新旧名作を随所に取り入れた、入江悠監督の「夢」の映画作り

柳広司原作の映画化『ジョーカー・ゲーム』。第二次世界大戦に向けて各国が熾烈な情報戦を繰り広げる中、日本軍の秘密組織「D機関」が奪取を狙うのは、世界の勢力図を大きく塗り替える機密文書。亀梨和也扮するスパイ・嘉藤は、さまざまな十字架を背負いながら闘いに挑んでいく。
メガホンをとったのは、『SR サイタマノラッパー』シリーズでインディー界を無双し、メジャーデビュー作『日々ロック』でも媚びぬ、引かぬのアグレッシブさで突き抜けた入江悠監督。今回のメジャー2作目は、入江監督の少年時代の“映画の夢”に近づくエンタテインメント大作になった。
取材・文/田辺ユウキ 写真/成田直茂
「昔の日本映画の娯楽と、観て育ったハリウッド映画を融合」(入江悠)
──日本のスパイ映画といえば増村保造監督、市川雷蔵主演の『陸軍中野学校』がありますが、本作を観てまず、あの作品が頭にパッと浮かびました。
そうですね。今回、何度も観直しました。『陸軍中野学校』はダークで渋い話ですけど、日本のスパイ映画と言えば・・・という部分がある。『ジョーカー・ゲーム』にはD機関というスパイ養成学校が出てくるので、各スパイ役にはまるで(東映の)「ピラニア軍団」のような味のある昭和顔俳優を配しました。
で、それぞれの役に細かく特殊技能を決めていきましたが、なかでも小出恵介くんの役は「ギャンブル好きでカードの使い方がうまい」ということで、実際にマジシャンのところへ通ってもらって、カードを投げる練習をひたすらやってもらった。『陸軍中野学校』もそうですけど、今回の映画のなかにもスパイの訓練シーンがあります。そういう場面って映画を観ていて一番燃えますよね。
──ですよね、分かります! そして、そんなスパイたちが部屋にたくさんひしめきあっていて、それぞれ何かをやっている。入江監督はやっぱり、ひとつの画のなかで、多くの人を動かすのが好きなんだなあって思いました。
「深作欣二イズム」というか・・・(笑)。あっ、最近、菅原文太さんの追悼で『仁義なき戦い』シリーズの一挙上映があって観に行ったんですけど、やっぱりひとつの画に(人が)ぎゅうぎゅうにいるんですよね。田中邦衛さんとか。そして、キャラが立っている。僕も、『サイタマノラッパー』もそうでしたがキャラが立たないと嫌だし、メインキャラじゃなくてもみんなが目立つ映画が好きなんだなあと改めて感じました。かつての黄金時代の日本映画を意識しましたね。
──ルック的にもかなり渋く作られていますよね。
カメラマンは北野武映画の柳島克己さんなんです。北野映画の男たちって独特の色気があるじゃないですか。今回、そういうものを出したくて、柳島さんにお願いしました。後半の派手な場面も、柳島さんならではの画になっている。『サイタマノラッパー』もくすんだ色をやっていたし、僕はそういうザラザラしている手触りが好きなんです。

──追っ手から逃げるスパイの、そのカメラの追い方も入江さんがいかにも好きそうな移動だった(笑)。『サイタマノラッパー』や『日々ロック』もそうだけど、入江映画のカメラって完全にアクション映画ですし。『ジョーカー・ゲーム』のカメラアクションは、『007 慰めの報酬』『ボーン・アイデンティティー』『Mi:III』あたりを思い出しました。
スパイが屋上を逃げるのはセオリーなので、それがうまくできるロケーションを探しまわりました。世代的にはやっぱり『ミッション・インポッシブル』シリーズのトム・クルーズ主演のリブート版を観て育ってきたので、大きく影響されています。だって普通はスパイって誰にも気づかれずに粛々と任務を進めるけど、トム・クルーズは派手ですもんね(笑)。
そのなかに渋さがあって、そしてスパイ映画として成り立つ。なので、昔の日本映画のおもしろい娯楽作品、そして自分が観て育ったハリウッド映画を融合させたかった。僕自身、いつかハリウッドで撮りたいという気持ちがありますし。
──今回は入江監督にとって初の海外ロケも行っていますし。やっぱりスパイ映画の難しさとして、国内だけでは、物語的にも、ロケーション的にも成立させるのは厳しい。スパイ映画はスケールの拡大が必要ですし。
(スパイ映画は)東西冷戦が終わってから特に国内だけでは難しい。『007』もそうですけど、ソ連崩壊から一時期停滞したじゃないですか。トニー・スコット監督の『エネミー・オブ・アメリカ』くらいになると別格だけど。
『ジョーカー・ゲーム』の撮影の頃、ハ・ジョンウが主演の『ベルリンファイル』が公開されていて、あれも南北朝鮮の話をドイツのベルリンでやっていましたし。スパイは国籍・国境をまたいだ方がおもしろいし、そんなスケール感の中で主人公がひとりでいろんなものを背負い、味方がいなくて、どんどん追いつめられる方が燃える。

──初海外ロケという点では入江監督にとって貴重な体験になったんじゃないですか。だって、エンドロールのスタッフ・クレジットは今までで一番長いですもんね(笑)。
『サイタマノラッパー』の100倍くらい多いかも(笑)。そんな大勢のスタッフがまとまっていったのは、やはり主演・亀梨和也の「新しいものを作ろう」という意思の共有。現場がひとつの塊になっていきました。
──亀梨さんは素晴らしかったです。『ジョーカー・ゲーム』はスパイアクション映画だけど、一方でかなりコアなフェチズム的な映画でもある。それを体現したのが、まず亀梨さん。追いつめられて、肉体も精神もクタクタになっていく。で、象徴的なシーンがいくつかある。まずダニエル・グレイグばりの、亀梨さんの拷問シーン。両腕を吊るされ、上半身を裸にされ、ボロボロの身体をくねらせる。あの見せ方は、入江監督は狙っていたものですよね。
亀梨和也というトップアイドルがどん底に落ち、身ぐるみをはがされ、裸になる。しかも水をぶっかけられる。最初は海外キャストも遠慮気味にやっていたんですけど、「いや、なみなみとついで、思いっきり亀梨君の顔にぶっかけてくれ」と言った。亀梨くんも「役としてそれが生きるなら」という気持ちで、OKをしてくれて。さらに髪をつかまれて、顔を水のなかに突っ込まれたり。まるでジャッキー・チェンの映画みたいに。
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