岸谷五朗、柚希礼音「ここはユートピア」

「自分が何に飢えているかは常に探している」(岸谷五朗)
──岸谷さんは、前回の地球ゴージャスの公演『The Love Bugs』のときに、「今、世界情勢がすごいことになっているから、人間がものを言うより、虫から人間にメッセージを送ってもらったほうがいいんじゃないか」とおっしゃっていました。今回の『ZEROTOPIA』ではどうですか。
岸谷:社会性の強いメッセージやテーマはもちろんあります。今の社会情勢をとらえて、言わねば気が済まないことは作品の随所にちりばめられていると思いますね。
柚希:演じていて私もそれは強く感じます。これもあれも入っている。すごいと思いますね。でもそれだけではなく、稽古場で何度見ても笑ってしまう場面もいっぱいあります。ジーンと後まで残り、考えさせられる。笑いだけでは終わらないし、テーマに縛られて終わるわけでもない。究極のエンタテインメントです。
──地球ゴージャスは今年で結成24年目に突入し、今作で15作目です。岸谷さんは最初から「人間はいかに生きて死ぬか」というテーマを核にされています。それは初めから意識的にそうされたのか、必然的にそうなるのか、どちらでしょうか。
岸谷:僕は俳優をやっていて、今まで辞めようと思ったことが一度もないんです。若くて落ちているポテトチップスを食べていたころでも(笑)、辞めようとは思わなかった。今、俳優というのは生きていることに繋がっているんだと思うんです。生きる=俳優みたいな。だから作品で表現すると、いかに生きるかに重なってくるのでしょうね。
柚希:私は宝塚を卒業するときに、本当に燃え尽きて、これで終わるんだと思ったんです。でも、子どものころからバレエをしていて、17歳で宝塚に入り、自分の人生はほぼ、歌ったり踊ったり、芝居をしていることで成り立っている。だから宝塚を辞めても、やっぱり歌って踊って表現したくなるんです。私には宝塚だけではなかったんだということが分かりました。もし、自分を通していろんなことが表現できる女優という道がなくなったら、本当にボーッとした味気ない人生を送ることになってしまう。こうやって俳優をできることはありがたいなと最近、つくづく実感していますね。
──岸谷さんは仕事を選ぶときに「何に飢えているのか」と問われるそうですね。
岸谷:絶対に大事だと思います。今、自分が何に飢えているのかを見つけて、飢えている場所に行かないと、つらくてできなくなっちゃうんですよね。テレビドラマでも映画でも演劇でも。飢えているところに行かないと役者を全うできない。
柚希:飢えているってどういうことですか?
岸谷:例えば、いいお父さんの役をやるとするよね、それがすごく評判が良くてうまくいく。次にいいお父さんの役が来て、同時に、すごく悪いお父さんの役のオファーがあったとすると、俺がやりたくなる役は、絶対に悪いお父さんの役。いいお父さんの役に莫大なお金が絡んでいたり、絶対成功するステップがあったりしても、いい芝居ができるわけがないんですよ。悪いお父さんの役に飢えているから。その飢えを信じる。

「夢は何ですか。目標は何ですか」とよく聞かれるんだけど、僕は目標は掲げない。目標を掲げたところで、その目標でない別のやりたいことが生まれてきたら、絶対にそっちにいったほうがいいんです。その結果、目標からはドンドンと離れていく。だから、目標は作らない。それよりも、瞬間、瞬間、自分が今、何に飢えているかということを大事にする。歌いたくないのに、ミュージカルに出ても成功するわけがないじゃない。「今、このストレートプレイやりたい」と思えば、そっちに行った方がいいんだよね。そしたら燃えつくことができる。自分が何に飢えているかは常に探して慎重に判断しないと。
柚希:ウワーーッ、それはすごいことです。すごいわぁ・・・。
──なかなかみんなが出来ることではないですよね。骨身に染みる言葉です。
岸谷:いやいやいや、どんな取材やねん(一同笑)。
柚希:私も宝塚時代から、「どんな男役になりたいですか」という高い目標を聞かれるのが苦手で。目の前にある役を必死にやったら、それが次に繋がる。かわいいロミオ役をやったら、もっと男らしい役をしたいと次々に違うものを求めてきたんです。
岸谷:自然に選んでいたんだ。
柚希:でもそうしたら、もっとバーンといける役を選んだほうが良かったのかもと思うこともあったので、今の言葉が「うわーそうだよな」とストンと自分の中に入っていった感じがしました。
岸谷:正しかったと。今までは本能がそうさせていたんだよね。
──作品が終わると飢えは満たされるものなのですか。
岸谷:いや、ずっとあるものです。飢えはどこにも行かない。
柚希:すごい!
岸谷:問題はギャラかな。もし、1億と50万ぐらい離れていたら、飢えはほっとくか(一同爆笑)。
柚希:アッハッハッハ。そんな結論でいいんですか。
岸谷:ダメだよね(笑)。

──最後の質問です。今作は最後に登場人物たちがユートピア(理想郷)へ向かうのか、ディストピア(地獄郷)に向かうのかという物語です。お2人にとって、舞台はユートピアでしょうか。
岸谷:今はすごく苦しいんですよ。もう、何とかしなきゃいけない状況なんで。でも、間違いなくユートピアですね。
柚希:そうですね。光が差すまでが苦しすぎますが、お客様の前で何かが見えたときの幸せはすごいんです。
──そこに到達するまでが本当につらいと。
岸谷:まぁね、楽しいんでしょうけど。楽しいと書いてつらいなぁ…。
──ユートピアに到達するまではディストピアですか?
岸谷:いや、世界はね、ユートピアだと思う。演劇が出来ること自体がユートピアですよね。その作り上げる過程はつらいことばっかりです。でも、居る場所は間違いなく、ユートピアですね。
柚希:私もそう思います。

本作は、4月からの東京公演を皮切りに全国6都市を巡回。大阪公演は、7月6日から15日まで「フェスティバルホール」(大阪市北区)にて。
地球ゴージャスプロデュース公演Vol.15『ZEROTOPIA』
日程:2018年7月6日(金)〜15(日)
会場:フェスティバルホール
料金:S席12000円、A席10000円、B席8000円
電話:0570-200-888
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