バンドからソロへ、黒木渚の決意「だって、解散までしたんだから」

3ピースバンドの活動は、2013年末をもって終了。ソロシンガーとして再始動した黒木渚が、その第一弾となるオリジナルアルバム『標本箱』を4月にリリース! ソロ活動への決意をこめた女性への応援歌「革命」をはじめ、さまざまな「女」の世界を11曲で綴ったアルバムを携えての全国ツアー『革命がえし』も5月に決定した。iTunesによるブレイクが期待できる「ニューアーティスト2013」にも選出されるなど、順風満帆に思われたバンド活動を終了させてまで突き進むソロ活動について、黒木渚にインタビューしました。
写真/長谷波ロビン
「代わりに人間的な何かを捨てたのかもしれない・・・」(黒木渚)
──散々聞かれたと思いますが・・・、ニューカマーとして全国的に注目されていたバンドの解散。その後の反応とかはどうでしたか?
すごく残念がっている人やショックだって言ってる人も見かけたし。ファンのリアクションはやっぱり、大きかったですね。そもそも解散したのも、「2年以内に武道館に行く!」って約束してたんですね、ファンのみなさんと。これは夢じゃなくて、約束だと。でも、このままバンドを続けても、2年以内に武道館は行けないって思って。
──約束が果たせないと、と。
そう。絶対にその約束は破りたくなかったから、解散という形をとって、前に進むって決めたんですけど、戸惑っているファンを見ると、やっぱり葛藤が生じるんですね。音楽的な志のための選択だったけど、代わりに人間的な何かを捨てたのかもしれないと。だけど、進むと決めたら進むべきだと。だって、解散までしたんだから。その思いの丈を、今回のリード曲「革命」にすべてを注ぎ込んで。この曲と一緒に、また一から始めようという気持ちでやりましたね。
──このアルバムを聴かせていただいて、今言われた1曲目の「革命」。すべての批判や覚悟を引き受けて解散し、このアルバムを作り始めたんだろうなって。それが容易に想像できて、すごく頼もしかったんですね。この1stアルバム『標本箱』は、11人の女を集めるというのがコンセプトですが、バンド時代の曲も入ってます。でも、この「革命」はバンド時代では絶対にできない曲だと思います。
産まれてないと思います、はい。
──女戦士ジャンル・ダルクと自らを重ね合わせ、ソロ活動の決意表明を高らかに宣言するとともに、バンド解散で意気消沈したファンを導く力強さもあって。「女でいるには強すぎた/でも裸の足は震えた」と言いつつも、その決意に相応しいファンファーレのような1曲だなと。
そう。逞しい女でいたいんだけど、やっぱり臆病な自分もどこかに潜んでいて。それは普段見ないようにしているけど、ソロになったりとか、向き合わなくちゃいけないタイミングが出てきて。そんなとき、ジャンル・ダルクが浮かんだんですよね。彼女は民衆を率いて戦っていた。でも、きっとその前夜はすごく怖かったと思うんですよ、やっぱり女だから。そういう心境とすごくリンクする気がして。
──これが完成したとき、スッキリしたというとおかしいですが・・・。
うん。ホント、スカッとしました。やっぱり言語化できないモヤモヤがすごくあったけど、説明的になるより制限のある文字数の中で想いを詰め込む方が、私の場合は向いてるなって思いました(笑)。みんなそれぞれ、戦っていると思うんですね。春だし、新生活や仕事が始まったり。女の人だったら子育てとかもあるだろうし。自分一人で戦っていかなくちゃというタイミングで鼓舞するための、ファンファーレ的な音楽が鳴ったらいいなって
──で、今回のアルバムは、したたかに生きる女や、孤独に押しつぶされそうな女など、11人のいろんな女性の表情を書かれてます。よく黒木さんがインタビューで言われている「所属感」というキーワード、つまり、他者との結びつきとでも言うんでしょうか。それをこのアルバムで強く感じたんですが、そのあたりはどうですか?
そうですね。11人全員が私の分身で、それぞれの曲に私がいるんです。で、それをリスナーが覗き込んで、これ、私に似てるなって思う女がいたら、それはすでに盤を通して、私とリスナーとの間に共通項があるってことで。そういう瞬間が、「音楽をやっている悦び」でもあるんです。その人が、私のために書いた曲だと思ってくれたことが。所属感というかリンク感というか、間違いなく私のために書いたんだって思ってくれていいし、私も、そういうピュアな瞬間をいただくために音楽活動をしているわけで。
──それって、孤独感や疎外感を知っているからこそ、求めてしまうという側面もあると思うんですけど、そういう風に思うようになった最初のきっかけとかあるんですか?
そうですね。私、中学・高校と軍隊みたいな女子寮に閉じ込められていて。テレビも雑誌もない、時事的なことも流行も全然入ってこない、ホントにすごい学校だったんですね。12歳から人間関係が変わらないまま6年間を過ごすって、純粋培養の無菌マウスみたいなもので。で、たまたま家庭環境に乱れが生じて、一瞬、死ってものが甘美に思える瞬間があったんです。いろいろ悩んだけど、やっぱり生きることを禁じ得ないというか。で、やっぱ死ねないわって思った瞬間に、グルって一回転して、相当ネガティブに思い詰めていたことが、逆転しちゃうんですよね。死ぬ気になれば。
──表裏一体ですからね。
そう。その瞬間に、絶対にとことん楽しんで死ぬって決めたっていうか。もとから持っていたポジティブさじゃなくて・・・。
──追い込まれての、と。
そうなんですよね。生きるための哲学として、ポジティブを編み出したという感じ。今現在悪いループにはまっちゃってる人たちに、がんばれ、がんばれって言っても意味が無いことを知っているんですね。なので楽曲も歌詞がエグかったりするけど、その人たちが見ている泥沼のような絶望を、実は私も見たことがあるよって。だけどね、私はそこから這い上がることが出来たんだ、よければ面白いこと見せてあげるよっていう気持ちが、それぞれの曲から滲み出るといいなって。
──だからか、すごくやさしいアルバムだなって思ったりするんですよね。同じ状況を知っているからこそ作れる応援歌っていうか、辛いことを歌っているけども、でも、そこから未来が見えた人が作っているのがすごく分かるなって。
あぁ、ありがたいです。これからも、『フラフープ』って曲(アルバムに収録)に書いてるような、好き/嫌い/生きる/死ぬの4つって、今まで書いたすべての曲を掘り下げれば、その4つのどれかに終着していくと思ってるんですよ。それって人間が生きていく上で、根本的な・・・なんだろうな?
──理屈じゃないところですよね。
そうそう。答えはずっと出ないけど、生きてる限り、思わずにはいられない4つのテーマであって。やっぱりそこに向けて曲を書いていくんだろうなと思いますね。黒木渚とは何者なんだと、その4つを踏まえて追求し続けていくと思うんですよ。なんで、今後の作品にもそれが反映されてくるだろうし、その作品を発信する立場としては、小難しいテーマかもしれないけど、分かりやすく、最短距離でその人の心に刺さっていくものを作りたいし。なんかどこまでも普遍的なんだけど、たったひとつ、黒木渚という存在になりたいなって思っていて。
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