岡田将生「共感しないけど芝居は面白い」

女性を翻弄するモンスター級の痛男(イタオ)と、そんな男に振り回される女性たちを冷ややかに眺めるアラサ―女性を描き、ヒリヒリする感覚を覚えると多くの女性から支持された柚木麻子の小説『伊藤くん A to E』。昨年、放送されたテレビドラマも好評だった同作が映画化。監督は『彼女の人生は間違いじゃない』(2017年)、『ナミヤ雑貨店の奇跡』(2017年)など充実した仕事が続く名匠・廣木隆一。さらに岡田将生、木村文乃というW主演も魅力的だ。3人に話を訊いた。
取材・文/春岡勇二 写真/木村正史
「最終的に笑えるものにしようと」(廣木監督)
──監督のところに、この原作の映画化の話がきたときのお気持ちから教えてください。
廣木「柚木さんの小説はそれまでにいくつか読んでいたので、『あ、伊藤くんがやれるんだ』って感じでうれしかったです。ただ、難しいなとも思いました。同じ男が何人かの女性と絡んで、それぞれでカップルとして物語を作っていく設定なので、その同じ男である伊藤くんの造形をしっかり考えなくてはいけないし」
──その伊藤くんですが、日本映画史上稀にみるユニークなキャラクターだと思います。容姿端麗だけれど自意識過剰で無神経、女性を振り回す言動はむかつくレベル。こんな主人公で大丈夫か? という思いはなかったですか(笑)。
廣木「確かに共感しにくいキャラクターだよね(笑)。ただ、物語の終盤、もうひとりの主人公である莉桜と対決するシーンで彼が自分の考え方を言うんだけど、その彼なりの理屈は面白いなと思いました。いまの若者の代表では決してないけれど、まあこういうやつもいるかなって。だから、その理屈から逆算して、彼を造形していった感じですね」

──初めから、映画とテレビドラマを製作するという、いわゆるメディアミックス方式は決まっていたのですね。
廣木「そうです。ただ、ドラマで描いた部分の前後を描いたり、スピンオフ的物語を描くのではなく、同じ物語なんだけど全体の見え方を変えたものを作ろうということでした。あと意識したのはドタバタ・コメディ的なことで笑わせるのではなくて、シリアスにやっていきながら最終的に笑えるものにしようと。そのために登場人物の誰の視線にも偏ることなく、常に客観的な演出を心がけました。ただ、実際に撮影に入ったら、岡田くんが伊藤くんになりきってくれたので、演出していて面白かったです」
──面白かったのは、例えばどういうところがですか?
廣木「あくまでも演技であって、決して岡田くんの『素』ではないんだけど、それでもどこか、彼が伊藤くんを演じているときに、ふと俳優・岡田将生が剥き出しになっているような部分があって、そんなドキュメンタリー的側面が感じられたときが面白かったです」

──演じられた岡田さんとしてはどうでした? この伊藤くんというキャラクターは。
岡田「やはり、初めは全然共感できなかったです。ただ、お話をいただいて出演したとき27歳だったんですが、この青年か大人かという中途半端な年齢のときに、こういういろいろと変化をつけられる役をいただいたのはうれしかったですね。20代前半のころだったら、キャラクターに全然共感できないし、演じていても嫌な奴だなって思ったかもしれないです。今も共感はできないですけど、芝居としては面白いと思えますから。あと、久しぶりに廣木組に参加できるのもうれしかったです」
──2010年の映画『雷桜』以来ですよね。
岡田「そうです。あ、そういえば『雷桜』に出演したとき20歳だったんですよ。あれから7年経って、伊藤を演じさせてもらったということですね」
──演じていくうちに伊藤くんへの印象も変わっていったということですが。
岡田「どんどん好きになっていきました(笑)。共感はできないままでしたけど。この役は、観た人に共感してもらいたいと思って僕も演じたわけではなかったので。こういう突出したキャラクターの人物がいて、それが周囲の人間たちを振り回しているところが面白いわけですから。あと、さきほど監督も言っておられた終盤で莉桜に伊藤が語る、彼自身の考え方、これが面白いなと僕も思いました」
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