せないと満足できなかったんです。ただ『かわいいね』と言われ続けなきゃダメという人生は相当しんどいなって。その反動からか、高校に進学してからはバスケットボールに打ちこみ、見た目も『スキンヘッドにしようかな』と考えるほどでした。でもそこで『着飾らない人生って幸せやな』と感じ、『裸』の素晴らしさに気づきました。だから『裸に見えるね』という感想は、もともと私の人生が詰まった言葉でもあったんです」。

■ 「着飾らずに生きることの良さを、もっと伝えたい」
全身タイツ姿でギャラリーにグイグイと迫りながらパフォーマンスする様子は、SNSで徐々に話題に。バラエティ番組『水曜日のダウンタウン』(TBS)では、「知り合いで一番変わってる人の数珠つなぎ」という企画のなかで変わり者として出演した。そうやっていろんなメディアで紹介されることへの喜びを感じる一方で、「単なる変な人や目立ちたがりのように思われがちですが、それは違うんです」と、人知れぬジレンマを口にする。
「私は本気で目の前の人の人生を変えたい。みんなの背中を押したくて全身タイツで歌っています。着飾らず生きることの良さをもっと知ってほしい。私のライブを見たファンの方から『自分には無理だとか考えずにいろいろチャレンジしようと思いました』『私はオタクだけど、それを周りに知られたくなかった。でも、自分のことをできるだけ隠さずに生きようと感じました』とDMが届いて。格好をつけちゃうと、挑戦できないことも多くなる。格好をつけないことが一番格好良いんだって伝えたい」。

ちゃきの目標は、前述したように「大阪城ホール」でライブをすること。しかし、ただライブをやるだけでは気持ちは満たされない。「お客さんも全員、全身タイツを着てほしい」。そんな野望を実現させるまで、自前のスピーカーとマイクをセットして、彼女は路上で歌い続ける。
(路上ライブなど一般交通に影響を及ぼす行為をおこなう場合は、警察署の許可が必要です)
取材・文/田辺ユウキ 写真/塩崎智裕
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