最後の日本兵を映画化、フランス人監督が描いた理由とは?

ルバング島に残留していた小野田寛郎(遠藤雄弥・左)、小塚金七(松浦祐也) (C)bathysphere ‐ To Be Continued ‐ Ascent film ‐ Chipangu ‐ Frakas Productions ‐ Pandora Film Produktion ‐ Arte France Cinéma
「ここで得た情報から何が起きたかを感じてほしい」
──ところで2018年、NHKで小野田さんを日本へ連れ戻した鈴木紀夫さんをメインにしたドラマが放送されたことがあります(『小野田さんと、雪男を探した男~鈴木紀夫の冒険と死~』)。その後の鈴木さんと小野田さんの繋がりも描いたものなんですけれども、そこでは小野田さんを塚本晋也監督が演じていました。監督も資料のなかで影響を得たと仰ってた市川崑監督の『野火』のリメイクをされた監督です。もちろんフランスでもカルト映画であろう『鉄男』の監督でもありますが。
『野火』に関しては市川監督、塚本監督のどちらの作品も観てます。NHKのものは、放映されたのがこの映画の準備をまさに始めていたときだったんですね。残念ながら字幕がなかったので部分的にしか見てませんが・・・、塚本監督が出ていたことは知ってますし、それが非直接的には繋がっている気はしていました。
そもそも塚本さんに小塚さん(1番最後まで小野田と一緒にいた兵士の成年期)の役をやってもらえないかと一度アプローチしたことがあったんです。いろいろあって実現はしませんでしたがコンタクトは取ってました。
──そうなんですか! それはとっても面白い。日本人にとってはあのドキュメントドラマ、この映画の最良のサブテキストになると思うんですよね。ところで音楽の話になりますが、全編にわたってメロディアスではあるけれど感傷的にまではならない音楽が作品を柔らかい感触にしていると感じます。ああいう発想は日本人が小野田さんの映画を作ったとしてもなかなか付けられない感覚で、それがものすごく面白い。
音楽は大変でした。最初当てていた音楽はバロック期のグルック(ドイツの作曲家)が作曲した、マンドリンで奏でられるかなり執拗に繰り返されてるテーマだったんですけど、これを全部に使うのは厳しいなと。
それで、グルックのものを再解釈したものと、フランスの中世の音楽を現代風に再解釈したものと、僕の前作『汚れたダイヤモンド』でも音楽を担当してくれたオリヴィエ・マリグリがゼロから創作してくれたもの、その3つのテーマを使うことにしました。
全体のなかでひとつのやさしさというか、柔らかさ、感傷的ではないけれどもメランコリックな感じを出したいというのは、自分のなかでとても大切にしていた方向性なんです。だから最終的に3つの音楽が出来るまではすごく時間がかかりましたね。

──なるほど。撮影についてですが、実際にルバング島には調査に行かれたんでしょうか?
スタッフの誰も実際にルバング島には行ってないです。ルバング島の実景をフィリピンの方に撮影をお願いして、上空にどんどん上がっていって島が小さくなるところを最後に使おうと思ったんですけど、ルバング島の気象が結構不安定らしくて。結局撮られたものは映画として使えるものではなかったんです。
──しかし、あのラストカットは素晴らしい。
ありがとうございます。どうやって映画を終わるかと考えたときに、後ろに島の景色が流れているところで、長く住んだ島に永遠の別れを告げる小野田さんの表情で終わることしか出来なかったんですよ。そこを褒めてくださると最高にうれしい。
──こうしたトゥルーストーリーものでは、その後どうなったかなどをテロップで紹介したりするけれど、本作はそういうの一切無しに(壮年期の小野田さんを演じた)津田寛治さんの表情とジャングルだけで終わる。それは完全に監督の意図的なものだと思うんですけれども。
この映画を見た人は、ここで得た情報から何が起きたかを感じてほしいんですよ。本当にこの映画を見て心に響いた人は、後々自ら彼のことを調べてくれると思う。だとするとそれはこの作品の役割ではないなと思って、ああいう風に終えようと思いました。
◇
映画『ONODA 一万夜を越えて』は、全国の劇場で公開中。
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