テロップ全盛時代、映画はどこまで説明が必要か? 監督の願いとは

映画『ちょっと思い出しただけ』 (C)2022「ちょっと思い出しただけ」製作委員会
「松居監督は、すごく観客を信じている」(田辺)
田辺「つまり、編集段階でミュージシャン・MOROHAの曲をBGMとしてくっ付けるのではない。物語そのものに音楽を組み込んでいる。『ちょっと思い出しただけ』も同様で、尾崎世界観さんが路上演奏していて、そこに照生と葉が通りがかる。そして、尾崎さんの音楽に合わせてロマンスシーンがはじまる。つまり、その路上での『生演奏』が、映画のBGMの代わりになっている」
松居「映画やドラマのBGMは本来、編集時に映像に乗せていくんですけど、僕はそれにちょっと照れがあるんです。物語の盛り上がりどころで、既成曲がジャーンと鳴ったとき、作り手の意図が出過ぎる気がして。知ってる曲だとミュージシャンの顔まで浮かんでしまい、映画とは違う情報が重なってしまう。だから歌っている人間もそのシーンに登場させて、音楽自体を物語のなかに存在させるのが理想なんです」
田辺「クリープハイプを題材にした監督の作品『自分の事ばかりで情けなくなるよ』(2013年)、『私たちのハァハァ』(2015年)もそうでしたよね」
松居「ミュージシャンへの尊敬と憧れがあるからこそ、音楽を映画の装置にしたくない。その音楽も、登場人物と同じように生きているものとして見せたいから。物語を構成する要素として、音楽を鳴らすという。もちろん僕も後乗せすることはある。ただそのときも、いかにその物語のために音楽が鳴っているかを必ず考えます。『見せ場でこの曲を使ってください』と頼まれて、『はい、分かりました』では自分が納得できないから」

田辺「その象徴的なシーンが、照生と葉が想いを伝え合うタクシーでの告白シーン。『映画だったら、ここで良い音楽が流れるよね』と話すけど、映画のなかとはいえ、彼らが生きている世界は『現実』だからそこで都合良く音楽は鳴らない。あのセリフで『現実味』が増すんです」
松居「この映画に限らずですが、椅子にどっしり座ってスクリーンに映る情報だけを受け取って解釈するのではなく、ちょっとだけ背もたれから体を浮かせてその映画が伝えたいことを見つけに行ってほしい。パッと見て分からないところがあったとしても、自分なりに答えを見つけたほうが映画体験になる。『わからない』を楽しんだっていいし。映画って、観た人の数だけ物語が存在しているから」
田辺「まさに映画の楽しみ方のひとつですよね」
松居「たとえば、濱口竜介監督の『ドライブ・マイ・カー』(2021年)や、横浜聡子監督の『いとみち』(2021年)とか観ると、びっくりするじゃないですか。特に言語の使い方について、僕はいろんな気付きがありました。それこそテロップがないと分からない部分もたくさんあるけど、その分からない感覚すらも物語として存在していて、観ていて面白かったから」
田辺「本作でいうと、洋画を吹き替えで観る葉(伊藤)に対して、俳優の声などのニュアンスを知りたいから字幕派という照生(池松)のやり取りに通じますね」

松居「テレビやYouTubeって、テロップで説明するじゃないですか。それこそ言葉だけではなく、人の行動まで。新宿駅で照生がポツンと座りながら人を眺めているシーンがあるけど、そこで『街灯の下ではいろんな人が生きていて、それぞれに物語がある』みたいな説明はさすがに付けられない。彼の見ている風景をともに見て、人それぞれに感じるものがあるはずだから」
田辺「松居監督はそういう意味では、すごく観客を信じている気がします。決して、突き放しているわけではない」
松居「すごく信じて映画を作っていますし、もし『分からなかった』『面白くなかった』と言われても、僕は裏切られた気にはならないから安心してください(笑)。ただ、先ほど『映画を観るうえで、人生の経験値がすべてではない』とは言いながら、この映画は、年齢を重ねてさまざまな経験をしているからこそ面白味が増すタイプでもあるなって」
田辺「なるほど」
松居「つまり、いろんな経験をしている人ほど、『ちょっと思い出しただけ』が増える。だからこの映画を劇場で観てもらって、そこで作品を噛み締めてもらい、数年後にまた改めて観てほしい。きっとその頃には、友だちとの関係性や恋愛の思い出が増えているはず。そういう意味でこの先、何度でも観てもらえる映画になるようにと願っています」
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