中村義洋監督「編集でも泣いちゃう」

映画『殿、利息でござる!』のメガホンをとった中村義洋監督
『武士の家計簿』で知られる歴史学者・磯田道史の近著『無私の日本人』に収録されている一編を、『白ゆき姫殺人事件』『予告犯』の中村義洋監督が映画化した『殿、利息でござる!』。主演の阿部サダヲをはじめ、瑛太、妻夫木聡、竹内結子、松田龍平ら豪華キャストが集結した本作について、中村義洋監督を直撃した。
原作は『無私の日本人』に収録されている『穀田屋十三郎』。金欠に悩む仙台藩から重税を課された小さな宿場町、吉岡宿が舞台だ。この町の行く末を心配する十三郎(阿部サダヲ)が知恵者の篤平治(瑛太)から復興の秘策として、藩に大金を貸し付け、利息を取ろうという計画を打ち明けられ、十三郎と仲間たちは私財をなげうって千両=3億円を調達すべく奮起した、という250年前の実話である。
「磯田さんの原作は『國恩記』を訳したものなんですね。で、その『國恩記』というのは、実際の話を栄洲瑞芝というお坊さんが、何も脚色しないで書いたものなんです。3、4年前、東日本放送の40周年記念で声をかけていただいたのが映画化の発端なんですけど、いろいろ企画を立てているときにこの原作と出合って。それで、絶対にこれをやった方がいいです、と説得したんです。震災をテーマにすることは前々から決まってたんですけど、なんか僕のなかではすごくリンクしてて。当時、被災に合われた方々の粛々とした佇まいが印象的でしたけど、その東北の人の強さみたいなものが、この原作にあるなぁと思って」
そんな原作でありながら、映画はポスターひとつとっても明らかにコメディ路線。当初、「当然シリアスでいくだろう」と監督も思っていたらしいが、プロデューサーからの提案に「それによって観る人が増えたり、広がったりするのであれば、伝えたいことがもっと明確になる気がした」と快諾。それでいて、メッセージ性の強い物語だけに、そのバランスには相当苦労したという。
「すごい大変でした(笑)。この話は、250年前の東北のあの地に、奇跡的にすごい人がいたということではないと思うんですね。原作にも『國恩記』にもちゃんと、どれぐらい躊躇したかも書いてある。銭を出す人もいれば、当然、出さない人もいる。そういう人たちが影でどういう陰口を叩いてたとか。そういうところって、すごく現代人と通じるよなぁって。だから、今の目線、価値観に合わせていきましたね。瑛太くんが演じた篤平治にしても、褒められようと思いつきで言ったことが、十三郎が本気になっちゃって困る、とか。だから鑑賞後、なんだ、今の自分たちと一緒じゃんと思ってもらえればうれしいです」

とはいえ、実話。映画としてのエンタテインメント性は追及しつつも、そこへの配慮は徹底したという。阿部サダヲ演じる穀田屋十三郎、瑛太の菅原屋篤平治、松田龍平の萱場杢など、覚えづらい役名すらいっさい変更してない。ドラマなら美談で終わらす場面も、史実に沿って忠実に再現している。
「編集をしてる最中、最後の方に『実話』というナレーションが出てきたとき、自分でえらく感動して、泣いちゃったんですね。作っていると忘れがちなんですよ、実話ってことを。人の気持ちが変わる場面が多くてドラマティックな映画だから、どうしても実話ってことを忘れがちなんだけど、それは忘れさせたくなかった。だから、予定にはなかったんだけど、中盤のシーンにも『◯◯したという記録が残っている』というナレーションを入れたりして。この映画の登場人物は、竹内さんが演じた飯屋のおかみをのぞいて、実際にいた人ばかりなんです。穀田屋さんという酒屋さんなんて、まだあるしね。その人たちの努力があって、宿場の家数は今も減ってない。つまり、生きているんですよね」
5月14日の公開を前に(宮城県は先行上映、7日公開)、試写会や舞台挨拶、取材などで、全国各地を飛び回っている監督。これまで数々の映画を手掛け、多くの観客の反応を見てきた監督だが、本作でのそれはこれまでとは少し違うらしい。
「この前、舞台挨拶が終わった後にロビーに行って、出てくる人の顔を見てたんですけど、今までにない顔なんですよね。なんかね、笑顔なんですよ。でも、ニコニコではないんだよなぁ。みんな、おだやかなお顔になってるというか。あとね、『ありがとうございました』ってすごく言われて。そんなこと初めてだからビックリしましたね」
映画『殿、利息でござる!』
2016年5月14日(土)公開
監督:中村義洋
出演:阿部サダヲ、瑛太、妻夫木聡、竹内結子、松田龍平、山崎努、ほか
配給:松竹
大阪ステーションシティシネマほかで上映
© 2016「殿、利息でござる!」製作委員会
中村義洋(なかむら・よしひろ)
1970年生まれ、茨城県出身。映画監督、脚本家。成城大学在学中より8mm映画製作をスタート、1993年の『ぴあフィルムフェスティバル(PFF)』で準グランプリを受賞する。卒業後は伊丹十三、崔洋一、平山秀幸らの作品で助監督をつとめ、1999年に自主製作作品『ローカルニュース』で監督デビュー。2007年には、将来性のある新人監督に与えられる「新藤兼人賞」で金賞を受賞。以降、『チーム・バチスタの栄光』(2008年)、『ゴールデンスランバー』(2010年)、『白ゆき姫殺人事件』(2014年)、『残穢 -住んではいけない部屋-』(2016年)などを手掛ける。
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