白石和彌監督「アイドルでアングラ映画」

「まったくもってセンチですが」(白石監督)
──そう、文脈はおかしいけど、ネット民から続々と「キター」「キタコレ」「キタコレ」ってリアクションが湧きあがれば、なんか盛り上がる(笑)。まあ、よく考えれば連合赤軍の集団心理の恐怖と紙一重なんだけど、あそこで北原さんが覚醒するのがいいですよね。
さっきのインターネットの話でいうと、炎上だとかいろいろあるなかで、今なおやっぱり「匿名性ってどうなんだ?」という議論にすぐなります。一度、そういうヤツを1カ所に集めてみたいなと思いました。
──匿名性のもとに隠れている奴らを。
集めて、目に見えるところでひっぱたいて、ただ、ひっぱたくだけだと可哀想だから抱きしめて、ということをやったらどうなるかと。たぶん、ネットに書き込んでいる奴らって、個人個人で会ったら、どこか寂しい奴だったりとか普通だったりするわけじゃないですか、おそらく。僕も人の親になってスゴく思うのは、「NEVADA事件」を起こした子のご両親らが何か予兆に気付いて事件を防げたかというと、それは無理だと思う。ただ、映画を作る以上はそれではダメだから、最後になにかしたい、ということです。

──その最後にドローンで飛ぶことになるわけですね。「いきなりファンタジーかよ、そんなことないよな、でも飛んでるよ!」と心のなかで興奮してると・・・。
すぐに落っこちてしまうという(笑)。でも、あれだけはどうしてもやりたくて、すでに決めていました。最初はドローンで飛行させて終わる、あるいは飛ぶ直前で切る、ってくらいのイメージでした。一応、地面に落ちるところまでは撮っておきました。
──飛んでいっても良かったな、とも思うんですけど、あまりにそれは甘いなと。
まあ、落ちた方が現実ですからね。
──現実にしても、そのあとに感動的なエピローグがありますし。
でも脚本の段階で、そのシーンはありませんでした。飛んで行くところで終わっていましたが、やっぱり編集してみてこれは明確にしないと見終われないと。無理を言って追加撮影させてもらったのは、これが初めてかも知れないです。
──この映画って、第1部、第2部みたいな造りになっていて、第1部の最後で北原里英が覚醒し、みんなを抱きしめて一時は救済にもっていくわけじゃないですか。でも第2部でグジャグジャにしてしまいますし。
キレイにまとめるつもりは無かったです。
──第1部であれだけ本物のサニーにこだわって拉致までしたピエールさんとリリーさんが、すっかり偽物サニーの信者になって「本物かどうかなんてどうでもいいんだ」と言い出して。その一方、奥村佳恵さん演じる静香みたいに、あくまでも本物にこだわる原理主義者も現れて、コミューンが分裂する。そのあたりも集団ではあり得ることですね。
だと思います。ピエールさんとリリーさんは「サニー」という存在とちゃんと接したからこそ、北原さんを信じられたと思います。
──もともと何かに依存したがってる・・・あるいは、救いを求めていた人間なわけですからね。(教師役の)北原さんの教え子も含め。
それはとても考えましたね。

──で、おそらく門脇麦さん演じる2人目のサニーが本物で、彼女が現れてからまた物語が一転します。当然ながら、2人目のサニーは北原さんとまったく別の道を14年間歩いているわけで。
壮絶だったんだろうなというのは想像できますよね。まさか今、向こうも拉致監禁されているのはあり得ない設定ですが。この映画のテーマのひとつに「赦されることを許されない」というのがあって。謝罪と救済というか、1回罪を犯した人は今の世のなかでなかなか救済の道が無いです。その現実を(北原さん演じる)赤理が知ることが重要だったんです。
──それと同時にアイドル視されている、偶像視されている犯罪者の場合、罪を償って犯罪者で無くなったときには即、幻滅に繋がるわけで。許されない、ってことになるわけですよね。
そうです。
──偽物というか、一方的に間違えられたサニーである北原さんは、その種のネット民が犯罪者を偶像視する精神的構造を身をもって知ることによって、結果なぜかああなっちゃっうんですが、2人目のサニーである門脇麦はこの14年間の決して赦してもらえない苦しみを吐きだすしかない。その自己処罰のやり方がまた痛々しいんですが。
少年犯罪を起こして、医療施設などに行って出てきた人のなかには、身を隠して生きている方もいらっしゃるかと思いますが、普段なにを考えているのか知りようがないです。ですが、彼ら彼女らにも言えることはあるだろうなという思いで、2人目のサニーの台詞はスゴく考えました。同じような犯罪者を出さないために、その人たちも祈っていて欲しい、という思いでした。センチな考え方といえば、まったくもってセンチですが。
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