金子大地と石川瑠華主演作「互いの良さが引き出された」

田中ユカを演じる石川瑠華と小山田修司を演じる金子大地。(C)2019 オフィスクレッシェンド
女優を夢見る読者モデルに、恋する駆け出しのカメラマン。甘い恋愛物語かと思えば、思わぬ方向へと展開していく映画『猿楽町で会いましょう』が、1年の延期を経て6月4日から全国公開される。恋と仕事にあがく小山田修司役を注目株の金子大地、小悪魔的な田中ユカ役を今急上昇中の石川瑠華が演じ、メガホンをとったのは大阪府出身の児山隆監督だ。
これまでTOYOTA、LINE、Google、マクドナルドなどのCMを手がけてきたものの、長編映画は初挑戦だった児山監督。「初監督でこの内容とは!」と驚き、監督や出演者と語り合った映画評論家のミルクマン斉藤さんが、出演者から、脚本や撮影のテクニックについてまで掘り下げて話を訊いた(一部ネタばれあり)。
取材・文/ミルクマン斉藤
「だれかの実績に寄り添わない映画を作りたかった」
──監督とは2020年10月の『くまもと復興映画祭』でお会いして以来ですね。あのときこの作品を始めて観たのですがあまりの衝撃に興奮してしまって、ずいぶんお話させていただきましたが、その時から僕は「こりゃあ、地獄の恋愛映画ですね」と(笑)。
あは、「地獄の」(笑)。
──捉えようによってはファム・ファタル映画、あるいは小悪魔映画。ファム・ファタルがファム・ファタルである所以というのは、彼女自身には他人を操っているとかの意識は全くないと。彼女の存在そのものが男を狂わせるのであって、彼女そのものはある意味、純粋で悪気が無くて、というのが条件だとすれば、ユカはそうした性格をかなり帯びてると思います。
ユカは単純な被害者でもないけれど、加害者でもある。あの映画における登場人物はみんなそうなんですね。だれも絶対的に正しい奴はいないし、メチャクチャ悪いかと言われたら、それは仕方ないな、みたいな。世の中は白か黒か、0か100かを他人に対して求めがちだけど、僕も含めて曖昧な部分ってメチャクチャ多いと思う。上手く立ち回れないことって往々にしてあるじゃないですか。
ユカというのはいろんな人間に加虐された世の中の矛盾みたいな存在。例えば今の社会もそうだし、世の中的なムードもそうだったりするんだけど、そんな中で彼女はいい立ち回りをしようとするけど,どんどん彼女の矛盾みたいなものが膨らんでいって、自分の本質に対して目を背けてしまう、って感じなんですね。
──あ、そっか。ユカちゃんって『月曜日のユカ』の加賀まりこに近いのかな(笑)。
あ、それ・・・はい、とは言いませんけど(笑)、『月曜日のユカ』を恋愛映画といっていいのかはちょっとアレなんだけど、まぁまぁなんとなく恋愛映画に対してのオマージュみたいなものは実は結構やっています。
例えばズーイー・デシャネルの話が出てくるんですけど、つまり『(500)日のサマー』のヒロインだし、そうした恋愛映画リスペクトはいちおう盛り込んではいます。
──『新幹線大爆破』は違いますけどね(笑)。でも何と言っても、石川瑠華さんを持ってきたのが大成功ですね。これ観たら、役柄の倫理とかもう関係なく、彼女にどうしようもなく魅了されちゃうんですよ。
どんな映画でもそうなんですけど、この役者さんがこの役をやるんだというのにすごくグッとくるんですよ。例えば、『桐島、部活やめるってよ』の東出昌大さんとかとか。あれって唯一無二というか、マスターピースだと思っています。
この映画は僕のデビュー作というのもあるんですけど、「誰だこいつ? でもすげぇ」ってだれかの実績に寄り添わない映画を作りたかったんですね。5年10年経って石川さんがベテラン女優の域に達したときに、改めて見返して「やっぱすごいね」とか「素晴らしいね」と思ってもらえるようにしたかった。
あの石川瑠華があったからこそ、児山隆という監督のキャリアは次もあるしってふうに。それは金子大地くんもそうですけど。

──いやぁこの二人、本来は2020年に公開でしたが延期されたあとの活躍が顕著ですよね。業界の人々は1年以上前にこれ観てる人が多いから、絶対関係性あると思います。
やっぱりフレッシュな俳優と、デビュー作の監督がこういうのをやるというのが、みんなのキャリアにとって良いんじゃないかなぁと。変な先入観なしで観れる映画って結構ドキドキするんですよ。新人俳優のフレッシュさってお金で買えないっていうか、経験すればするほど、そういうのってどんどん変わっていくじゃないですか。
石川さんとこのあいだ話してて、「今あれをやれって言われてもできないと思います」って(笑)。いや、まだ1~2年は大丈夫じゃないかなって言っておきましたけど。
──石川瑠華=ユカに見えてくるくらいの一体感というか、憑依感というか。
石川さんやっぱり面白かったです。すごく論理的な思考を持っているんです。
──いや、そうなんですよね。熊本では宿泊先が児山監督、金子さん、瑠華さんと同じだったから、ロビーでずっと話していたら、結局遅くまで残ったのは瑠華さん(笑)。とにかく彼女は論理立ってるし、自分が今何をしたいかとかはっきりしてるし、映画をよく観ている。
もともと彼女は理系なんですよね。だけど物事を全部論理立てて考えるだけの人かと言われたら、ちゃんとそこに感情もあるから、そこの矛盾みたいなものを本人はずっと抱えながら生きてる気がしてて。
だからずっと現場でも悩んでて、「なんでこんなこと言うんですか?」とかずっと言ってて。だけどカメラ回ったら全然言えてますけど、みたいな(笑)。不思議な人ですね。
──作品を観たばかりで僕が興奮してたのもあるけど、ずっと真面目な話をしてたって感じだったんですよ(笑)。そして、金子さんも、彼の今のところの代表作だと思うんです。いってみれば終始「受け」の演技ですよね。それをこれだけきっちりこなすって実力以外の何物でもない。
最初から金子くんとはユカの良い部分をどう見せようか、ってことをずっと一緒に考えてました。ユカっていろんな人に負荷をかけられているんで、それをどういうタイミングで、どれぐらいの強さで、どれぐらいの力点でかけていくかというような話を常に相談しながらやっていましたね。
あの若さで、って言うのは失礼なんですけど、W主演って座組なのに、石川さんをずっと立てることを考えていて、俳優としてすごく出来た人でした。金子くんがいたから石川瑠華の良さが引き出されたというのはあるし、石川瑠華のいい部分がすごくイレギュラーな形で発動される瞬間に金子大地の良さも相乗効果として出てくる。
それこそ二人の俳優のグルーヴ感になっていて、受けなんだけどただの受けになってない。そこが彼の度量の広さですね。
──これがたとえ「地獄の」と枕詞がついていようとも恋愛映画である所以は、金子さん演じる小山田が「好きな人が嘘ついてるかもしれなくって、でもたとえ嘘をついてたとしても、なんでそれを許せないんだろう」って台詞に極まると思うんです。
あはは。みんな神さまじゃないですからね。
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