俳優・升毅に板尾創路が訊く、関西小劇場ブームと今の演劇界

東京と大阪をオンラインでつなぎ対談。映画『歩きはじめる言葉たち』の舞台挨拶で大阪を訪れていた升毅(左)と板尾創路
「年に1回ぐらいは褒めてもらえる祭があったら」(板尾)
板尾「今の関西演劇界って、ひと言で言うと『元気がない』と思います。升さんから見た感覚で『もうちょっとこうしたらいいんじゃないか』というのはありますか?」
升「僕らの時代は『ちょっと頑張ればいけるんじゃないか?』という目標が、いろいろあったんですよ。まずは『扇町ミュージアムスクエア』(注)に立てるようになって、そこで人が呼べるようになったら『近鉄小劇場』(注)に行こう・・・とか。そういう小さな目標があると、気持ちが変わってくるんじゃないかな。『関西演劇祭』も、そのひとつという気はするんですよね」
注釈:「扇町ミュージアムスクエア」は、かつて大阪市北区にあった小劇場。同じく大阪市天王寺区にあった「近鉄小劇場」とともに小劇場ブームを支え、2004年に両劇場とも閉鎖された。

板尾「そうなんですよ。この演劇祭では、作品賞とか主演男優・女優賞とかをいっぱい作ってるんですが、それはコンペが目的というより、チヤホヤしてあげられる機会を増やす方が、僕はいいかなあと思ってるんです。仰々しくプレゼンターが来て『最優秀作品賞は○○です!』とか言って」
升「そうですね。褒められるって絶対にいいと思う。今はみんな怒られない代わりに、褒められもしない(一同笑)。それってなんの目標にもならないですから」
板尾「だから年に1回ぐらいは、褒めてもらえるような祭があったら、ちょっとは活性化というか、刺激になるというか、関西の劇団のなかで熱が上がってくるかなあと思っています」
升「(軽く)『ここが良かった』じゃなく、(熱量の高い)『ここがめちゃくちゃ良かったで! がんばりや!』みたいな褒め方があってもいいかなあって思います。さらに演劇祭に協賛してくれる方が、ご褒美をくれたりね」

板尾「そこなんですよ。そういう子たちが、さらに活躍のできる場所・・・テレビドラマとか、関西でも作ってくれたらいいのにって思います」
升「それだけはねえ、周りが作ってくれないとしょうがないですよね。でも、今ドラマや映画で活躍している若い俳優さんで『うわ、この人面白いなー』って思ったら関西出身だった、ってことがすごく多いんです」
板尾「プロフィールを見たら、神戸出身とか奈良出身とか、結構いてますよね」
升「だからやっぱり、(関西の)劇団ルートではない入り方をしてる人が、今は多いんでしょうね」
板尾「ちょっとできる人は、関西を飛ばしてすぐ東京の事務所に入って、オーディションをボンボン受けて、上手いからすぐどっかに引っかかって、そのままポンポーンと売れていく・・・って感じなんですかね? 」
升「そうそう。すぐに単品で活動する人が増えたと思う」
板尾「だからやっぱり、1年か2年は関西の劇団を経由しないといけないみたいな、そういうルールや仕組みがあるといいかもしれない(笑)。もしかしたら、関西で光り輝く何年間かがあったかもしれませんから、そういう人たちにも」
升「まずは関西で1番を獲ってから、東京に行ってね・・・っていう」
板尾「芸人も演劇の人も、簡単に流出しないように、2年縛りみたいな決まりを作って。携帯電話みたいに(笑)」
升「しかも位置情報を登録して(一同笑)」
板尾「・・・なにか対策が見えてきた気がします。ありがとうございます(笑)」

升「それこそ『関西演劇祭』で、2年連続グランプリを取ったら東京進出決定みたいな。でもそんな思いでたくさんの劇団が、『自分たちがトップ獲ったる!』ぐらいの気持ちで演劇祭に参加してくれたらなあ、と思います」
板尾「升さんも時間があったら、ぜひ観に来てください。どの劇団も、有名な人は出てなくても『あ、こんなんもアリなんや』って感じで・・・雑な言い方かもしれませんけど、ちゃんと観られるんですよ。升さんが来てくれたら劇団の人も喜ぶと思うし、関西の演劇ファンの人も、升さんと一緒の客席で観られるのって、きっと嬉しいと思います」
升「ぜひぜひ。微力ですけど、何かできることがあればやらせていただきたいです」
『関西演劇祭2021』は、11月20日から28日まで「SSホール」(大阪市中央区)にて。チケットは一般3000円、学生2000円、配信チケット1600円ほか。
参加団体:劇想からまわりえっちゃん、劇団不労社、劇団5454(ランドリー)、劇団レトルト内閣、試験管ベビー、創造Street、project真夏の太陽ガールズ、メガネニカナウ、猟奇的ピンク、笑の内閣
また現在、升主演の映画『歩きはじめる言葉たち 漂流ポスト3.11をたずねて』が、全国で順次公開中。本作は、岩手県陸前高田市にある故人宛の手紙専用ポストの関係者と、2020年に急逝した佐々部清監督の周囲の人々の声を通じて、大切な人の死といかに向き合うかを考えるロードムービー風のドキュメンタリーだ。
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