10年ぶりの長編、照屋年之監督「やっとチャンスをいただいた」

「あの現場のひりつきはスゴかったです」(照屋監督)
──その儀式の次第がかなり精密に描かれますよね。ともすればグロテスクとも受け取られないかな、という心配をものともせず。
実際の撮影でも、演者(キャスト)には本番まで骸骨を見せませんでしたね。リハーサルでも棺桶開けるところまで。本番では本物を見せますから、そりゃショッキングですよ。奥田(瑛二、妻の亡骸を洗う夫役)さんはクランクイン前から、「(妻の)恵美子の遺影の写真をくれ」と。役作りで心に恵美子を入れたいから、と。で、事前に(恵美子を演じる)筒井真理子さんの写真を渡して、役を作ってもらった上でラストに撮ったんで。
──順撮りだったんですか?
ほぼ順撮りです。棺を開けたときの表情とか、1度きりしか撮れないと思ったんで、あの現場のひりつきはスゴかったですよ。カメラマンも音声さんも現場がピーンとなって。「よーい、はい!」「じゃあ、開けるよ」と棺をガッと開けたとき、一瞬みんな固まるんですよ。「わっ! こうなってるんだ」って。だけど、奥田さんは、愛おしい妻の骸骨だから、棺桶に手を入れて触り出すわけですよね。そこはご自由に、と演出はしてなかったので。そして、取り出して撫でるわけです、骸骨を。

──劇中では丁寧に描かれていましたが、骨をひとつひとつ分解されるんですよね?
そうです。実際に「洗骨」を撮影されている一般の方がいて、自分たちの記録用に。その方をなんとか見つけて「本当にお願いします。できるだけリアルに表現したいので見せてください」と頼み込んで、スタッフ全員で共有させてもらって。美術さんにも「こういう風にリアルになるんで、骨をこういう風に作ってください」と。
──喪主というんですか、奥田さんが「頭骨」を洗われるんですが、そこにはまだ髪が残っていて。
4年以上経つと、肉は残らないんです。でも、髪の毛は全部残っていて、洗うとズルって落ちるんですって。ちょこっと骸骨に残ったりもするんですけど、本当にリアルに作って。色も火葬にしないと茶色っぽいというか、ああいう風になるんですよ。僕は棺を開けたときのみんなの緊張感が好きですね。身体に力が入るのが分かるんです。愛しい人の変わり果てた姿と、でもまたその人に会えたという、うれしさと悲しみとが。
──そこに恐怖はないですよね。
ないです、まったくないです。

──もちろんお芝居とは分かってるんですが、前半で死者への愛情と、家族のわだかまりが解けるまでを丁寧に描いておられるので、その「再会」の喜びが伝わってきます。でも、その妻が今棲む「あの世」に家族が踏みこんでいくシーンがたまらなく面白くて、衝撃的で。それをあえてオフビートで描かれています。
劇中の「あの世」の場所って、本当にあのまんまなんです。粟国島の人が実際に「ここから向こうはあの世」と考えてる場所を使ってて。僕なんかは映画的・演出的に、急に草が生い茂って、太陽の光が入ってこない洞窟のような道がいいな、と思ったんですけど・・・。「あの世と、この世の境の線はどこですか?」「だいたいここです」って言われて。「だいたいここ?」「はい、だから電線とかもなんも無いでしょ?」って。「じゃぁ、怖くてみんな行かないんですか?」「いや、全然通り道」だって(笑)。だから、「あの世」と「この世」の境が重くないんですよね、島民としゃべってると。
──そういう「ハレ」と「ケ」が連続してるという考え方って、昔の日本では当たり前だったんだなと思わせるんですよ。
僕たちは勝手に、「あの世」って怖いもんだとか、遠いもんだとか思ってますけど、なんか粟国島にいると、「あの世」と「この世」が隣同士にあるような気がしたんですよ、生と死が。だから、亮司(鈴木Q太郎)が「もうあの世なの? そんな感じしないんだけど」って言ったら信子(大島蓉子)が「そんなんだよ、あの世って」と答える、あの一言が好きで。
──沖縄といえば「あの世」と「この世」がずっと近しい場所というイメージは確かにあります。でも、沖縄の信仰施設「御嶽(うたき)」とか、聖なるところは平凡な場所じゃないという固定観念もある。この場合は違うんですね。
違うんですよ。ウソでも物々しいところに入っていく方が良くないですかと言うスタッフもいたし、悩みました。でも、例えば映画『ゴッドファーザー』でアル・パチーノが入っていくコルシカ島(イタリア)のレストランがまだ残っているとなったら、僕は行ってみたくなるタイプで。(家族にとって大切な役割である)ブランコも実際にありますし。この映画を好きになってくれた人のために、できるだけ本当の場所が使いたいと。
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