世の中って悲惨、からなるKERA舞台

日本を代表する人気劇団「ナイロン100℃」を主宰しながら、ミュージシャンや(“有頂天orナゴムのケラ”と聞けば「え、あの!?」となるアラフォーは多いはず!)映画監督としても活躍するケラリーノ・サンドロヴィッチ(以下KERA)。ナンセンスから「シリアス・コメディ」と言われるスタイルまで、あらゆるコメディをやってきたと言ってもいいけれど、どの作品にも必ず達観したような、独特の空気がただよっている。いわゆる「大阪的な笑い」とは全く異なる流れの中にあるその世界観と、常に変化を求め続けたその活動について、幼少時代にまでさかのぼって語ってもらった、単独ロングインタビューです。
取材・文/吉永美和子
自分の姿勢をちゃんと持っていれば、
フィールドを広げることをした方が面白い
──劇作家より「有頂天のケラ」の方のイメージが強い人は、未だに多いみたいですけど、本当に一番やりたかったことは映画だったそうですね。
小学4年ぐらいの時から8ミリ映画を撮ってたんですけど、映画ってお金がかかるから、それに代わる安上がりな何かをやりたくて、高校時代に演劇部に入ったんです。まさかそれで食っていくようになるとは、思いもしませんでしたね。ましてや音楽なんて、やりたくもなかった(笑)。
──えっ!?
軽音楽部にもいたんですけど、ロックなんてうるさいし、カッコつけてるし、大キライだったの。でも卒業してからオリジナルのバンドをやり始めたら、これ簡単だなあと思って。
──いやいやいや、そんな簡単なもんじゃないでしょう?
まあ僕は、演奏なんか上手くなくていい、下手くそな方がカッコいいと思ってましたからね。ナゴムレコードも、テクニック至上主義のバンドはいなかったし。ただ、センスは必須なわけですけど。
──初のソロアルバム『原色』(88年)では、あえて秋元康さんにプロデュースをお願いするとか、確かに特殊なセンスがないと考えつかないですよね。
他人にプロデュースを任せるなら、とんでもない人の方がいいなあというので、当時「おニャン子クラブ」で席巻していた秋元さんにお願いしたんですよ。作詞・作曲に歌謡曲の大御所が入るとか、有頂天ではまずできないことがやれました。
──それに対するインディーズ時代からのファンの反応は?
当時はやっぱり「何で?」という反感の声の方が大きかったです。今で言うセルアウト的なことが、さらに怪訝な目で見られることが多かった時代なので。でも一貫した自分の姿勢を持っていれば、フィールドは広げた方が面白いですからね。それは現代に至るまで、そう思ってます。

──その姿勢は、演劇の方にも現れてますよね。演劇活動初期の「劇団健康」では、かなりアナーキーな作品を作っていたそうですが。
正直、学芸会みたいでした(笑)。今後自分がどうなっていくかわからない不安を抱えてる時って、逆にその不安をまぎらわすために、乱暴なことをしたくなったりするのかな。
──そしてナイロン結成当初は、ナンセンスコメディの名作を次々に生み出していくわけですが、アナーキーとナンセンスの線引きってどこにあったんでしょう?
アナーキーって、ある制度やモラルを壊す表現でしょ。でもナンセンスって、壊すというより超越するってことですからね。
──確かに当時の作品は、物語がどこに向かうか全然わからなくて、笑いながらも大いに不安にさせられるような世界でしたね。
観客を少なからず不安にさせるぐらいが、自分にとっては好ましいんですよ。テーマパークのように「すべてを与えます」みたいなのって、僕は観客に対してすごく失礼な気がする。観る人が想像して補う楽しさって、あるじゃないですか? だからどんなスタイルになっても、観客を安心させきらない感じっていうのはあります。
ナイロン100℃
『わが闇』
作・演出:ケラリーノ・サンドロヴィッチ
出演:犬山イヌコ、峯村リエ、みのすけ、三宅弘城、大倉孝二、松永玲子、岡田義徳、坂井真紀、長谷川朝晴、ほか
日程:2013年7月20日(土)
会場:梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ
ナイロン100℃
シス・カンパニー公演『かもめ』
作:アントン・チェーホフ
上演台本・演出:ケラリーノ・サンドロヴィッチ
出演:生田斗真、蒼井優、野村萬斎、大竹しのぶ、ほか
日程:2013年10月4日(金)~9日(水)
会場:イオン化粧品 シアターBRAVA!
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